[国内事例112] 企業とNPOの協働で「水環境」の回復を目指す ~アクアソーシャルフェス~ 2014年9月10日

概要

 トヨタ自動車が2011年12月より発売している、低燃費ハイブリットカー「AQUA」。ラテン語で“水”を意味する車名にちなみ、一般市民が環境保全活動に参加するキャンペーン「AQUA SOCIAL FES!!」(以下、ASF)を発売時から展開している。このキャンペーンの実施にあたっては、広告のプランナーやNPOが企画に関わり、全国の地方新聞社やNPOの協力のもと、2012年~13年の2年間で、全国47都道府県で238回、延べ22,682人が参加する正にソーシャルなキャンペーンとなった。今回、実際にこの活動に参加し、担当の方にお話を伺った。

 

経緯

 AQUAのコアなターゲット層としては20代後半~30代だが、この世代はあまり車に対して詳しくはない層で、車の性能だけを訴えかけても、ターゲットユーザーには響かないと思われた。そこで、これまでの車の売り方とは異なった方法で世の中にAQUAをPRしていく事となり、今までにない、「自然保護のキャンペーン」というアプローチが取られることとなった。「AQUA SOCIAL FES!!」を通じてAQUAが未来を明るくするエコな商品であることを知ってほしいという気持ちもあった。新車販売のマーケティングというとテレビCMなど広告を打つことが一般的であったが、SNSの普及に伴う、口コミ力などを念頭にした、新たなマーケティング手法としても興味深い。

 

運営方法

 実施の主体は、「トヨタマーケティングジャパン(株)」が中心となり事務局を運営し、一般参加者への広報、参加受付、連絡等を担っている。全国すべての都道府県で、水環境の保全活動を行うが、これは各地で既に活動を行っているNPOや地方の新聞社などと連携して行っている。また、ASFの企画について、2つのNPOがアドバイザーとして関わっている。まず環境面では、神奈川・東京を流れる鶴見川で生物保全の活動を長年続けている(特活)鶴見川流域ネットワーキング(TRネット)が、市民参加などの面については、一般社団法人Think the Earthがアドバイザーとして関わっている。これらのNPOには企画の段階から参画し、仕組み全体ついてや、環境面での配慮について検討がなされた。

 

ポイント

〇“社会貢献活動”のみではない
 企業が行うCSR活動としては、社員が植樹を行うなどの活動がこれまで一般的であった。しかし、多くの会社で社内的にも「本業との関係性はあるのか?」、「PRとして効果があるのか?」などの声もあり、単なる社会貢献としてでなく、本業との結びつきやマーケティングの効果など、企業活動の本質と、どのように関連付けるのかが問われる部分もあった。
このASFでの参加主体は、AQUA購入者に限定しない、広く一般市民を対象としている。企業の社員だけで行う社会貢献活動だと、どうしても内輪でのみやっている感が出てしまうが、広く一般市民に参加を呼び掛ける事で、まさに“ソーシャル”な活動となる。またFacebookのページを設け、参加者が「いいね!」をすることで、広く活動がPRされることにつながる。
ASFは、社会貢献的な部分も多分にあるが、企業であるトヨタグループとしては、マーケティングとしてビジネスの一環と位置付けて実施している。だからこそ、大きな予算も投入できるし、会社の本業として実施することができる。社会貢献活動を企業が行う場合は、株主や全社員に対して十分納得が得られる説明が必要になるため、活動を継続するには本業に組み込むことが必須であると思われる。

〇様々な波及効果
 ASFは、認知度が高い企業が行う活動であり、一般層へ浸透度が高い。一方、各地で取り組まれている保護活動は、環境保護意識の高い一部の市民が実施している面がある。有名企業が広く一般に呼び掛けることで、「環境問題には関心があるが、NPOなどとの関わりは無い人々」が、市民活動に対して目を向ける機会となる。リピーターとなり何度もASFに参加する人もいることから、地域の環境活動の参加層の裾野を広げる良いきっかけになっている。また、通常の市民活動として実施する場合と比べ、何倍もの人が参加するため、地域団体の通常作業では出来ないような作業を行う事ができる。参加者の大半は初心者で作業スキルは低くても、例えば外来種であるアレチウリやセイタカアワダチソウの選別除草など、選択的に除草する際は、多くの人出が必要となるため、環境回復の面でも実績を上げている。

実施状況

 2014年5月17日(土)に、みんなの鶴見川流域再生プロジェクト「日本の原風景を取り戻そう!みんなの力で新羽中洲のオギ原を再生!!」の活動に参加した。最寄りの横浜市営地下鉄「新羽」駅より徒歩で移動し、鶴見川の河川敷で受付を済ませた。当日は100名程度の参加者がおり、大学生風の若い人のグループから親子連れ、近隣のトヨタの販売会社スタッフなど、多様な人が来ている。
 全体の進行は、ASF事務局の方が実施し、川や植生についての説明は、日頃から鶴見川で活動しているTRネットの若手スタッフの方が行っている。
 作業はまず、アレチウリなどの外来種を除去した後、やや下流の高水敷から運んできたオギを移植した。シャベルで穴を掘る作業を久しぶりにする人も多く、あちこちで歓声が上がっていた。この現場は、ASF実施当初から活動している場所で、外来種がはびこっていたところを、これまでのASFの活動でかなり除去され、地域本来の植生が回復してきているとの事だ。単なる自然体験にとどまらず、人海戦術が必要な外来種除去など、環境保全に大きく貢献している
参加者には、水色のオリジナル軍手やタオルなど作業に必要なものや、資料が配布される。
 その中の一つとして、主催者からのメッセージが入っており、感謝の気持ちとこのプログラムに対する思いが記されている。

 

 

 

カテゴリ

■事業協力・事業協定

テーマ

■生物多様性・自然保護 ■ソーシャルビジネス・CSR

関係者(主体とパートナー)

 

取材:伊藤博隆(関東地方環境パートナーシップオフィス)
2014年6月