[国内事例54] NPO主導ではじめられた、生ゴミ堆肥化プロジェクト 資源の循環を通じて人の環も広がっている 2011年11月5日

NPO主導ではじめられた、生ゴミ堆肥化プロジェクト

資源の循環を通じて人の環も広がっている

“NPO法人 伊万里はちがめプラン”の取組み

柿衛門をはじめとした焼き物で、全国的にその名を知られる佐賀県伊万里市。その地で、生ゴミの堆肥化や、菜の花プロジェクトなど、様々なプロジェクトを実践するのが“NPO法人 伊万里はちがめプラン”(以下、はちがめプラン)だ。はちがめプランの特徴は、何といっても企業並みの規模を誇る生ゴミ堆肥化施設と、事業系と家庭(はちがめプラン会員)の生ゴミ収集を、NPOが独自に行っていることだろう。多くの市民を巻き込んだ形で資源循環の環が広がることで、人と人との繋がりも確実に広がりをみせ、市の活性化にも多いに貢献している。経済産業大臣表彰や他県である水俣市からも表彰されるなど、外部からの評価も極めて高い。はちがめプラン理事長の福田俊明さんにお話を伺った。

きっかけ

そもそも、このプロジェクトが開始されたのは、福田さんが経営しシェフもつとめるステーキハウスから日々出る生ゴミを、“ゴミ”として捨てることに疑問を感じていたからだ。福田さんは若い頃に、養鶏場の経営や農業に携わった経験があり、野菜屑などが良い肥料や家畜の餌になることを、当たり前の事と認識していた。だからこそ、本来は資源である厨芥を廃棄物として処分する事に大きな抵抗があった。そして、自身が所属する“伊万里飲料店組合”と“伊万里旅館組合”による“ごみ資源化研究会”を平成4年に発足させた。それ以降、情報収集や生ゴミ堆肥化の実験を重ね、平成9年に“生ごみ堆肥化実行委員会”が結成され、“伊万里はちがめプラン”が始動した。平成10年2月には、「伊万里地域循環ライフシステム整備計画書“伊万里はちがめプラン”~飲料店 旅館 農業者 消費者の 安全で地球にやさしい伊万里市をめざして」を伊万里市に対し提出している。宮崎県綾町、栃木県の農業法人ドンガメ、山形県長井市のレインボープラン、リサイクルで有名な東京の早稲田商店街など、先進事例を精力的に視察した。
ちなみに「はちがめ」とは、生息する生きた化石「カブトガニ」の伊万里地方での方言である。2億年前から現在と変わらぬ姿で生き続けるカブトガニのように、持続可能な地域を目指し、この活動が末永く続くようにとの願いを込めて、その名がつけられている。日本最大のカブトガニ産卵地といわれる伊万里湾を、美しい状態で子供達へ手渡したいという思いも込められている。

生ごみ堆肥化プロジェクト

はちがめプランは様々な取組みを行っており一口で言い表すのは難しいのだが、最初にはじめたプロジェクトで現在の大きな柱となっているのが“生ごみ堆肥化プロジェクト”である。平成12年1月に、国・県・市の助成を受けて、生ゴミを堆肥化するプラントを整備し、伊万里飲料店組合に加盟する飲食店の生ゴミ収集を開始した。はちがめプランの会員事業所にポリバケツを置き、トラックで定期的に回収を行っている。 回収した生ゴミは写真のように、種菌(伊万里農業高校との共同研究により選別された“はちがめ菌”)とおが屑(通常はより発酵力の強い籾殻を使うそうなのだが、今年は既に使いきってしまったので、おが屑で代用している)の上に乗せ、籠付フォークリフトで良く混ぜ合わせ、攪拌を繰り返しながら数日の間、初期発酵させる。発酵の際は温度が72℃ほどとなり病原菌や寄生虫の殆どはこの時点で死滅しており、フォークで攪拌すると湯気が立ち上るほどだ。この後、隣にある中期熟成ピットに生ゴミを投入し、数週間かけて専用機械で攪拌した後、別棟の長期熟成スペースに移し変えて3ヶ月ほど寝かせれば、良質のはちがめ堆肥が出来上がる。はちがめ堆肥は、試験場での検査の結果、市販されている堆肥と同等の品質の高いものであるとの通知を受けている。

