【報告】EPOラヂオ・持続不可能な私たち 社会と文化と環境と…vol.1(2/22) 2021年3月31日

第1回 NewNormalな社会がもたらす光と影

〇日時:令和3年2月22日(月)19:00~21:00

〇方法:オンライン開催(Zoom)

〇参加者:23名

〇主催:関東地方環境パートナーシップオフィス(関東EPO)

○内容

1.オープニングトーク 

  ・EPOからの話題提供:「環境パートナーシップってなんだ?」
  ・出演者紹介

2. 徒然ピッチトーク「様々な“クライシス”に際して、思うこと」

  ・それぞれがこのコロナ禍で感じていること

3.リスナーからのおたより紹介

4.フリートーク 

内容

1.オープニングトーク

2020年もいろいろな出来事がありましたが、やはり一番は新型コロナウイルスの感染拡大は、みなさまの生活や活動、お仕事に多くの支障や危機感をきたしていると思います。それと合わせて、コミュニティ、環境、文化人類学など違う角度から社会を見ていきたいと思います。

2015年に登場した「SDGs」は、瞬く間に企業セクターを中心にブームとなりましたが、その背景にあるのは、「持続不可能な私たち」の在り様です。コロナ禍が再び、「持続可能性ってなんなんだ?」という問いを、私たちに強く突き付けているのではないでしょうか。

この番組では、「持続可能な社会の構築」というミッションを背負う実践内容から、ゲストと共にそのポイントを紐解き、今私たちが共有すべき論点を探ります。

 

2.徒然ピッチトーク「様々な“クライシス”に際して、思うこと」

 

五井渕:

・自分の暮らしで持続不可能だなと感じたのは、コロナ禍の昨年5月のことです。当時、東京で妻と2児の娘の子育てをしており、3月中旬から自主的ロックダウン育児を始めましたが、その生活に限界がきたのが5月でした。核家族の孤独な子育てによって、家族の全員がストレスを抱え、私がいつ虐待の加害者になってもおかしくないと思うほどの「クライシス」でした。

・とはいえ、直接的に変化が起きて突然クライシス状態になったかというと、そうではないと思います。コロナ禍で、私たちの暮らし方が持続可能ではなかったこと、脆弱で不確実で、持続不可能な可能性が高い世の中に生きていたということが炙り出されたんです。

・いかに自分が受け身で、消費者的に暮らしていたのかということを思い知らされました。子育てを取り巻く地縁、他者との関係性についても、いかにインフォーマルな支援が少なく、寛容ではない世の中で生きているかということで、もともとクライシスの社会構造の中で子育てをしていたということを実感しました。

・これまでの社会の反省として、世界には確実性があって、コントロール可能で…という世界観で生きていたのではないかということ。それが今回のことで、生活の中で明らかになったので、地方への移住を決心しました。今は、快適に子育てをしながら暮らしています。

 

早川:

・6、2歳の親です。家族関係について、コロナ禍では、夏くらいが一番辛かったですね。

・大学院生のときから、文化人類学の観点からまちづくりを研究しています。かつては学会などで、まちづくりと文化人類学の関係性が理解されず、「一体それはまちづくりの何の役にたつのか?」と言われたり、不遇の時代がありました。近年、地方創生が政策となってからは、周囲から「旬ですからね」と評価されることが増え、信念を持って取り組んでいるのに…と悶々としております。

・五井渕さんのおっしゃった「不確実性」について触れますと、コロナ前の地域づくりやまちづくりの考え方ではもはや立ち行かなくなりました。例えば、インバウンドで外国人観光客を呼び込んで、外貨を獲得しましょう。そうすれば移住者も増え地域を元気になっていく!というのが近年の主流でした。しかし、コロナによって5年後、10年後はどうなっていくかがわからなくなり、先行きが見えなくなりました。

・不確実で先が見えない時代に、必要なのは「人間理解」です。人間ってそもそもどんなものなのか。今考えている人間像は、この時代にフィットするものなのか。最近では、新聞などで文化人類学が取り上げられています。文化人類学がもっている調査対象や地域に対する態度や考え方、つまりアティチュードが注目されています。

 

石井:

・環境と現代社会の関係やしくみ、構造というのは、30年前から変わっていない。いや、それよりもずっと前から、このままでは自然環境が持続できないと言われ続けてきました。変化したのは環境と社会の関係ではなく、いまを生きる私たちの捉え方、私たちへの響き方が変わってきたのだと思います。

・ただ、持続可能性への関心が高まったといっても、何を持続可能にしたいのかは、人によって違います。家族関係、自分の会社、収入など持続可能性への関心はさまざまです。この30年で大きく変わったのは、このままの世界が続いたら、苦しいと思う人が多くなったということではないでしょうか。五井渕さんが言ったようにこれまでは「消費者」としての関わり方にハマりすぎてしまい、裕福な人はもちろん中産階級のひとたちも、このままの社会でも「まあまあ生きていける」と思えていた人たちが多かったのが、もはや、このままの社会で生きていける気がしないと思う人が、世界的に多数になったんだと思います。

