「持続可能な開発」セミナー
第1回「全体にかかる基本的勉強会」議事録
講演「ヨハネスブルク・サミットからの出発」
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■質疑応答・ディスカッション
【ESD-J池田】来年から始まる持続可能な教育のための10年のお話がありました。教育の10年において学術研究の場にいらっしゃる松下先生は、「教育改革」にどのように取り組まれるお考えですか?
【松下】現在、高度に専門的な知識と問題解決能力を持つ専門家の養成を目指しています。所属する京都大学大学院の地球環境学堂は、堂・学舎・三才学林で構成。学術研究組織の学堂と組織である教育学舎と交流組織である三才学林です。(http://www.kyoto-u.ac.jp/ges/kk/kk0211-pamphindex.htm)担当する環境マネジメント専攻の修士課程では、社会科学と自然科学の学際的な学術組織であり、必修科目を半年間学んだ後、半年は現場(環境省やコンサルやNPO)でインターンにより現場経験を積むというユニークなカリキュラムをとっています。
【GEOC 伊藤】(1)CSDの中で合意されたことでが、各国の国内での実効性が弱い具体的な問題点を教えてください。(2)WSSDにおけるTYPE2イニシアティブの現在の実施状況や約束文書の成果の状況を教えてください。
【松下】(1)CSDは、当初は国連組織の中でアジェンダ21を毎年レビューする機関としてできました。高い権限を持つ担当者が代表として議論する場として考えられたのです。しかし現実的には、各国の環境省の大臣・次官による環境サイドの意見交換はできるが開発や経済サイドの意見が議論の場に出てきません。その結果、国レベルでは各省庁は自分たちに都合の悪い意見には反対します。そこで最近では、実質的に取り組んでいる状況・経験を紹介しあい、その上で各国が取り組む上での支援を相互にし始めています。国際組織においても環境における取り組みは弱い。貿易についてはWTO、開発・金融はIMF・世界銀行などの専門機関があります。環境についてはUNEPやCSDです。しかし職員が200 ~300名前後予算も100億円程度の乏しさで世界全体の環境を見ている。世界的な取り組みとしては弱い。(2)TYPE2については、不明。これから包括的に調べたほうがいい。CSDでもTYPE2イニシアティブについてのレビューが始まると思います。
【EPO星野】日本におけるCSD*の実施状況については、96年からJCSD*という政策対話の場が設けられ、2ヶ月に1回ブリーフィングやディスカッション形式の会合をEPOを会場として実施している。従来は国際会議に対する報告書を提出してきた。WSSD以降の活動内容としては、170項目に及ぶ世界実施計画のレビューをする予定。世界実施計画の中で、現在日本のNGOが取り組む活動はどの部分にあたるのか、日本の政府のTYPE2(30個)はどこにあたるのかを検証する。日本政府のTYPE2も金額やパートナー機関の情報など実態は非常に見えにくい。NGOによるモニタリング組織として機能していきたいと考えている。
【ESDJ佐野】持続可能な日本のビジョンについて。先生のお考えで、持続可能な社会のイメージはどのようなもの?
【松下】未来は個人がそれぞれ描くことが大事。しかしIPCCのレポートを読むと資源利用について制約条件があるのでそれを頭に入れておきましょう。例えば、現在より化石燃料の使用は半分だし、水は(再生できない資源できない部分が大きいので)できるかぎり効率性を高め、雨水などを利用する。個人的には世界的に少子高齢化が急速に進むと思う。女性の教育率が高まると世界的に出生率は下がり、それにより人口問題はあるレベルを超えると解決すると考えられる。CO2排出量を60%減らすということは1960年ごろの消費量である。最近発達している技術システムを使えば、現在の生活レベルを維持しながらエネルギー消費を減らせると考えている。携帯電話や自動車の進歩を考えれば、技術的制約は100年で簡単に超えることができると思われる。
【NEC向達】自然エネルギーの利用率は日本は??? 中国は10%程度といわれましたが、環境省は方向性が「環境と経済の好循環」を標榜している。サーマルリサイクル推進により、ごみ発電を安い自然エネルギーとして普及する方向は危険だと感じる。環境ビジネスの普及はいいが、焼却炉メーカーだけが潤うのはおかしい。経団連の発言も怖い。国に頼るばかりではなく、市民が率先して自分達市民で社会制度を変える人を作っていかないといけないと感じている。
【松下】ごみ発電についていえば、新エネルギーを経済性だけで評価するとごみを大量廃棄大量焼却で推進することになってしまう。勿論、ごみについては排出抑制が一番重要。熱を目的としてプラスティックを使うのは問題である。社会的傾向は具体的成功例を作ってインセンティブをつくることで誘導される。スウェーデンでバイオマスの利用割合が高いのは一般国民にとってはバイオマスを使ったほうが安いからという経済的インセンティブが働いている。化石燃料を使うと税金が高い。ライフスタイルを変えるためには、利便性によって環境に良いものに誘導するような社会制度・システムをつくらなければいけない。ごみ発電・太陽光発電と風力発電を自然エネルギーとして同列で語るのはおかしい。補助金では限界があるから、価格差を設定するなどして、電力会社が買い取ることにすればいい。・PRTR法では企業の有害廃棄物の公表制度が義務付けられている。CO2排出量についても公開を義務付ける制度をつくるのはいいかもしれない。金をかけなくてもできることはある。
【文明飯田】地元でECO Villageをつくろうと取り組んでいる。具体的アクションに移るときに誰とどういう風にパートナーシップを組んでいけばいいのか?相談先を探している。