平成13年春からは、試験的に一般家庭の生ゴミの堆肥化も行なっている。これは、個人宅が数軒集まったところを回収ステーションとしポリバケツを設置し、はちがめプランのトラックが週3日回収するものである。一般家庭は、月500円を負担している。一般の『ゴミ』として行政の回収に出せば無料ではあるが、わざわざ500円払ってでもはちがめプランにお願いするのは、「資源である生ゴミを捨てるのはもったいない」という市民の気持ちである。「高い」という声もあるようだが、週3日回収に来てくれるのであれば、コストを考えれば決して高くはないだろう。行政の回収も税金で賄われているので、市民が直接支払いをしている訳ではないので分かりにくいが、かなりのコストが掛を負担しているはずである。
平成16年6月に、JR九州と第3セクターの松浦鉄道の駅が新築され、駅前も区画整理された。そこに出店したイオン系の大型スーパー“MAXvalue伊万里店”も、はちがめプランの会員企業となって食品残渣の処理を委託している。大型のスーパーだけに排出される量も多く、はちがめプランの仕事も一気に増えたそうだ。

事業拡大の高い壁:法律、慣習

そもそも廃棄物の処理は、「廃棄物の排出を抑制し、廃棄物の適正な分別・保管・収集・運搬・再生・処分等の処理」を目的とした 、“廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法、または廃掃法)”により処理方法が厳密に規定されている。この法律では、廃棄物は大きく、“一般廃棄物”と“産業廃棄物”に分類され、大まかには、家庭から排出される一般廃棄物は市区町村の責任で収集・廃棄を行い、事業者が排出するものは、事業者の責任で廃棄するものとなっている。生ゴミ(食料残渣)は、産業廃棄物ではなく一般廃棄物に分類され、家庭からの生ゴミは市区町村が処理し、事業者の排出するものは、事業者が業者に処分を依頼するか、自治体によっては家庭ごみと同じルートで事業系ゴミを有償で回収している。

種別 排出者 処理者
産業廃棄物 事業者 事業者 廃油、木屑など21分類
一般廃棄物 事業者 自治体により異なる オフィスゴミ、飲食店の食品残渣など
一般市民 市区町村 一般家庭ゴミ

伊万里市の場合、一般廃棄物の運搬は業者に委託してゴミの運搬を行なっている。このように、地方自治体から業者に委託を出す際には廃掃法やその施行令で委託する基準が設けられおり、こうした基準を満たさなければならない。また、都市部のように競争が激しい地域ならまだしも、伊万里市のような地方都市となると、運搬を特定業者に頼らざるを得ない事情もあり、行政と業者は「持ちつ持たれつ」の関係にある。こうした背景から、NPOにしろ一般の事業者にしろ、一般廃棄物処理に関しては、「新規参入が難しい業種である」というのが業界にはあるそうだ。
なお、はちがめプランでは平成16年9月に、“一般廃棄物処理業”でなく“一般廃棄物再生利用業者”の認定を伊万里市より受けている。こうした形で認定を受けることにより、処理業として新規参入するのではなく、再生利用業という違う形で委託を受ける事が可能となる。

民の事業に行政が乗れるか?

はちがめプランの活動は、「生ゴミ資源化」を実践し「ゴミ総量の削減」という難しい課題に対しての、有力な解決法の一つである。はちがめプランも、活動を拡大してもっと多くの生ゴミを資源化したいと考えている。そこで、伊万里市で家庭ごみ処理を担当する、市民生活部環境生活課にお話を伺ってみたが、市の取組みとして「はちがめプラン」のシステムを導入することは、なかなか難しそうだ。同課副課長の井関勝志さんのお話によれば、はちがめプランと協働を行なうには、「市民の合意を得られるか否か?」がネックになるという。ポイントとしては以下の点を挙げてくださった。

  • 有償・無償の問題
    はちがめプランは有償事業として行なっているが、全市に広げるときにどうするか。
  • 衛生の問題
    はちがめプランでは、生ゴミを入れるポリバケツを数軒がまとまったステーションに設置しているが、設置場所の衛生に関して、周辺住民の間で合意がとれるかどうか。

