GEOC連続セミナー
○「持続可能な開発」セミナー 第2回
「地球環境問題各論勉強会」:地球温暖化と森林問題
■地球温暖化編
講演要旨:
(1)政府・国連における取り組みの状況
講師:外務省 国際社会協力部 気候変動室長 福島秀夫氏
●資料:気候変動枠組条約第20回補助機関会合(SB20)概要と評価(PDFファイル 9K)
○地球環境問題を環境外交の一環として、外務省は国際的な連携をいかに継続強化していくかという役割を担っている。
■気候変動枠組条約補助機関会合
気候変動枠組条約締約国会議(COP)は、今年12月で10回目になる。COPの下で気候変動枠組条約補助機関会合が半年に1回開催されるが、20回目の今年は6月にドイツのボンで開催された。今日はそこでの話を中心にさせていただく。
京都議定書発効が不透明な状況の中で、気候変動枠組条約は10周年を迎え、ひとつの節目である。これは、188カ国+欧州委員会で構成される最も普遍的な国際条約のひとつであり、地球温暖化の取り組みを進めるメッセージを海外に強く発信する機会だという思いを各国で共有してきた。
■これまでの締約国会議の流れ
COP 1~3:先進国が排出削減の義務を負うという京都議定書の交渉が中心。
COP 3~7:京都議定書を実施するための運用ルールの国際的な合意の検討。
COP 7:マラケシュ合意採択。
COP 8~9:積み残した課題の検討。
COP 10:途上国の支援問題については積み残しもあるが、全体としては概ね終息し、体制作りの交渉は終盤といえる。
■第20回気候変動枠組条約補助機関会合の主な成果
①国際的取組み前進の重要性とCOP 10
・2005年までには次期枠組みに向けた議論を開始すべきと京都議定書に規定されている。
・COP 11に向けての予備的・分析的準備に向けた議論を始める好機と認識された。特にCOP10閣僚級会合では、パネルディスカッション形式で「条約10周年これまでの成果と将来の課題」というテーマの下、さらに議論を深めることとなった。
・将来の枠組みについては、各二国間会合や関連研究機関のサイドイベントでも幅広く議論され、日本もこれらに積極的に参加し、すべての国の参加する共通ルールの構築の重要性を訴えた。
・外務省主催で2004年9月にブラジルと共催で主要国(先進国9カ国+途上国9カ国+EC)を招待して「気候変動に対する更なる行動に関する非公式会合」を開催予定(今年で3年目)。京都議定書はもとより、さらなる努力が必要となることが広く理解されるよう、指導力を発揮する必要がある。
②京都議定書早期発効の重要性につき、認識を共有
③気候変動枠組条約実施に向けた協力を推進
■評価
将来の枠組みを考える上での必要な要素(科学的な知見・革新的技術を取り込む・持続可能な開発)を率直に話し合う必要がある。現在の中国・インドの排出の拡大状況を見ていると、将来いかに途上国を取り込んでいくかが大きな問題であり、途上国の持続可能な開発は重要なコンセプト。途上国の国家建設の中で地球温暖化問題を位置づけてもらう。そのために必要な支援であれば先進国も実施していく。地球温暖化問題はエネルギー問題でもあり、経済発展の中できっちりやらないと、エネルギーの枯渇の恐れもある。最後に京都議定書の早期発効の重要性。今は鍵となるのはロシアの批准。決断も近いと期待している。米国は重要ではあるのだが、ブッシュ政権は離脱している。民主党ケリー候補も京都議定書の7%削減まで戻るとは言っていない。ブッシュよりは前向きな印象は受けるが、今後の枠組みづくりから参加してくる可能性がある。
講演要旨:
(2)NGOによる取り組みの状況
講師:(特活)気候ネットワーク 平田仁子氏
●資料:温暖化対策の見直しとNGO提案(PDFファイル 537K)
○気候ネットワークは地球温暖化問題に取り組んでいる。1997年の京都会議の1年前にスタートし、世界で取り組む地球温暖化問題にNGOとして長い間かかわってきた。京都議定書で2008~12年の枠組みが決まったわけだが、ここにいたるまでにはさまざまな利害が衝突してきており、京都議定書自身も内容はずさんな部分があると思う。
■京都議定書の約束(資料1)
1997年、2008~2012年の間に数値目標を掲げて温室効果ガスを削減することが義務付けられた。日本はすでに批准しており、守らなければならない。京都議定書の次は国際的な交渉をもっとやらなければならないのだが、議定書を日本の責任で守っていくことも重要という意味で、国内の問題をお話したい。
京都議定書をきちんと守ることと、その次のステップをどうするか決めていくことは両輪だと福島室長がおっしゃったが、そのとおり。日本だけが頑張っても米国や途上国が参加しないと、世界全体の温暖化対策は進まない。同時に、今まで温室効果ガスをたくさん出してきた先進国が減らしていかないと途上国は乗ってこない。京都議定書を先進国がきっちり守って、その上で途上国を巻き込んでいくことが重要。
■温室効果ガス排出の現状(資料2~3)
2002年度の排出量は90年比で11.2%増。地球温暖化対策推進大綱の成果があがっているのか。京都の目標から見ると、逆に7.6%増えている。京都議定書を守るためには13.6%の削減が必要ということになる。温室効果ガスの9割を占めるCO2を見ると、いまだに排出量は増え続けている。まず量として格段に多い産業部門をどうするか、伸びの多い運輸・家庭・業務をどうするかが問題。
■「地球温暖化対策推進大綱」のステップ・バイ・ステップのアプローチの考え方(資料4)
温暖化対策推進大綱に基づいて、政府は2012年までに一度見直すステップ・バイ・ステップを取っており、今年は第一ステップの終わり。今年の重要な課題は大綱の見直しである。今年を逃すと2007年まで持ち越すことになり、直前過ぎる。
