「環境パートナーシップ」の国際枠組み勉強会 Vol.1

開催概要

|日  時| 2023年9月15日(金)14:00~15:00
|場  所| オンライン
|講  師| 大久保規子氏(大阪大学大学院法学研究科教授/EPO等運営委員)
|参加者数| 12名

次第

1.環境パートナーシップの国際的な捉え方について
2.1.と日本との関係性について
3.海外の中間支援組織の運営について


当日の資料

1.環境パートナーシップの国際的な捉え方について

環境パートナーシップの最も基本的な捉え方として、1992年のリオ宣言の第10原則が挙げられます。ここでは、環境問題の解決にはあらゆる主体の参加が必要であるとされ、市民参加、情報アクセス、司法アクセスの権利が定められています。 リオ宣言

第10原則の市民参加を具体化する条約として、1998年に「オーフス条約」が採択、2018年には中南米の地域条約として「エスカズ協定」が採択されました。その間に、オーフス条約未加盟国への立法ガイドラインであるパリガイドライン(2010年)があったり、SDGs(2015年)もあったりします。ちなみに、日本ではパートナーシップ=ゴール17である言われることが多いですが、国際的にゴール17はグローバルパートナーシップを指すのであって、今日お話しするような環境パートナーシップはゴール16の話題として整理されるのが一般的です。

オーフス条約の正式名称は「環境問題における情報へのアクセス、意思決定への市民参加及び司法へのアクセスに関する条約」ですが、一言で言えば「環境分野の市民参加条約」と考えてください。オーフスは条約の採択地名(デンマーク)であり、1998年に国連欧州経済委員会の枠組みで採択されました。現在はEUに限らず、中央アジアやアフリカを含む47の加盟国で構成されています。気候変動枠組条約や生物多様性条約のような分野別条約と異なり、情報アクセス権、決定への参加権、司法アクセス権の保障のための条約であり、いわゆる横串の条約と言えます。非加盟国である日本にも関係がないわけではなく、例えば日本も関係しているPRTR(化学物質排出移動量届出制度)議定書はオーフス条約の枠組みのもとにできたり、パリ協定の採択プロセス、生物多様性条約における名古屋議定書など、分野別条約とも密接な関係にあります。

エスカズ協定は、オーフス条約の3つの柱に、「環境・人権擁護者の保護」「キャパシティビルディング」の2つの柱が加わった南米の地域条約になります。キャパシティビルディングの冒頭に位置付けられているのは、参加を促進するにあたっての公務員のトレーニングの必要性です。まず、参加の重要性を公務員が理解する必要あるというのはとてもユニークな考え方だと思います。

これら市民参加条約の運営上の特徴として、誰でも会合に参加し発言が可能であり、誰もが条約違反に対して遵守委員会に通報することができます。また、NGOが遵守委員会委員候補の推薦が出来たり、運営会議へのオブザーブ参加も保障されています。

また、オーフス条約のタスクフォースの最近の論点として以下のトピックがあります。日本と共通の課題について議論していることがわかると思います。タスクフォースにも、登録さえすれば誰でも参加できます。最近はハイブリッドで開催されることも多いので、日本からも視聴できて便利です。
・環境情報をどのように統合・オープンデータ化するか
・ITを市民参加にどのように活用するか
・迅速性と実効的な参加をどのように両立させるか
・参加の前段階として、どんな参加の仕方あるのか。プロアクティブな参加をどのように促進させるか

2.1.と日本との関係性について

1992年のリオ宣言を受け、1993年に公布施行された環境基本の第4条に「すべての者の公平な役割分担」が位置づけられました。同年1993年には、GEOCに先立ち、ボランタリーな取組みに対する支援として地球環境基金が設置されました。その翌年の1994年には環境基本計画の4つの中期目標の一つに「すべての主体の参加の実現」が明記されました。さらに1996年には環境パートナーシップが環境省の重点事項になり、「環境パートナーシップの構築に向けて」が発刊されました。ここでは、「環境教育・環境学習」「情報基盤の整備」「環境保全活動促進拠点」「環境にかかわる意思決定への市民参画」が4つの柱であると整理されています。また、同年GEOCが設立された時のパンフレットには、「対等・平等の関係」「情報の共有と意思決定への参加」「公平な役割分担」の三原則が記載されていたというのが国内における1990年代の環境パートナーシップの展開になります。

他方、国際的には、アジェンダ21を受けて、「持続可能な発展のための国民評議会」を作ろうという動きあり、日本でも「持続可能な開発日本評議会」(JCSD)が立ち上りました。当初は各セクター(行政・NGO・企業)から共同議長が選出され、各セクターのハイレベルが評議員として参加していました。ここでは、例えば地球温暖化問題に対するアジェンダセッティングレベルでの政策対話などが行われていましたが、様々な経緯があり、現在にその枠組みは残っていません。

その他ですと、ヨハネスブルクサミットにおけるESDの提案もあり、2003年に「環境の保全のための意欲の増進及び環境教育の推進に関する法律」が議員立法でできました。2011年に改正法である「環境教育等により環境保全の取組の促進に関する法律」となりましたが、EPOはこの法律に位置付けられている拠点ですね。

3.海外の中間支援組織の運営について

国際的に有名なものとして、ハンガリーに拠点を置く地域環境センター(REC:Regional Environmental Center)があります。もともと年間予算30億程度で、アメリカやEU、スウェーデンなどが拠出しており、日本も資金支援していたことがあります。協働推進や環境教育プログラムなどを実施している組織です。その他に、オーフス条約の理念を広げるため拠点として、東欧を中心に60以上存在しているオーフスセンターがあります。

欧州のNGO

力を持っている海外のNGOの連合体として名前があがる、欧州160団体で構成されるEEB(欧州環境事務局)は、EUの政策に対するNGOからの意見を取りまとめる機能を担っています。欧州と日本の大きな違いは、これらNGOの連合体は、多様な意見を取りまとめるというパブリックな役割を背負っているため、運営資金も公的に負担されるべきであるという考え方があります。EUレベル、各国レベルで、NGOの連合体には公的資金が投入されており、数年前のデータによれば、EUレベルでは年間約16億円が運営助成として、オフィスの賃料、事務局人件費等、プロジェクト助成費では賄えない費用を賄うために提供されています。

ドイツのノルトライン=ヴェストファーレン州の場合は、1982年からNGOの共同オフィスが設置されており、州BUND、州NABU等の3団体が運営しています。ここには、州が年間約9,000万円を助成しています。このオフィスの役割は、参加の情報提供やNGOの意見調整をすることにあり、参加マニュアルを作成・配布したりもしています。その他にも、同州は、40カ所のエコステーションそれぞれに毎年約3000万円を助成しています。政策参加のための費用を政府が負担するという考え方が参加の仕組みの中にきちんと位置づけられているということは、とても重要なことだと思います。

(以上)