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【報告】里山ミライ拠点化計画 連続トークセッション 第2回「新・里山時代の幕開け」(3/5実施) 2021年3月29日

里山ミライ拠点化計画 連続トークセッション

一極集中型の都市構造が確立されていく中で、日本では地方の人口が減少し続けてきました。中山間地には豊かな自然・里山が残されていますが、近年は過疎化が急激に進行し、「限界集落」と呼ばれる集落が生まれています。

一方、開発が進んできた都市部でも、里山に関する課題が山積しています。都市近郊に残された里山は、自治体やボランティア団体が中心となり維持してきました。しかし、近年は高齢化に伴う担い手不足や資金難など慢性的な課題を抱えています。

つまり、日本では、中山間地の里山も、都市部の里山も、どちらも問題を抱えているのが現状なのです。

そこで、今回の里山ミライ拠点化計画連続トークセッションでは、そんな里山に希望を見出して活動されている方々をゲストに招き、「里山を拠点にして明るい未来を築くためには、どうすれば良いのか?」という問いを議論しました。

第2回「新・里山時代の幕開け」

第1回のトークセッションでは、中山間地エリアの里山で活躍されているゲストをお呼びして、限界集落が「限界」を超えるためのヒントを参加者とともに探りました。テーマは「限界“突破”集落の作り方」です。

報告はコチラ

第2回目のテーマは、「新・里山時代の幕開け」です。都市近郊の里山をフィールドにしている方々をゲストに招き、意見を交わしました。

【ゲスト】

松村正治氏/特定非営利活動法人 よこはま里山研究所(NORA)理事長
高橋靖典氏/一般社団法人藤野エリアマネジメント 代表理事
小倉壮平氏/SHEプロジェクト 共同発起人・シンクボード株式会社 共同代表

佐々木真二郎/環境省 大臣官房 環境計画課 企画調査室 室長

開催概要

〇日時:令和3年3月5日(金) 19:00-21:00

〇方法:オンライン開催(Zoom)

〇参加者:49名

プログラム

1.開会・趣旨説明
2.レクチャー・話題提供
 「里山未来拠点形成事業について 第2章~里山のこれから」
  環境省 大臣官房 環境計画課 企画調査室 室長 佐々木真二郎
3.リレートーク・事例紹介
  ・松村正治氏/特定非営利活動法人 よこはま里山研究所(NORA)理事長
  ・高橋靖典氏/一般社団法人藤野エリアマネジメント 代表理事 
  ・小倉壮平氏/SHEプロジェクト 共同発起人・シンクボード株式会社 共同代表

  -それぞれが“里山”(≒限界集落)と関わった背景
  -いま何を思っているか/何に取り組んでいるか
  -私の思う、“里山”の未来はこうだ!  
4.クロストーク 「里山をミライの拠点にするために」
  登壇者;佐々木室長、松村氏、高橋氏、小倉氏/モデレーター;関東EPO高橋  
5.終了

内容

1.開会・趣旨説明/関東EPO

100年先も200年先も、地球で、この地域で、豊かに暮らしていくためには、持続可能な社会の構築が欠かせません。そのために、環境だけでなく社会・経済などをふくめて考えていくことが重要になっています。そもそも私たちの暮らしは持続可能だったのでしょうか。異常気象、コロナウイルス、災害、獣害、海洋汚染の問題など、「持続可能」に逆らうようなニュースばかりが昨今話題になっています。

 第2回となる今回のイベントでは、都市近郊の里山で活動されている方をお呼びしています。森・里・川・海の恵みを未来の子供に引き継ぐために、私たちの暮らしを問い直す、人・場所の持つ力について皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

2.レクチャー・話題提供

「里山未来拠点形成事業について 第2章~里山のこれから~」/環境省 大臣官房 環境計画課 企画調査室 室長 佐々木真二郎

里山に人間が適度に手を加えることで、撹乱が起き、結果的に自然環境がよくなるということがあります。里山はかつて人間の経済活動と密着して、仕事やお金を生み出していました。しかし、薪や炭を利用しなくなり化石燃料に変わり、生活形式が変化するにつれて人間は里山を使わなくなりました。その結果、里山はお金を生み出さなくなり、管理されず放置される里山が増えてきました。絶滅危惧種が増え、獣害・不法投棄などの問題が生まれています。
里山から資源を取り出さなくても生きていけるように社会が変容し、地域から人やお金が出ていく構造になっていきました。今では、持続できない地域を意味するいわゆる“限界集落”も出現してきました。里山は国土の4割も占めています。国土保全という点からもこれは課題です。