2004年半ばにきてようやく議論に決着がつきそうだ。各省庁の審議会で、バラバラに評価見直しをして議論が進んでいる。国民への意見募集が終わりそうな段階。ここまではオープンなプロセスを踏むが、その後、年度末に向けて大綱見直しの評価がどのようにくだされるかは完全に闇の中。国会の関与も情報開示もない。最後に首相が本部長を務める地球温暖化対策推進本部で決定されて、私たちに知らされる。他国の決め方と比べても異例であり、日本として何を優先して温暖化対策をするのかを議論する場がない。
■温暖化対策見直しの視点(資料5)
産業部門は景気の傾向もあり増えていない。民生・運輸などが問題である。民生・運輸といっても、民生の中に業務用オフィス部門が入り、運輸の中に業務用の社用車がある(5-1)。全体としては企業公共部門が8割を占め、家庭のライフスタイルは2割である。企業はこれ以上の対策を講じる必要はないということはあり得ない。
企業の排出の実態はあまりわかっていない。環境報告書などで情報開示しているが網羅的な情報ではない。自民党国会議員が情報公開法を利用して情報公開請求をし、日本の工場や事業所ごとの排出量の実体を把握できる材料になった。私たちが分析した結果、4004の事業所のうち上位50事業所で、日本の事業所の2割を占める。一部の大規模事業所が日本の排出の大部分を占めているという実態把握が重要である(5-2)。
二酸化炭素の排出は減っているが消費量は増えている。エネルギーの生産量は減っているが生産効率は悪くなっているようだ(5-3)。
・家庭での排出量削減部分(5-4):
省エネ行動の推進はできる限り個人でやったほうがいいが、大きな要素は、どういう建築物に住み、働いているか。その中で使う家電機器による影響が大きい。提供する建築家や企業にその責任は大きい。
・交通部門(5-5): 車利用が増えているのは非常に問題。温暖化対策のかなりの部分は道路整備が占めており、大綱と矛盾する。道路を増やせば渋滞が減り、排出削減できるという論理だが、実際は交通を誘発し車が増える。国土交通省はその定量的な評価はせずに「減る」とうたい続けている。一方、モーダルシフト、公共交通機関の促進には熱心でなく一貫性がない。
・電気の発電源(5-6):
石炭での発電は最もCO2を排出する。1990年以降、石炭による発電が2倍に増えている。
・代替フロン(5-7):
京都議定書では増やしていいということになっている。2003年まで減ってきているにもかかわらず、大綱では今後3倍に増やしていいという目標になっている。
次のステップでは、効果的な政策を市民を巻き込んだ形で進めていく形で進めたい。
■これからへ向けた政策提案(資料6)
・産業部門(6-1):
経団連の自主行動計画に任されている。たまたま景気が悪いから減っているが、自主性に任せているだけでは何も担保できない。しかも量がここは一番大きい。きちんと施策で担保すべき。
・運輸部門(6-2):
道路をつくればCO2が減るという根拠を示すべき。燃費のいい車の普及。気合を入れて進めないと公共交通機関がかなり減る。
・民生部門(6-3):
少なくとも新しく建築するものについては最高水準の省エネ機能を備えた建築を義務付ける、リフォームを推奨する仕組みが必要。また商品として私たちが選べるような情報提供も必要。
・エネルギー供給部門(6-4):
安価なため石炭が増加する恐れ。炭素税や、石炭に課税するなどの方向性を目指すべき。短期的手段としては、天然ガスにシフトする。太陽光や風力などの自然エネルギーは日本では冷遇されているが、もっと増やせるはず。
・代替フロン(6-5):
パソコンのほこり飛ばしスプレーなども安い・便利ということで使われているが、使用禁止措置も必要ではないか。
■分野横断的な政策提案(資料6-6)
国の税金については温暖化政策の柱としては炭素税が一番重要。化石燃料やCO2の排出に応じて課税することで、省エネすればその分安くなり、自然エネルギーに転換すれば節約できるという、頑張る人が得をする経済的仕組みを、税制を変えることで作り出す。国民の負担が多いと問題になるが、環境税制改革という考え方で、かけ方を変えるという発想。これが私たちが受け入れ可能な温暖化対策の柱と考えている。
■まとめ:「これからの地球温暖化対策」(資料8)
・対症療法的な対策をやめて経済構造の抜本対策を実施する。
・各分野での省エネ・自然エネルギー普及などを進める。
・それらをきちんと担保できるような政策的措置をつくっていく。
・対策達成を自主行動ではなく実効性の高い政策で実証。
・自然エネルギーや環境によい商品を選ぶことが得になるよう炭素税の導入。
・これらを実施しても6%削減の達成は怪しい。今きちんと問題を直視して行動に移す。
Seminars on Sustainable Development
グローバルな課題を理解し、各地域・各テーマでより効果的に活動するために
各地・各団体の環境保全活動は他の活動や「持続可能な開発」という概念とどのような連関性を持っているのでしょうか。今回の一連のセミナーは、グローバルな流れと地域活動のつながりを見つけるために企画しました。国連を中心に取り組まれてきた地球規模での動き(歴史やヨハネスブルグサミット、その関連の条約)などについてまず捉え、また各団体の具体的活動とその連関性はどのようになっているか考え、各団体活動の位置や使命を再確認することを目的としています。これによって環境・開発問題に関してのさまざまな視点を養い、また連携やさらなる発展の可能性を見出すことが期待されます。
*用語解説は主にEICネットのホームページにリンクしています。