[国内事例114] 不動産会社がつなげる都市生活者と里山 ~かやぶきの里プロジェクト~


概要

IMG_1151S 茨城県の筑波山裾野に広がる棚田では、機械耕作に向かない一部を、NPO法人つくば環境フォーラムが中心となり、市民参加で「生きものと共存する米づくり」を行う取り組みが続いていた。この活動に不動産会社大手の野村不動産が筑波山麓グリーンツーリズム推進協議会を通して提携し、マンション住人やオフィスビルのテナント企業などに声掛けして、都市と農村とのサスティナブルな相互扶助関係づくりを目的とした“かやぶきの里プロジェクト”が始まり継続している。
 都市のマンション住人は、子育て世代が多いものの土に触れる機会は少なく、自然との触れ合いに対する欲求度は高い。またオフィスビルに入居する企業も、社員の満足度向上やCSR活動の一環として活用している。都市には、自然と触れ合ったり、社会貢献に参加したいというニーズがある。その一方で、農村部の多くが過疎高齢化の課題を抱え、全国各地で様々な取り組みが行われている。
 本事例は、都市から定期的に多くの人が訪れることで、農村が活性化し、都市住民は自然と触れ合うニーズを満たすことができ、企業は顧客との関係構築や社会貢献活動を通して、企業価値を上げることができる。双方のニーズを上手くマッチングさせ、農村の環境保全の一助を担っている。

 

経緯

 筑波山麓周辺地域では、過疎・高齢化の課題解決に向けて、地元と都市住人との交流を目指して「筑波山麓グリーン・ツーリズム協議会」を2009年に発足させた。発足当初は手探りで活動を行っていたが、そんな折、筑波大学で地域振興などを学び、野村不動産に就職した刈内一博さんが、学生時代の指導教官である筑波大学名誉教授の安藤邦廣先生に「何か出来ないか?」と相談した。
 安藤先生の呼び掛けもあり、筑波山麓グリーン・ツーリズム協議会と野村不動産がタッグを組み、野村不動産が分譲したマンションの入居者が筑波山麓へ訪れ田植えなどの里山体験を行うイベントが、2012年5月に始まった。
 こうした活動は、社内でもなかなか合意が取りにくい。それでも上司から許可を取り付け、理解者を増やすために、CSRツアーと題して、野村不動産の社員約80人を計3回に渡って筑波山麓へ案内し、地域のために汗を流した。こうした地道な努力が実り社内でも理解が進み、現在では野村不動産のCSR活動のメインコンテンツとなっている。

 

運営方法

プロジェクト模式図 都市ネットワークの要になっているのが、野村不動産だ。分譲マンション購入者やオフィスビルに入居する企業に声をかけ、かやぶきの里プロジェクトへの参加を呼び掛けている。
 つくばの要になるのが、筑波山麓グリーン・ツーリズム協議会だ。自治会関係者、農家、事業者などの地元の方々と、事務局を担う(株)里山建築研究所、つくばで環境保全などの活動を長年実施してきたNPO法人つくば環境フォーラム、知的ハンディキャップのある人たちと有機農相に取り組むNPO法人自然生クラブにより構成される。行政としてつくば市、地元の大学である筑波大学が外部から協力している。
 都市農村交流を行うにあたっては、都市と農村の双方に、それぞれの活動を調整するコーディネート団体が必要となる。資金面では、野村不動産が筑波山麓グリーン・ツーリズム協議会に協賛し、活動をサポートしている。なお、都市の参加者については、野村不動産が事業の一環と位置付けているため、参加費などは徴収していない。CSRの部署が本プロジェクトを所管しているが、マンションCS(CustomerSatisfaction)部門、オフィスビル部門が社内費用を分担している。

 

何故:不動産会社が都市農村交流を行うのか?:田舎体験のない子供たちが増えている

image03 一般的にマンションを購入する世代としては、30~40代の子育て世代が多い。団塊ジュニア世代とその少し下の世代だ。現在都市で暮らすこの世代は、その両親が高度経済成長期に都市部に移住した団塊世代となる。団塊ジュニアそのものは、子供の頃に両親の実家に遊びに行った経験があり、農村に居住した事はなくとも豊かな自然と触れ合うことができた。

 しかし、現代の都市に暮らす子どもたちは、その親世代に比べ農村体験が乏しく、いわゆる「田舎」がない(右図参照=クリックで拡大)。そうした世相を反映してか、テレビでも田舎をテーマにしたものも多く、人気も高い。環境教育では、子供の発達段階に応じた様々な自然体験が必要とされている。一世代前の子供であれば、自然体験を持ちやすい社会状況にあったと考えられるが、現在ではかなり意識して機会を作らないと、十分な自然体験を子供に与える事は難しい。
こうした時代背景もあって、マンション購入者の大半を占める「都市移住2世=団塊Jr」にとっては、自分の子どもたちに自然と触れ合う体験をさせてあげたい、というニーズが高い。しかし一方で、自分が子供の頃に体験した事を、我が子に提供できないというジレンマがある。都会3世の子供達にとっては、「第二の故郷づくり」というよりも、そもそも故郷的な田舎がないので、「新たな田舎作り」であるとも言える。
野村不動産としては、商品開発の一環として、これまでにない付加価値を提供する事で、他社との差別化を図ることができる。一方、地域づくりのような長期的な取り組みは、従来のCSR(Corporate Social Responsibility=企業の社会的責任)の概念では永続性が担保し難く、営利目的の民間企業として、つくばの人たちと共に共通の価値を創造していくCSV(Creating Shared Value=共通価値の創造)の概念が必要となる。こうした姿勢や取り組みに対する社会的価値が評価されて、2013年度グッドデザイン賞で社会貢献活動はじめ3カテゴリーで同時受賞し、グッドデザインベスト100にも選ばれている。