このように、⾥⼭が衰退した問題の根本には、ライフスタイルの変化(化⽯燃料、⼤量⽣産、消費社会)があります。かつては経済活動の⼀環で⾥⼭が管理されてきたので、⽥舎が現在の形で経済的な活動で里山を活用しながら、元気で暮らしを営むことが⼤事になってきます。

持続可能な地域としていくためには事業として地域の課題解決を社会の仕組みとして組み込む必要があります。このような事業には、SDGsビジネス、公益事業、CRV・CSRなど様々ですが、採算性のある持続可能な事業が多様にあることが必要です。また事業を生み出すための、人々のネットワークが必要で、⼈の繋がりが持続可能な地域を⽀え合っています。

持続可能な地域がそれぞれネットワークを広げていくと、それぞれの不得意な資源や人材、資金などを補い合いながら支えあう「地域循環共⽣圏」というものができます。これは、⾃⽴・分散型の社会を⽬指していくことにつながっています。私たちはこれをローカルSDGsと呼んでいます。

環境省では「グットライフアワード」という取り組みをやっております。環境と社会によい活動を応援するプロジェクトで、地域循環共生圏を支えるような、社会をよくする取組、SDGsを体現する取組を「環境⼤⾂賞」として幅広く表彰しています。昨年は、193の取り組みの中から、30組みほどを選び、表彰しております。

参考≫https://www.env.go.jp/policy/kihon_keikaku/goodlifeaward/ 

3.リレートーク・事例紹介 

松村正治氏/特定非営利活動法人 よこはま里山研究所(NORA)理事長 

 

・NORAは、2000年に設立したNPO法人で、神奈川県で初めて認定された環境NPO法人です。里山と関わることで里山の生態系を豊にするとともに暮らしの質を高めることを目標にしています。会員は150名くらいです。都市住民であっても山仕事や、野良仕事をし、まちづくりをし、時に非日常のハレを楽しみながら結果として里山の生態系を守っていくということを柱にヤマ、ムラ、ノラ、ハレ、イキモノという5つに事業をおこなっています。

・歴史が長い団体で、ルーツは1980年代にまで遡ります。里山保全の経緯をお話しします。
日本では1980年代後半から里山保全が叫ばれるようになりました。里山に光があたり、里山ルネッサンスともいわれた時代です。これまでのように、なるべく自然に手を入れないという環境の守り方ではなく、人が手を入れることで保全していくという方向にかわりました。また、一人一人が身近な自然を、コモンズとして、みんなのものとして里山を守るという方向へ変わっていきました。
2000年代に入ると、生物多様性を守る観点から行政支援が広がりました。2010年代まで里山保全の団体は増えていきましたが、その後は減っていきました。大きな理由の1つは、スタッフや活動資金の確保、メンバーの高齢化があります。そこで私たちはmoridas(モリダス)という若手のボランティアリーダーを育成することも始めました。テキスト作りや研修を行なっています。

・藻谷浩介さんの『里山資本主義』刊行以来、里山は経済活動の分野でも見直されるようになってきました。東日本大震災の後からは、消費するのではなくてできるものから自給し、手が届きにくい政治や経済に左右されない、自立的な仕事と暮らしを目指すソーシャルビジネス、新規就農、里山を生かしたマルシェ、ダブルワークなどの動きが強まっています。

・都市近郊には環境に意識が高い若いボランティアの存在がありますが、先行きが不透明な現在、社会貢献意識や生きがいだけだと参加が継続していかない課題があります。里山を生かす仕事へと転換していく必要があります。そのため、里山で仕事をつくれるようなノウハウを得られる講演会、ネットワークづくりなどを行なったりもしています。