 

3.リスナーからのおたより紹介

•相談者 四十代 男性
•ペンネーム 協働はリスクを減らすコスト
•職 業 団体役職員。

    パートナーシップを飯の種に十数年。

【相談内容(業務編)】

•毎週のようにSDGsについて話していますが、これは公然とした次世代への責任転嫁、現代世代による借金(課題)の踏み倒しだよと思いながらスライドをめくっています。
•特に、ユース世代に話す場面も多いのですが、その罪深さをいつも感じています。
•かといって、この手の与太話でお金ももらえたりするのでさらに業の深さにはまっています。
•私は、どのような心持ちでいることが望ましいのでしょうか。もはや「あるがまま」というワガママも通用しないのではないかと考えております。
•先生方のSDGsについての語り口、口上を含めてご教示願います。

 

五井渕:

・SDGsというスローガンそのものはパートナーシップのドアをノックしてくれるので、入り口にはなりうるものだと思います。SDGsでドアをノックすれば、誰でも、どんな会社でも一応、話は聞いてくれます。

・相談者の方の「責任転嫁」、つまり「罪悪感」についてですが、誰でもやっていることです。例えば借金にたとえてみると、私たちは借金を返済しながら、同時に増やしている存在です。善人・悪人と簡単に分けられない。でも、そろそろ、そう言っていられない状況になってきたのだと思います。

・SDGsというのも1つの看板にすぎません。CSR、CSV、これまでいろんな看板を掛け替えて、消費してきました。もうそれは止めて、私たちのあり方やスタンスという大前提が変わることなしには、また同じ過ちを繰り返すだけで、この世界は持続はできないのではないでしょうか。

 

早川:

・文化人類学は「共犯の学問」だと私は考えます。大航海時代に西洋の人たちが新大陸・未開の地に進出して異文化に触れ、その風習などを書き綴り、記録したことのが文化人類学の始まりとされています。当時の研究者⾃体はそう思って研究していなくても、歴史的には、植民地主義が進展していくなかで、どうやって土着の文化・社会を統治していくかという観点で、文化人類学者にお金が注ぎ込まれたのです。そういった、植民地主義への反省から、対象には客観的に関わり、干渉しないというのが学問的倫理になってきました。

・お便りにお答えするならば、「共犯」の存在であると自覚を持ち、苦しみを分かち合うという前提に立って、あり方を問い直すところから、始まるのかなと思います。五井渕さんの言った「責任の分有」、つまり、分かち合うことも文化人類学のスタンスにおいて、大切なあり方としていわれています。

 

石井:

・ゴール&ターゲットの話をしないで、アジェンダだけ話すというのも方法の1つです。アジェンダの前文を一緒に読んで、それを実現するためにどう生きていこうということを考える。でもその生き方はまだ私たちにもわからないときちんと説明するのはどうでしょう。

・持続可能な社会を実現することは、これまで自分たちはできなかったし、まだ答えがわからないということを正直に話すことが大事。私は、SDGsのゴールを達成することが目的ではなくて、持続可能な世界(経済・社会・環境の三側面の同時実現と土台としての平和、手段としての協働)を目指すべき世界として設定したというところが、人間の暫定的な知恵だと伝えます。SDGsは暫定的な知恵として提示しているのであって、絶対的なゴールではない。目指している社会を実現するために今できることをしようということ。

・罪悪感と共犯関係ということについて。私たちは巨大な経済システムに取り込まれつつ、一方で支えている存在で、主体的でもあり、受動的でもあるという感覚をもって、社会に向き合っていく姿勢が大切だと思います。

 

4.フリートーク 

■「こんなSDGsの話はいやだ」

早川:SDGsのロゴやアイコンだけが一人歩きして、カーゴ・カルトみたいな受け取り方をしやすいですが、そういうのには違和感があります。例えば、某大学のシラバスでは、この授業では、SDGsの何番と何番に取り組んでいるかということを書くようにしてくださいというところもあるくらいで、呆れています。これをもとに「うちの大学ではSDGsに取り組んでいます」と堂々と言っているわけです(失笑)。

五井渕:私も、ラベルやロゴで基準や水準を表し、そういった「わかりやすいもの」をこぞって買うことには批判的ですね。ただのアイコンキャンペーンになってしまっている。与えるのも買うのも簡単ですが、消費してばかりで自分の頭で本質を考えなくなります。

石井:SDGs の講習を聞いた人がその後で、「何から始めればいいですか」と質問してくることがあります。これには正直、ちょっとガッカリしてしまいます。講演では、自分自身の生き方・あり方を捉え直すことが重要です、とお伝えしているので、もう少し自分の頭で、何をどうしたらいいか考えて欲しいと思います。「これまでの行動をこう改めようと思うが、それでいいのか?」とかそういう話なら相談に乗りますが、簡単に答えを求めてくる姿勢に、自分の中にある当事者性に目を向けていない印象を受けるのです。

