金沢でSDGsを考える
2015年9月25日、ニューヨークの国連総会初日に、持続可能な開発目標(SDGs)が採択されました。この17分野169項目に及ぶ目標数からも、世界中に広がる問題の多様性と複雑性を伺い知ることができ、またそのどれもが、緊急度が高く、一部の国や地域、人だけでは解決しない問題だと感じます。では、今後私たち一人ひとりはどのような行動を起こすべきなのか――。
まさにそれを考えるためのワークショップが、国連総会閉会直後の10月3日、石川県立金沢泉丘高等学校にて開催されました。主催は、Post2015プロジェクトと国連大学サステイナビリティ高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティングユニット(UNU-IAS OUIK)で、共催は持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN Japan)。同校は文部科学省によるスーパーグローバルハイスクール(SGH)平成27年度指定校で、在学1年生24名に、いしかわ国連スタディビジット・プログラム参加OG・OB6名を加えた総勢30名は、いわば石川県出身で次代のグローバルリーダーになり得る若者たちです。
本ワークショップでは、「SDGsから考える北陸地方の問題:教育、雇用、地域格差など」について議論することになりました。冒頭、Post2015プロジェクトメンバーの北村友人氏(東京大学大学院教育学研究科 准教授)と小坂真理氏(慶応大学大学院政策/メディア研究科蟹江研究室 特任助教授)が、趣旨説明の中で「SDGsの目標年である2030年にむけて、いま高校生の皆さんが、まさに社会の中心になっていくその過程で、何を考えていくべきなのか。今日がそのきっかけになればいい」(北村氏)、「国連で決めただけでは物事は進まない。目標を立てたなら、それに向かって取組む具体的な活動が必要。日本で私たちが何をしたらいいか、高校生の皆さんからもたくさん意見を出してもらいたい」(小坂氏)と参加意欲をかきたてました。
議論に入る前に、まずは知ることからはじめようと、北村氏から「SDGsとポスト2015年開発アジェンダ」と題した予備知識をインプット。これは大人でも非常に勉強になる内容で、いくつかポイントを挙げると――
○世界中で都市化が進行する中、国家間の格差のほかに、国内の格差も拡大している現代において、真の豊かさとはなにか。 ○1987年国連の最も重要なレポートのひとつ「Our Common Future」の中で、持続可能であることは、「将来世代の欲求も満足させながら、現代世代の欲求も満足させる」と定義。持続可能な社会とは、どこかの地域、あるいは世代に我慢を強いるものであってはならない。 ○地球の大きさや資源が不変である以上、経済活動や人口が拡大すると、経済格差、水、気候変動、高齢化、エネルギー、サイバー・テロといった問題が出る。これらの問題を考えるため、2000年「ミレニアム開発サミット」にて、「ミレニアム開発目標(MDGs)」を採択。8つの目標(貧困や飢餓、初等教育の普及、ジェンダー、妊産婦等)は、いずれも途上国の開発を主眼に設定された。 ○今回採択されたSDGsは、途上国だけの問題ではなく、先進国と途上国両方の問題でもあるという前提で策定された。策定のプロセスも可能な限り公開(オープン・ワーキング・グループ)。 ○限られた人だけで議論したり、責任があることではない。私たち一人ひとりが、まずは「知る」、知ったうえで「考える」、考えたことを「伝える」、これが一番大事。 ○ツバルの例。先進国の二酸化炭素排出で温暖化が進み、氷河が溶けて、国が沈むから「かわいそう」というだけではない。国内の工業排水処理がいいかげんなため海水が汚染、珊瑚の再生産ができなくなるというローカルの問題もある。その背景には、英国植民地だったことからガバナンスが確立しにくいという歴史もある。 ○世界の問題は、非常に複雑で複合的に絡み合う。色々なことを知らないと受け止められない。SDGsは、そういうことを考えさせるきっかけでもある。 ○そのために必要なのが教育。あらゆる分野のリテラシーを高めることと、セクターを越えることも大事。 |
以上の話を熱心に聴いた学生たちに、与えられたテーマは――
・日本にとっての持続可能な社会とは?
・金沢における持続可能な発展とは?
・2030年の社会と自分の役割
ここからの進行役は、東京大学大学院教育学研究科 特任研究員の山﨑瑛莉氏。 学生たちの思いをうまく引き出していきます。6つのグループに分かれた学生たちは、最初こそ頭を抱えていましたが、金沢や日本の特徴や課題を、付箋に書き出していきます。さすが加賀百万石の地だけあり、「伝統工芸」「金箔」「加賀料理」「白山(国立公園)」「里山・里海」といった、観光産業ともつながるキーワードがポンポン出てきます。一方で「過疎化」「高齢化」などの現状もきちんと見つめている。そのうち、これとこれはつながりそう!」や「金沢は観光が売りだけど、僕たちは観光地ってあまり行かないね」など、和気藹々と議論は進みます。
詳しい発表内容は、北村氏の講評とともにまとめました>>>こちら(PDFが開きます)
最後に北村氏から、「今日はひとつのきっかけ。これからやってほしいことは、とにかく新聞をたくさん読むこと。1つじゃなくて、日本のものも海外も。海外でどういうことが起きているか、国内の報道も新聞社によって表現が違ったりもするとわかる。高校生のうちから新聞を読むことで世の中が立体的に見えてくるし、自分の中にも気づきがあるはず。何を専門にしていこうかというヒントにもなる」とアドバイスがあると、同校校長の新屋長二郎氏も「みなさんの頭脳にはアイデアがたくさん詰まっているので、いろいろと刺激を与えて答えを出してもらいたい。自分のため、地域のため、世界のためにチャレンジしてほしい」と締めくくりました。
途中休憩を入れながらも、ほぼ3時間通しのワークショップ。若者たちが進んで議論する様子に刺激をうけるとともに、自身のことから地域、国内、世界と視点を柔軟に変えることができる人材、そのための教育が次代のカギになると実感します。
(S. Fujiwara)