持続可能な開発セミナー第1回「全体にかかる基本的勉強会」 2012年1月14日

GEOC連続セミナー

■「持続可能な開発」セミナー基本編 第1回「全体にかかる基本的勉強会」

  • テーマ:今あらためて考える~ヨハネスブルグサミットのフォローアップから地域活動まで~

    ○講演要旨:テーマ「ヨハネスブルク・サミットからの出発」
    講師:松下和夫氏(京都大学大学院地球環境学堂教授)


 
2002年に南アフリカで行われたヨハネスブルク・サミットの目的は何だったのだろう? 現在の地球環境問題を考える場合も歴史的な流れを押さえる必要がある。軍事、経済、政治の問題と比べ、環境や人道といった問題はどうしても軽視されがちだが、国連では1990年以降、そうした問題に関してさまざまな国際会議が開かれている。その先駆けが1992年のリオ・サミットであり、それから10年後に開催されたのがヨハネスブルク・サミットだ。ヨハネスブルクでは、21世紀に向けた新しい世界像を提示することが期待されたが、結論から言えば不十分であった面は否めない。ここでストックホルム会議以降の流れを見てみよう。

 

●ストックホルム会議からリオ・サミットへの流れ
1972年、スウェーデンのストックホルムで「国連人間環境会議(通称ストックホルム会議)」が開かれた。当時は、先進国で産業公害が深刻化しており、環境問題は先進国の問題ととらえられていた。途上国からは「開発が遅れていること自体が最大の環境問題」という見方もあった。そうした中で開かれたこの会議の成果としては、人間環境保全の基本理念を定めた「人間環境宣言」と、環境改善のための国際的行動を勧告に盛り込んだ「行動計画」が採択されたことだ。また、国連で環境問題を取りまとめる機関として「国連環境計画(UNEP)」が置かれることとなった。日本でも環境庁ができ(1971年)、先進国の多くに環境関連の省庁ができるようになったのもこの時期である。
1980年代、オゾンホールの発見、アメリカでの旱魃、チェルノブイリ原発事故など地球規模の環境問題が目立ってくる中、「環境」と「開発」は対立概念ととらえられていた。1984年に国連に設置された「環境と開発に関する世界委員会(通称ブルントラント委員会)」は1987年、Our Common Future(邦題「我ら共有の未来」)を発行。「持続可能な開発」という概念を提唱し、その後の地球サミットでもキーワードとなった。持続可能な開発とは、「将来のニーズを損なうことなく現在の世代の必要性を満たす」という考え方であり、先進国、途上国両方が受け入れられる概念であった。

●地球サミットの成果とその後
ブラジルのリオデジャネイロで1992年、「環境と開発に関する国連会議(UNCED)」(通称「地球サミット」)が開催された。当時は冷戦構造が崩壊する過程であり、「平和の配当」(軍事費を環境や開発にまわす可能性)による将来に対する期待感があった。政界のリーダーたちも地球環境問題を重要な国際的課題として取り上げる雰囲気になっていた。もちろんこの時も先進国対途上国間の議論があり、特に両者の責任の分担をめぐって激しい議論があった。具体的には途上国は先進国に技術、資金の移転を求め、先進国側は途上国の人口増加、経済発展(生産、消費パターン)に応じて、途上国に対しても一定の負担を求めたのだった。
こうした議論の中での最大の成果は、具体的な行動計画である「アジェンダ21」と、それを実施する際の基本的な考え方(「汚染者負担原則」「共通だが差異のある責任」「予防原則」など)を示す「環境と開発に関するリオ宣言」が採択されたことだ。気候変動枠組条約、生物多様性条約への多数の署名が得られたことも成果として挙げられる。
また、リオ会議においては準備プロセスがオープンであったことも評価される。NGO、地方自治体、産業界も、準備段階を含めプロセスに参加できる機会があった。さらに、ストックホルムでのフォローアップが弱かったという反省点を踏まえ、「持続可能な開発委員会(CSD)」が作られ、毎年アジェンダ21を点検する仕組みが整備された。
ただし、資金の移転に関して最大の問題点が残った。国連開発計画(UNDP)、UNEP、世界銀行を実施機関とする、地球環境保全に関する開発途上国などへの主要な資金メカニズムとして、国際的な協力とそれに伴う資金の流れを活発化させることを目的に地球環境ファシリティー(GEF)ができたものの、額が小さく不十分に終わってしまったのだ。
地球サミットを機に日本でも環境基本法などができ(1993年制定)、さまざまな条約もできたが、それにもかかわらず、実際に地球環境問題(砂漠化、森林減少、衛生的な水の不足、気候変動など)は、悪化の一途をたどっている。気候変動に関して言えば、京都議定書ができて6年になるがまだ発効していない。ODAをGNPの0.7%まで引き上げるという約束も守られていない。特に、アフリカ、南アジアの絶対的貧困層の数はむしろ増えている。また新しい問題としてグローバリゼーション(世界経済の一体化)がある。これによって恩恵を受ける人がいる一方で、市場経済の進行によりかえって格差が広がるという問題が生じている。