SDGsのゴールを達成すれば薔薇色の未来が待っているわけではないし、ましてやテクノロジーやAIを使えば持続可能な世界が実現できるという発想からぬけられない人がいます。その発想自体が、これまでの環境と社会のぶつかり合いをやってきたのに、その構造や歴史から何も学んでいないわけです。

 

■会場からの質問「コロナで社会が変わりつつあると思うが、SDGsの捉え方の変化も含めて、どう思いますか?」

五井渕:前の体制に戻ろうという揺り戻しもありますが、コロナ前の体制にちゃんと別れを告げること、つまり「看取る」ことが大事で、それをして初めて次へ行けるのだと思います。

早川:文化人類学でも、何も変化していないように見える社会であっても、時代の変化にあわせてやはり新しいものを取り入れてきていますし、そういう変化のときに、「儀礼」を用いて既存の秩序と融合させたりします。

石井:今、私たちは、沈没船に乗りながら、横で新しい船を作り、乗り換えていくようなチャレンジをしているのかもしれませんね。ただ、人それぞれ、人生のどこに体重をかけて生きてきたかがそれぞれ違うんですよね。だから、どんな生き方、あり方をしてきたのかという人間像を共有し、解いていくことも大事なのかも。

早川:確かに。グルーバルサプライチェーンの中で、消費して生きていくのは楽であり、効率もよい。でもそうではなくて、「自分をほぐす」というトレーニングが必要で、「個人から分人へ」とかいいますね。分割不可能な個人を想定しないで、自分は多様な網の目の関係性の中で作られていること自覚し、物、自然、概念などとの関係を作り直していくことが必要になってきています。そのためには、室内に閉じこもるのではなく外へ出て、フィールドワークをして、関係性をつなぎ変えながら、自分とは何かを確認していくことが大事になってきます。会社を辞めろとはいっていません。今の生活そのものをフィールドワークにしてみましょう。

 

■最後にひとこと

五井渕:最近、移住したばかりで、自分の暮らしがトレンドです。新しい場所で、分人性を無理なく内包できるかどうかを取り組んでいます。長年、東京で暮らしてきたわけですが、そこでは、「機能的であれ」、「強くあれ」というメッセージを受け取ってきたんだな、と思います。だから私は年中、イライラしていた。これからは、自分の臓器の声を無視しない暮らしをしていきたいと思っています。

早川:「わからない」という状態を大事にしたいと思います。フィールドワークなどで、なんとなくその地域を調べてわかったような気になるのが怖い。腑に落ちないところ、わからなかったところ、そのときは見えなかったところを心に留めていたいですね。今起きている状況がなんだか分からなくてもいいから、答えをすぐに出さない。学生に対しても、そういう教育をしていきたいです。

石井:自分ではコントロールできないものをどう理解し、どう向き合うのかという問いは、人類がずっと持ってきた問いだと思います。それをコントロールできると思い込んでいるあさはかさを実感することが大事です。アンコントロールなものに触れたとき、どうやって生きていくか、他の人はどうやっていこうとしているのかを考えましょうという問いを、サスティナブル・ディベロップメントは提示しているとあらためて実感しました。

 

 (編集:平井 明日菜/フリーランス記者) 

 

第2回の報告はこちら

 

ゲストプロフィール

五井渕 利明氏 /NPO法人CRファクトリー 副理事長・事業部長

2011年CRファクトリーに参画。数多くのコミュニティやプロジェクトの運営実績から、幅広い知見やバランス感覚に定評がある。NPO・行政・企業それぞれでの勤務・事業の経験から、それぞれのちがいを理解した支援が可能。多くの協働事業のコーディネートを手がける他、講師・ファシリテーターとしては年間100回以上の登壇がある。
誰もが「共に生きたい」と思える世の中を実現したいと願い、CRファクトリー以外にも多様な組織の経営や事業に参画している。一般社団法人JIMI-Lab(代表理事)、認定NPO法人かものはしプロジェクト(日本事業マネージャー)、株式会社ウィル・シード(インストラクター)、など。

早川 公 氏 /大阪国際大学 経営経済学部 経済学科 准教授 

大阪国際大学経営経済学部准教授。専門分野は文化人類学、地域志向教育論など。
筑波大学大学院人文社会科学研究科修了。博士(国際政治経済学)。専門社会調査士。
大学院時代につくば市北条地区のまちづくり活動に関わりながら研究をする。最近は、文化人類学の応用的関心からラジオプラットフォームstand.fmで「早川公のアカデミックソルトー文化人類学的アティチュードのすすめー」などを試行中。

石井 雅章  /神田外語大学 言語メディア教育研究センター 准教授 (センター長)

千葉大学大学院社会文化科学研究科都市研究専攻卒業。博士(学術)。専門は環境社会学で、主な研究テーマは「企業による環境問題への取り組み」「SDGsと自治体総合計画の接合」など。前任校ではゼミ学生と大学周辺の休耕地を地域資源として活用するしくみづくりを目的とした「休耕地活用プロジェクト」に取り組み、経済産業省「社会人基礎力を育成する授業30選」(2014年3月)に採択された。