持続可能な開発セミナー第5回「持続可能な社会をつくる指標とは」議事録 2012年1月14日

GEOC連続セミナー

セミナー「持続可能な社会をつくる指標とは」


【第1部】セミナー「持続可能な社会をつくる指標とは」要旨

講師:NPO法人環境自治体会議環境政策研究所所長 中口毅博氏

  • 当日配布資料に沿ってお話しいただきました。こちらをご覧ください。
    ダウンロード⇒当日配布資料(.doc)

 

 

 

 

テキスト【質疑応答】

【会場】持続可能性の定義を教えてください。
【中口】さまざまな定義がありますが、私自身としては、孫やひ孫の世代になっても今と同じ生活水準を保てるような環境・経済・コミュニティが保たれているという状態が、地域の持続可能性かなと思っています。

【会場】持続可能性指標については試行錯誤中というお話でしたが、つまり現状ではまだまとまっていないということでしょうか。
【中口】英国、米国のシアトルやオレンジカウンティの例では、自分たちの地域にとっての持続可能性とは何かということを、市民主体で定義づけ、対応する指標をつくっているという点で、ある程度完成されていると思います。ところが日本では、それがまったくできていない状況にあると認識しています。

【会場】海外では市民主体で指標づくりが進んでいるのに、どうして日本では行政主体になってしまうのでしょうか。
【中口】経済的な要因があります。シアトルでは行政の外に専任スタッフがいて、ファンドをもらって指標づくりをしていると聞いています。日本ではそうした資金はどこも出しません。環境基本計画やローカルアジェンダをつくるときに、結局は行政と受注したコンサルだけで決めてしまう傾向が強いのです。NPOなどにお金が流れる仕組みができ、そこが中心となって行政も参加しながら取り組むのが本来あるべき形だと思います。

【会場】指標には数値化が必要とのことですが、理論的にはそうだとしても実際問題としては、特に環境分野で必ずしも数値化が馴染まないものも多いのではないでしょうか。
【中口】おっしゃる通りで、指標の話になると必ず指摘される点です。指標とはある部分を典型的に代表するものであって、すべてを表すものではない、ということが指標作成プロセスに参加するとわかるかと思います。日本の現状を見ると、「数値化が馴染まないからつくってもムダだ」という段階で止まっているところが多い。それよりもとにかくつくって公表してみる。そうすると「こんな指標じゃダメだ」という声が上がり、そこからいっそう議論が深まるわけです。数値化が馴染まないものは別の形で表すなどの工夫をしていけばいい。つまり、指標とはコミュニケーションのツールなんです。

【会場】ストックとフローに分けて考えた場合、現在はフローの指標が多いのではないでしょうか。ヨーロッパの例を見ても、地域のサステナビリティを考えたときにストックの状況をうまく管理できるようなものがあまり見当たらなかったのですが、何かあればご紹介ください。
【中口】「これは」というものはまだないように思います。例えばごみの場合、年間排出量などが問題になっていて、過去からの蓄積量は指標としてはあまり使われていません。過去のプラスチックごみを掘り起こして中国などに輸出しているという問題もありますし、スットックの指標をもっと強調すべきだと私も思います。