●ヨハネスブルク・サミットとは何だったのか?
こうした中、リオから10年を期して「持続可能な開発に関する世界首脳会議会議(WSSD)」(通称「ヨハネスブルク・サミット」)が行われた。このサミットは新しい考え方を打ち出すというよりは、行動指向型(既に採択されているアジェンダ21の実施をどう促進するか)であった。最終成果は、各国首脳の決意を示す「ヨハネスブルク宣言」、アジェンダ21の実施を促進するための合意文書である「ヨハネスブルク・サミット実施計画」、自ら意欲のある国などが国連の基準に従って、提案や決意表明を宣言・登録する「タイプ2パートナーシップイニシアティブ(約束文書)」にまとめられた。この約束文書には300近くのイニシアティブが出され、新しい取り組みとしてどこまで進展するか注目される。また、京都議定書と再生可能エネルギーに関しても議論が集中した。
個々に見ると従来の取り組みをさらに進める枠組みができたものの、国際的に見ると米国の消極的態度もあり、リオほどのインパクトはなかったと言われている。環境破壊の趨勢をとどめ、持続可能な発展を確かにするための具体的な方向転換に合意し、高度な政治的意思を結集するものとはならなかったといわざるを得ない。
サミット後、CSDで2年ごとのサイクル(レビュー会合と政策会合)で点検を行っている。CSDにどれだけの政治的影響力があるか、また、その勧告が各国で実施されるかは、今後も注意して監視する必要である。また、個別テーマとしては、世界水フォーラム、京都議定書発効問題(ロシアの動向、EUの排出権取引市場の実施)、自然エネルギー2004国際会議(自然エネルギーの大幅拡大)、「持続可能な開発のための教育の10年」などの動きが注目される。

●重要なローカルな取り組み
地球環境問題は世界的・歴史的に見る必要があるが、環境問題に取り組む基本単位はローカルな取り組みである。国よりも地域などできるだけ身近なところでの自主的決定とイニシアティブが大切である。グローバリゼーションの問題のひとつは、自分たちにかかわりないところで政策が決まってしまうことにあり、この弊害を解消するには、地域で人・金・資源・技術が循環し、各地域で政策実験を行う過程が必要である。そのサポートを政府が担うのが望ましい。その際に、情報公開と透明性の確保が肝要である。これらを通しての環境民主主義がこれから重要となっていくことであろう。


○関連サイト・資料

      ◆ヨハネスブルグ・サミットについて

 

◆「持続可能な開発」について

◆関連国際機関

○参考文献

  • 『ヨハネスブルグ・サミットからの発信』(環境省地球環境局編集協力、エネルギージャーナル社発行)定価2500円 問い合わせ ㈱エネルギージャーナル社(Tel. 03-3359-9816)
  • 『アジェンダ21-持続可能な開発のための人類の行動計画』(国連事務局監修、環境庁、外務省監訳/エネルギージャーナル社/1993年/3,399円)
  • 『アジェンダ21実施計画―アジェンダ21の一層の実施のための計画』(1997年国連環境開発特別総会採択文書)/環境庁・外務省監訳/エネルギージャーナル社/1997年/3,333円)
  • 『ヨハネスブルグ・サミットの風~NGO・市民の活動のあしあと~』(ヨハネスブルグ・サミット提言フォーラム発行/2003年)
  • 『環境ガバナンス』松下和夫著(岩波書店/2003年/2,600円)
  • 『環境政治入門』松下和夫著(平凡社新書/2000年/680円)

Seminars on Sustainable Development

グローバルな課題を理解し、各地域・各テーマでより効果的に活動するために

各地・各団体の環境保全活動は他の活動や「持続可能な開発」という概念とどのような連関性を持っているのでしょうか。今回の一連のセミナーは、グローバルな流れと地域活動のつながりを見つけるために企画しました。国連を中心に取り組まれてきた地球規模での動き(歴史やヨハネスブルグサミット、その関連の条約)などについてまず捉え、また各団体の具体的活動とその連関性はどのようになっているか考え、各団体活動の位置や使命を再確認することを目的としています。これによって環境・開発問題に関してのさまざまな視点を養い、また連携やさらなる発展の可能性を見出すことが期待されます。

*用語解説は主にEICネットのホームページにリンクしています。