【EPO星野】まちづくり、むらづくりを地域にひろめていくのは大事。地域の人が地域のことだけを見ているだけではなくて、地域の外の人が入ることによってより広い視点が得られる。EPO/GEOCは各地の情報を集積しているので似たような視点を持つところを紹介するなどつなげる役割を持っています。また、全国で30回近く開催したWSSDの際の地域セミナーのネットワークがESDJにあります。是非ご入会、利用ください。
【EPO 西久保】(1)最近の環境分野の取り組みについてはヨーロッパイニシアティブが多い。米国があのような状況なのが原因なのはわかるが。ナゼそのような戦略が取れるのか。欧州の政治状況・市民の意識が他の場所と違うのでしょうか?(2)環境省の職員はいろいろな法律を作っているが、これは環境問題の解決に向かって歩いているのだろうか?環境行政のあり方についてコメントを。
【松下】(1) 米国はよい意味でも悪い意味でもフロンティア精神の国であり拡大することが存在意義。気候変動枠組み条約の交渉時、米国にとってエネルギー使用を抑えられることは、米国人が米国人であることを否定することだ、という発言があった。米国デビットソロー「森の生活」など偉大な自然思想は生まれてくるが、本流は産業による解決という意識が強い。欧州はチェルノブイリ原発・緑の党・成熟した社会など、戦略として環境を軸としてグローバルスタンダードをつくろうとする意識が強いように感じる。(2)松下氏が環境省にいたころからすればうらやましい限り。当時は連戦連敗だった。今は法律を出せば国会で通るし予算も得られる。しかし、環境省は業界を持たず一定の使命を持っている。間接経費拡大の法則(宇井純による)本来目的が達成しているか、手段が目的化していないかということを検証する必要は常にあり。
【EPO 星野】6月4日にEPOで開催した環境省政策ブリーフィングでは、「環境省に期待している。戦略・政策を具体的に練りこみを環境省職員と一緒にやりたい。」という熱心な声があげられた。
【NTT都市開発ビルサービス 米田】WSSDに行ってNPOが政策の意思決定にどれだけ影響を与えることができるのか、ということを実感した。問題点があっても全体的に審議するような環境省にとりあげてもらえるような政策をつくるようなグループがあったらいい?と感じている。
【西久保】提案される政策の中身次第です。役所は新しいことをしたい組織。いい提案があればWELCOME。しかし、制約の中で仕事をしている。プロセスをご承知いただいて、のれるような提案をいただければ、具体的な政策になることは可能である。法案抜きの「べき論」は簡単にできるが、具体的に第一ステップとしてここまでやりましょうという具体的なところの提案が欲しい。
【GEOC川村】EPO/GEOCでは政策提言フォーラムというものをやっています。いい提案があれば予算をつけて実施している。しかし最近は、提案が集まってこない。原因は2点あると思う。(1)政府のしくみにのせられるような提案を提供できる実力が無いNPOが多い。(2)提案力のあるNPOは既に交渉のチャンネルを環境省内に持っている。(1)と(2)の格差を埋めていく為のしくみが弱いと感じている。例えば、ODAをめぐっては外務省とNPOとで定期協議をやり互いの課題を共有し、ざっくばらんな意見共有ができている。環境政策については難しいものなのでしょうか?
【西久保】「学校のエコ改修をしよう」という昨年度の提言については、来年度の環境省の予算の玉にしようと考えている。この提言は温暖化防止策に絡むといえるので石油特会を使えます。FoeJapanの「持続可能な木材の流通」についての提言は、理念はすばらしいが、具体的な実践方法が今は見えない。政策提言フォーラムでは、優秀な提言は単に聞くだけではなく調査費を出して磨き、より実現性の高いものにしています。 一般論としては、環境は分野が広い。一同に会して課題を共有するというより、分野別に集まるほうがいいと思います。環境省側は時間調整さえできれば、そういった場に出て行きます。
【ATT流域研究所 矢沢】法治国家において、市民から行政を変革するといった場合、法により誘導するのが有効である。河川法の改正をめぐって32年の戦いがあった。法的論点については具体的に対峙しながらつくってきた。7年前にやっと変わった。「変えたい」という思いを話し合うだけではなく「変われる誘導づけ」を市民がすることが大切。論点を明確にして市民と行政が対峙する緊張を失ってはいけない。それによって、よりよい時代をつくるエネルギーが生まれる。
【星野】ご意見ありがとうございます。
【松下】NGOが政策に影響を与えられるのか?という点について、国際協力銀行における環境ガイドラインの審査役をやっている。13回公開フォーラムを開いてそこでの議論をベースとして環境ガイドラインを作っている。資金提供をしたものに対して、環境影響評価や地域住民の暮らしに悪影響を与えている場合に異議申し立てを受けるしくみもある。地球の友、メコンウォッチ、経済産業省などおステイクホルダーが集まっている。透明性の高いガイドラインの作り方であると感じている。また、政策提案型NGOができないのか?という点についてコメント。政策提言はプロフェッシヨナルな仕事である。企業も役所も24時間体制であり、情報を握っている。最近のNPOでは環境エネルギー政策研究所ががんばっている。ここは、プロレベルの技術情報や海外の情報も持って居る。それにより、事業者に対しても技術的な限界を超えるための現実的な提案ができている。まだ専従職員を雇えない団体だがノウハウを蓄積することで委託調査などプロの仕事をしている。大学や企業系シンクタンクは制約があるのが現状。
*注意書き
*CSD・・・ Commission on SustainableDevelopment(持続可能な開発委員会)
*JCSD・・・JAPAN Commission on SustainableDevelopment(持続可能な開発日本委員会)
*ESD・・・Education for sustainability持続可能な開発のための教育
*ESD-J・・・「持続可能な開発のための教育の10年」推進会議
index(もくじ) ・ #1:要旨 ・ #2:講演「ヨハネスブルク・サミットからの出発」 ・ #3:質疑応答・ディスカッション