NPOの任意の取組みと違い、市全体のゴミ収集ポリシー全体を変更することは、簡単な事ではないだろう。市が実施する際には、様々な方面と調整を図り合意形成を図る必要があるのは当然の事である。中長期的な財政(経営)計画や、政策のマスタープランに関わってくるような大きな政策変更になるからだ。
確かに、市内でNPOが始めた取組みを、行政の施策としてすぐに取り入れることは難しいことであろう。しかし、はちがめプランの取組みは資源循環を正に実践するものであるし、コスト的にもバランスの取れたものだと思われる。はちがめプランの現在の生ゴミ処理量は、約1.5トン/日で、これは伊万里市の生ごみの約9%にあたる。また、堆肥化施設の搬入可能量は3トン/日まで可能であり、まだまだ受入が可能である(詳細ははちがめプランの解説ページ参照)。伊万里市のゴミ処理容量にもそれほど余裕がないようなので、NPOの取組みに力を借りるのは良い手なのでは?と思うのだが。
福田さんの話では、「はちがめプランは、生ゴミの収集によって、逼迫する伊万里市のゴミ処理の状況をかなり助けている、市で生ゴミ回収を出来ないことも理解できるので、せめてゴミ減量プロジェクトとして助成なり委託なりして欲しい。はちがめプランも、今はギリギリの状態でやっているので、行政のサポートがあればもっと範囲を広げて一般家庭の生ゴミ収集が出来るようになる。」という事であった。

はちがめプランのその他の事業

上記の主体間関係図にもある通り、生ゴミ堆肥化以外にも、多くのプロジェクトを行なっている。

  • 菜の花エコプロジェクト
    休耕田や河川の堤防などの未利用地に菜の花を植えなたねを収穫し、搾油してなたね油に。そのなたね油は料理や学校給食に使い、搾油時に出た油かすは肥料や飼料として使う。廃食油は回収し、石けんや軽油代替燃料にリサイクルする。そして大気中に排出されたCO2は菜の花を栽培することで吸収される。滋賀環境生協(藤井絢子理事長)で始まったプロジェクトは全国に広がりをみせ、はちがめプランでも実施している。製油装置を導入し、廃食油から精製したBDF(バイオ・ディーゼル燃料)として、植物由来のディーゼル燃料として使用している。
  • はちがめふれあいステーション「風道」
    はちがめプランが製造したはちがめ堆肥を使った安心・安全な農産物の提供と、地域情報の発信基地。経済産業省が実施する、女性や高齢者が中心になって取り組む市民活動を支援する“市民ベンチャー事業”(平成15年度)の助成を取り実施している。
  • 環境教育
    佐賀県「環境サポーター・地球温暖化防止活動推進員」として地域や学校で活動。

この他にも、クリーン伊万里市民協議会との連携、はちがめエココミねっと、など活動は多岐に渡る。

おわりに

先にも触れたが、いくら市民が良いプロジェクトを実施していても、すぐそれに行政が協力できるか、というとそれは簡単なことではない。どんなに良い事業でも、予定にないものは実施できないのは分かる。とは言え、外部からの評価も極めて高い“はちがめプラン”の事業を逃すのはあまりにも惜しい。首長のトップダウンや議会での決定でも良いし、はたまた担当部署が熱心に働きかければ、廃棄物処理計画に「NPOと協働した生ゴミ堆肥化計画」を入れられない事はないと思う。早くそういう日が来れば、と願うばかりだ。

取材をして感じたことは、福田さんの実行力の凄さだ。「レストランから出る生ゴミを何とかしたい」と、思う人は多いだろうが、それを様々な手段を駆使しここまで実行してきた行動力は並大抵な事ではない。福田さんのこうした経営手腕を買って、「うちに働きに来てくれないか?」と高額のオファーを出す企業もあったそうだが、福田さんはそうした誘いに乗ることもなかった。「ほどほど生活出来ればいい。余計な金があると、余計な誘惑がたくさんある」と言う。
はちがめプランは数多くの賞を受賞しており、応援する人・組織も多い。福田さんに伺った話だが、「環境水俣賞」をもらった時は、本当に感動したそうだ。この賞は、水俣市が設けているもので、本来は水俣市民で環境保全・再生に貢献した個人・組織を対象としたものであり、報奨金にしても水俣の人々の貴重なお金である。本来、地域のための賞を、県外のはちがめプランが受賞したことの“重み”を理解した時は身震いするほど感激したと同時に、責任の重さを感じたという。
そういう福田さんも、「昔は、休みの日にはパチンコ屋に通い、暇な時間は週刊誌を読みニヤニヤしていた普通のオヤジ」だったそうだが、今は急がしく日常を過ごしている。ご苦労も多いのだが、楽しみながら夢に向かっている姿は格好良かった。

※記事の内容は、取材時(2004年8月末)のものです。
リンク:(特活)伊万里はちがめプラン

伊藤 博隆(地球環境パートナーシッププラザ)