[国内事例101] 企業との協働で世界文化遺産地域を守る ~富士山周辺地域~ 2014年3月25日

 

概要

 「富士山」(山梨県、静岡県)は、言わずと知れた日本一の標高の山であり、平成25(2013)年にカンボジアのプノンペンで開催されたユネスコ世界遺産委員会で、「富士山―信仰の対象と芸術の源泉」として世界文化遺産に登録された。周辺を樹海と呼ばれる森で覆われ、豊かな自然を形成しているが、首都圏からも近く、登山客が開山時期の7、8月だけで30万人も集中する。違法業者によるごみの不法投棄なども多く、大消費地から近い故の課題も多い。特定非営利活動法人富士山クラブは、企業のリソースを活用する仕組みを構築しており、今回は日本を代表する山である富士山を、NPOと企業が協働で守る取り組みについて紹介したい。

経緯

 富士山クラブは「美しい景観と豊かな自然を育む富士山が、同時に多くの環境問題を抱え病んでいる実態を、一人でも多くの市民に知ってもらう」ことを目的に、平成10(1998)年、市民によって設立された。平成11(1999)年には静岡県三島市や東京都港区に事務所を開設するとともに、NPO法人格を取得(NPO法成立は平成10年秋)している。活動初期には、シンポジウム、富士山クリーンコンサートなどイベント、登山客のトイレの垂れ流しの問題解決のためのバイオトイレの設置、エコツアーなどを実施した。毎日新聞創刊130年記念「富士山再生キャンペーン」とも事業協賛を行い、テレビなどで富士山のトイレ問題を知った人も多かったのではないだろうか。また、修学旅行生向け「青木が原樹海エコツアー」も行い、ピーク時は年間2万人以上を受け入れるなど重要な収入源でもあったが、オーバーユースにより自然に大きな負荷をかけることから、エコツアーを中止し清掃活動を実施する事とした。
 当初は清掃活動が理解されなかったが、地道な活動を続けていった結果、市民や企業のボランティア活動としてしっかりと定着していき、年間6千人以上が参加する活動にまでになった。これが現在の活動の礎となっている。

実施状況

 富士山クラブでは現在、富士山周辺地域の様々なボランティアコーディネートを実施している。主な活動は下記の通り。
※詳細は右の冊子をクリック

〇環境保全
├清掃活動
├外来植物駆除活動
├森づくり活動
└竹林整備活動(新規活動)
〇環境学習
├フィールドでの自然体験活動
│  1.トレッキング
│  2.オプションプログラム
└講演会・出張授業

 様々なプログラムの中でも、企業との協働で実施するのが「清掃活動」だ。観光客の持込みゴミ、産業廃棄物の不法投棄など、残念ながら適正な処理がされていない廃棄物も多く、美観維持・環境保全のためには定期的な清掃活動が必要となる。地元の人だけでは人員が足りない事もあり、そこで首都圏を中心とした企業や学校などの参画を得て、清掃活動を実施するのが本プログラムだ。
 企業など他所から来る団体にとっては、土地勘の無い場所ではガイドが必要となるし、集めたゴミの処分にも困る。富士山クラブでは、参加団体の規模や希望に見合った清掃ポイントの選定、事前下見、土地管理者との調整、集めたゴミの処分方法、清掃用具など備品の準備、当日のガイドと安全確保など、清掃活動を実施する際に必要な手続きの一切をコーディネートする。

 

富士山クラブによる企業コーディネートの例 (写真提供:富士山クラブ)

 集めたゴミの処分費用については、環境省が実施する「グリーンワーカー事業」(国立公園等民間活用特定自然環境保全活動事業)による資金を活用したり、地元自治体が回収する場合もある。清掃中にタイヤなどの産廃が出てきた時などは、ボランティアとして参加する企業が処分費用の負担を申し出るケースなどもあるそうだ。富士山麓の環境を保全しようという思いが共有され、NPOと企業の双方にとってWin-Winな関係だと言える。

ポイント

 NPOが公益のために活動をするには、専門的に事業を実施するスタッフの存在が欠かせない。ボランティアスタッフのみで活動を行う団体も多いが、より大きな成果や社会的責任を果たしていくためには、NPOの側もプロとして専門的に活動できる有給職員が必要になってくる。NPOの活動資金は、①会費、②寄付、③自主事業、④補助・助成、⑤受託の5つが主なものと言われる。助成金頼みの団体も数多く存在するが、獲得のハードルは高く、審査に落ちれば資金が続かない。可能であれば、会費、自主事業など、他に依存しない自律的資金が多いほど活動の自由度も高まり、よりミッションに忠実に行動することが可能である。NPOにとっては企業のボランティアのコーディネートをすることで、多くのボランティアの確保も出来るとともに、コーディネートの費用を得ることで、資金的にも安定することが出来る。こうしたNPOと協働のスタイルは、今後も増えていくことだろう。
 富士山麓周辺地域の目下の課題としては、前述したように夏場の観光客の持ち込むゴミの多さだ。現地以外の場所から持ち込まれるゴミを減らすため、コンビニなどでもゴミ箱が店内にしかないそうだ。いくら清掃をしても、排出されるゴミが多いままでは、イタチごっこが続いてしまう。富士山クラブとしても、ゴミのクリーンアップだけではなく、域外からのゴミそのものを減らす事にも、今後は力を入れていきたいそうだ。

 

環境分野

■森林保全 ■生物多様性・自然保護 ■ごみ・3R・資源の循環 ■エコツーリズム

協働方法

■事業協力・事業協定

関係者(主体とパートナー)

  • 特定非営利活動法人富士山クラブ
  • 富士山周辺地域自治体
    山梨県
     富士吉田市
     富士河口湖町
     身延町
     鳴沢村
     忍野村
     山中湖村
    静岡県
     御殿場市
     裾野市
     富士市
     富士宮市
     小山町
  • 環境省

 

取材:伊藤博隆(関東地方環境パートナーシップオフィス)

2014年1月