実施状況

IMG_1152S 2014年9月、総勢約120名の都市生活者が3台のバスに分乗し、首都圏から筑波山麓へやってきた。小学校低学年の子供連れの家族が多く、とてもにぎやかだ。会場に着くと着替えを済ませ、みんな集合したところで本日の作業の説明に入る。参加者は、野村不動産からの呼び掛けに応じたマンション入居者で、最近は本プログラムが浸透してきたこともあり、募集をかけるとすぐに定員に達し、抽選で参加者を絞っているそうだ。里山体験イベントは年2回、初夏の田植えと秋の稲刈りを実施している。参加者は鎌を持ち、稲を手で刈っていく。稲刈りは家族全員初めて、という人も多く、中には外国の方もいる。
 当日の運営は、筑波山麓グリーン・ツーリズム協議会が中心となり、都会からの筑波山麓までの案内は野村不動産が行っている。田んぼの体験活動を企画運営するNPO法人つくば環境フォーラムのほか、現地の農家さんなども手伝いに来てくれる。また「里山マルシェ」と称して地産地消の食材を中心としたパンや赤飯、かき氷などを地域の方が販売している。地域としてはコミュニティビジネスが推進され、都会からの参加者は、貴重な地元食材を食べる機会となる。
 「野村不動産エコ田んぼ」は27a(約8千坪)あるため、一日で全ての作業は終わらない。残りの作業は、地域の農家の方やNPOスタッフが作業を行う。収穫した新米は後日、イベントに参加した各家庭と東日本大震災の被災地へ届けられている。

目指すは“里山文化”の継承と“縮小社会を迎える日本のリデザイン”

 農村部の高齢化と後継者不足は、日本全体に共通する地域課題だ。どこもこのテーマで悩みを抱えている。一企業が、この課題解決のプレーヤーとして、どのように関わりを持つようになったか、かやぶきの里プロジェクトの仕掛け人の一人である、野村不動産の刈内一博さんにお話を伺った。
 かやぶきの里プロジェクトの発想の源泉は、刈内さんが「都市と農村交流の仕組みづくり」を筑波大学時の卒業研究のテーマとしていたことにある。この研究が評価され大学で最優秀賞にも選ばれたが、机上のアイデアに過ぎなかった。卒業後、野村不動産に就職し分譲マンションの企画などを行っていたが、勤めて7年ほどした時に商品開発部に異動した。それを機に、かつて研究したテーマを実践に移すべく、つくばでの取り組みを開始した。大企業で前例のない取り組みをするのは難しく、社内の理解が得られるまでに時間が掛かったが、支援者を増やす地道な広報活動やグッドデザイン賞を受賞したことで、社内でも支援の輪が広がっていった。
すそみろく 刈内さんが筑波山麓との関係をスタートさせるのに重要だったのが、地域の中を繋げる筑波山麓グリーン・ツーリズム協議会の存在だ。この協議会には先祖代々地元で暮らす人のほか、事務局の機能を担っているのは、他地域から移住してきた「ヨソモノ」だ。通常、こうしたヨソモノと何百年も地元で暮らしてきた人たちとの融合は難しいが、その垣根を取り払ったものの一つが、「すそみろく」という筑波山麓地域情報紙だ。「すそみ」とは雄大な筑波山を望む田井地区(旧田井村)の愛称で、それまでに地域資源活用ワークショップ、「お宝発見!マップ」、案内人養成講座など地域の魅力を再発見する試みがなされてきた。「すそみ」で暮らす人々と「すそみ」の魅力に惹かれて集った人々で編集部を立ち上げ、「すそみ」の土地や行事などを取材する中で、ヨソモノと地元の方の深い交流が進んできた。その関係性があったからこそ、協議会を立ち上げる事が出来た。NPO法人つくば環境フォーラム代表の田中ひとみさんが編集長を務め、2006年から継続して発行してきた。「すそみろく」は現在、協議会が発行する情報誌という位置づけに代わり、協議会の事務局である里山建築研究所が中心となって発行している。
 つくば市田井地区で長年続いてきた、人と自然が密接に絡んだ里山文化も、高齢化と後継者流出で存続が危ぶまれていた。しかし、企業の取り組みとして都市から定期的に多くの人が訪れ、それを受け入れるネットワークが地域に存在することで、新しい形で里山文化を引き継ぐことが可能なのではないだろうか。かつては、地域内で全てが循環してきたが、地域の担い手の減少により、それが難しい状況を解決するには、外部から人を入れてくるというのも一つの方法だ。刈内さんの言う“縮小社会を迎える日本のリデザイン”とは、これまでのものを完全にそのまま踏襲するのではなく、社会情勢などに合わせて少しずつ変容させながら、受け継がれた“里山文化”を後世に伝えていくことに他ならない。
 また、農業者の高齢化によって放棄されつつある生産性の低い田んぼでの耕作を継続し、都会の子供たちが生きものに触れ合う場所として整備することで、地域の生物多様性の保全も図られる。それも、そういう田んぼの価値を認めて、手間を含む費用を負担してくれる仕組みがあるからこそ実現可能となるのである。
 本事例のような「都市農村交流」はどんどん行われて欲しいと思う。日本全体の社会構造が変化する中、例えば農村の景観や自然環境、里山文化の担い手として、今回のように都市の人が入って活動を共に行う日本のリデザインは益々重要になる。同業他社、他業種問わず、こうした活動が波及して欲しいものだ。

 

 

カテゴリ

■事業協力・事業協定

テーマ

■生物多様性・自然保護 ■ソーシャルビジネス・CSR

関係者(主体とパートナー)

 

取材:伊藤博隆(関東地方環境パートナーシップオフィス)

2015年2月