[国内事例90] 「Newport竜神の森ドネーションプログラム」 ~ 津南町の地域資源を活かそう~ 2013年4月1日

概要

 新潟の山間部に位置する津南町は日本有数の豪雪地帯。豊富な森林資源と名水の里として知られ、野鳥や希少動物たちが数多く生息する大自然の環境に恵まれています。しかしながら日本の他の山間部と同様、高齢化、過疎化の問題を抱えている地域のため、森林整備をするにも地域だけで人材を確保し、費用を負担していくことが難しく、このような自然環境を守っていくことは容易ではありません。このような中、津南町に関わる様々な立場の人・組織が持続可能な地域として津南の未来を描こうと立ち上がり、地域資源を活用した多様な取組が始まっています。越後妻有地区(新潟県十日町市・津南町)で3年に1度開催される大地の芸術祭もその一つで、50日間で約40万人もの人々が小さな集落に集まる一大イベントですが、今回はその芸術祭を契機に津南町とのつながりを深めたKEEN Japan(伊藤忠ホームファッション株式会社)が始めた名水を守る森林保全活動“Newport竜神の森ドネーションプログラム”(以下、ドネーションプログラム)を紹介します。

本ドネーションプログラムは津南町の名水百選にも選定されている竜ヶ窪池の近くをフィールドにした森林吸収型のカーボン・オフセット“苗場山麓 竜神の森プロジェクト”(以下、プロジェクト)との提携事業で、KEEN創業モデル“Newport”の売上げのうち一足あたり100円※をオフセット・クレジット購入に充て、森林保全に活かしていくユーザー参加型のプログラムです。KEEN Newportブランドマネージャーの高木氏は「KEENのブランドコンセプトは、異なるものを融合して新しい物を生み出すハイブリッドであり、創造的な商品を作り、そこから得られた利益を社会に還元し、地元の方たちとつながることでKEENらしい活動ができる」と述べ、このドネーションプログラムがKEENのユニークかつソーシャルなマーケティング手法に合致していることが分かります。KEEN Japanでは他にも津南モデルの販売や越後妻有DEAI &ART TRAIL(トレッキングコース)の開発など、芸術祭の時期以外も津南町と関わる様々な協働事業を展開しています。
※CO2削減量に換算すると約10kgで、サッカーボール1000個分の体積に相当。

経緯

 名水百選にも選定された津南町の竜ヶ窪の池は毎分30トンもの豊富な湧き水が湧き、1日で池の水が入れ替わると言われています。2010年、新潟県津南町森林組合は水源涵養と持続可能な森林経営を目指して、この自然豊かなフィールドを舞台に本プロジェクトを立ち上げ、2012年3月に新潟県版J-VERを取得しました。その後、オフセット・クレジットの購入を促進している4CYCLE社が大地の芸術祭を契機に、KEEN Japanを本プロジェクトへの提携に結びつけましたが、同社はKEEN Japan以外にも様々な企業との連携に取り組み、現在、自治体、NPO含め様々なサポーター/パートナーが関わっています。

今後の展望


 森は人が手を加えることで活性化し、経済的価値も生み出しますが、カーボンオフセットの手法を採用することで補助金では難しい継続性が期待できる一方、地域周辺では、生物多様性の観点からはスギ林の単一樹種ばかりが増えることは必ずしも望ましくなく、広葉樹への樹種転換を推し進めていきたいという意見も少なくありません。重要なのは、森林の維持・管理・利用を流域や地域全体で考え、様々な手法を組み合わせていくことです。来年度以降の森林組合の事業として、プロジェクト周辺地域の地主さんと調整しながら空地に広葉樹の植樹を行っていく予定ですが、スギ林とスギ林の間にスポット的にでも広葉樹を配置し、“緑の回廊”が整備されて多様な野生動物が移動できれば、生物多様性保全につながります。
 津南町には300㎞ものスノーカントリートレイル(津南町含め7市町村)があり、そこには大自然を楽しめる森林セラピーロードやトレッキングロード、温泉やパワースポットなどの文化・観光資源が豊富ですが、現在、これらをトレイル沿いの町や市と有機的につながりながら活用するというエコツーリズム構想が持ち上がっています。エコツーリズムによって、より多くの人が森林を訪れるようになれば、地元の林業、観光業などを中心に地域活性化につながり、環境と経済に好循環がもたらされることが期待されます。
 今回の事例は津南町を舞台に活動していた様々な主体が大地の芸術祭という一つのイベントを契機につながったことで生まれたプロジェクトですが、津南町は今も様々な主体者が新たな協働事業を模索中です。関東EPOでは引き続きフォローしていきたいと考えています。

関連情報

 平成25年1月16日に~森と現代アートと企業のつながりの先にどんな未来がみえるか~と題して津南の未来シナリオを考えるフューチャーセッションが地球環境パートナーシッププラザ(GEOC)で開催されました。本セッションでは津南町に関わる人のみならず、同様な取組に興味・関心がある方や各地域で実践される方々が参加され、津南町の情報と課題の共有を行いました。 ※参加者は下記関係者(主体とパートナー)を参照。

協働方法

■事業協力・事業協定 ■実行委員会・協議会

環境分野

■森林保全 ■生物多様性・自然保護 ■エコツーリズム

主体とパートナー

□主体
4CYCLE
□パートナー
・KEEN Japan(伊藤忠ホームファッション株式会社)
・魚沼地域オフセット・クレジット活用推進協議会事務局(津南町森林組合内)