【第2部】ワークショップ「指標づくりを通して考える、持続可能なまちづくり、地域づくり」

  • 6班に分かれグループワークを行いました。各グループをひとつのまち・地域と見なし、どういう将来像を描き、そのためにはどのような指標が必要かを話し合いました。

グループ発表

  • <1班>
    【どんなまち?】東京近郊の住宅地
    【将来像】崩壊している人と人とのつながりを取り戻す
    【こんな指標を考えた】
    ・コミュニティ・近所づきあいの復活⇒ 人口規模・人口密度、世代の分布、地域行事の参加率、家庭内での食事回数(外食率)
    ・職住近接⇒ 昼夜間人口比率、市外へ働きに出る人&市外から通勤して来る人のバランス、通勤時間と距離
    【講師より】家庭で食事する人の比率というのはおもしろい。私は食生活とエネルギー消費量の研究もしていますが、家族が同じ時間帯に食事をするほど調理にかかるエネルギー消費は少なくて済みます。つまり、この指標はコミュニティの指標であると同時に環境の指標でもあるのです。こうした複合的な指標が出てきたのは注目できます。
  • <2班>
    【どんなまち?】下町をイメージ。古くからの産業が衰退し、人のつながりが薄れ、大型マンションの建設で新住民が増えさまざまな問題が起きている。
    【将来像】こうした下町ならではの問題を解決したい
    【こんな指標を考えた】
    ・ 産業⇒伝統産業の後見人数
    ・ 活力のあるコミュニティ⇒祭りの回数、自家菜園数、公共の場にある食べられる木の本数
    ・ エネルギー⇒ソーラーカー・ハイブリッドカーの普及台数、太陽光パネル普及率
    【講師より】下町を例に包括的に考えられている点、特に地域内での自給に注目しているのがいいですね。自給は持続可能性の大切なポイントの1つです。
  • <3班>
    【どんなまち?】昭和30-40年代に新興住宅地だった都市近郊のベッドタウン。大都市圏から電車で約1時間。人口20万人規模。
    【将来像】世代間の活発な交流があり、歩いて暮らせるまち。開発当初の活気を取り戻す。
    【こんな指標を考えた】
    ・ 歩いて暮らしやすい⇒各家庭からの公共交通へのアクセスがいいか
    ・ 世代間コミュニケーション⇒世代間の交流の場(祭りなど)の回数と年齢別に見た参加率
    【講師より】世代間の交流の場への参加率を世代別に出すなど、かなり具体的な細かい指標の中身まで考えられているのがいいです。
  • <4班>
    【どんなまち?】東京近郊の住宅街
    【将来像】各項目に指標を設け複合的に地域を把握することで、例えば地域資源を使って雇用につなげるような循環をめざす
    【こんな指標を考えた】
    ・食・水⇒産直の野菜が食べられる、水源地に近い
    【講師より】フレームワークがしっかりしています。縦軸に食・水、雇用・産業、エネルギーなどの項目を立て、横軸に安全性、量・質、アクセスのし易さなどを置いて、複合的に見ている。まず大枠のフレームを決めて個別の指標づくりに入るのはいいアプローチの1つ。「循環」というのも重要なキーワードです。
  • <5班>
    【どんなまち?】首都圏近郊のベッドタウン、人口30万
    【将来像】市民活動の活発なコミュニティが形成されている
    【こんな指標を考えた】
    ・ コミュニティ⇒伝統芸能や祭りの担い手の平均年齢:60歳以下を目標に
    ・ 市民活動⇒環境系の市民活動の集会数:100回/年以上
    ・ 自然環境⇒20種類以上の鮭が川を上ってくる
    ・ 人口・就業⇒若年層の人口比率、雇用者数に占める昼間人口比率が50%以上
    ・ 選挙⇒多くの問題は投票率に尽きる
    【講師より】もっとも包括的にほぼすべての分野をカバーしています。具体的な数値目標まで考えられているのがいい。指標は数値目標にするとさらに拘束力が増すので、その点がよかったと思います。
  • <6班>
    【どんなまち?】New多摩ニュータウン
    【将来像】住民も高齢化し古くなった多摩ニュータウンを新しく活性化させよう。優先順位ベスト3に絞って議論。
    【こんな指標を考えた】
    ・ コミュニティ⇒地域の人と過ごす時間、地域内の友だちの数、世代間交流事業数
    ・ 交通⇒人が1キロ移動するのに要する化石燃料の量
    ・ 自然環境⇒自然河川の長さ、緑の回廊の距離、やすらぎ率
    【講師より】「地域で人と過ごす時間」などをトータルな指標として、その下に「住民の趣味のグループ数」などいくつかのサブ指標をつくっているのがよい。総合指標をつくってからサブ指標を考えていくのは大事なアプローチです。

関連サイト