・最近では、小さなNPOの場合、事務作業などやることが手一杯になり、本来のNPOの活動がしにくくなっているということがあるので、バックオフィスの課題を解決するためのプラットフォームづくりのゼミなども開催しています。また、環境NPO同士を横につなげて共に学び合う場所の提供もしています。

・都市近郊の里山保全のキーは、教育・福祉・まちづくり・観光など、多面的機能を高めるサービスに可能性があり、これを担う人をつくっていく必要があります。

高橋靖典氏/一般社団法人藤野エリアマネジメント代表理事

・私たちの地域の活動では、各々のプロジェクト単位や法人化していないグループで動いているケースが多く、またマルチに複業という形で生計を立てようとしている人が多いように思います。

・藤野という地域は、神奈川県の北西部にあります。2007年に相模原市と合併しました。旧藤野町といわれる地域になります。合併時の人口は10,720人で、現在は8300人弱です。高齢化率は相模原市全体の65歳以上が25%というのに対し、39%の高齢化率です。地域内にはコンビニが2件だけで、そのうち1件は夜間営業しないという地域です。ただし、新宿まで電車で1時間〜1時間半なので、ベットタウンという要素もあります。

・藤野エリアマネジメントとしての主な活動では、廃墟や放置されたスペースを活用し、アーティストやクリエイターの活動拠点を作って応援しています。現在は、拠点が3つあり、約30名ほどのアーティストに貸し出しています。

・30年ほど前から、この地域では芸術家を集める活動を、地域をあげて行ってきました。そのため、現在もアーティストが多くいます。1996年にパーマカルチャーセンタージャパンが開設してからは、それに賛同して移住してくる方も増えました。2005年には廃校になった学校校舎に、シュタイナー学園が移転し、NPOから学校法人化しました。現在の人口の8300人のうち400人ほどが学校関係者になっていて、人口下げ止まりの効果がでました。他にも予期せぬ効果が多くあり、例えば、子どものシュタイナー学園入学のために移住した保護者が、地域で病院を開業し、医療が充実化するということもありました。

・他にも、地域には様々な活動があるのですが、なかでも地域通貨の効果が大きいです。通帳型のものです。地域資源を発掘する、みんなを支える、“お互い様”のネットワークをつくることを目的に、約1000人が加入しています。情報はメーリングリストで、留守番してほしいときや、車が故障したとき、さらには急遽法事用に子どもの靴が必要になって借りたいときなど、「よろづ屋」のネットワークに連絡すると、誰かが手をあげてくれる仕組みです。かつての、ムラのほどよい繋がりづくりのような取組です。町全体で、地域を持続可能な地域にしていこうとする活動があり、自治のための取組が盛んです。

・コロナによって都内からの移住の問い合わせも増加しました。また在宅勤務の増加により、町自体にいる人が増えているので、都市近郊の里山地域は住む場所であり、同時に働く場所でもあるという、田園都市としての可能性が出てきました。

 

小倉壮平氏/SHEプロジェクト共同発起人シンクボード株式会社共同代表

・武蔵野美術大学在学中、課外講座で関わった縁から、2010年に東京より新潟県岩室温泉に移住しました。大学卒業後は、観光施設を指定管理するNPO法人の事務局長として10年間、いわむロックFESTIVALやあなぐま芸術祭などの地域イベントなどに関わりました。観光、農業、芸術、福祉という分野をわけずに横断する持続可能な地域づくりをしています。昨年NPOを退職し、新潟市市民活動支援センターなどを勤めながら、個人での活動の幅を広げています。

・岩室温泉という地域は、新潟市西蒲区にあり、新幹線の駅でいうと燕三条駅が一番近いです。300年の歴史があるとされ、新潟で一番大きな神社、「彌彦(やひこ)神社」が岩室温泉の隣にあり、昔から参拝の方で賑わいを見せたところです。「わらアートまつり」というイベントをやっており、都市部の大学との交流を積極的にしている地域です。

・SHEプロジェクトは、「Share! Human Energy(for Hope)の略になります。SDGsを活用した地域課題の同時解決支援事業(環境省、H30-R1)をきっかけに事業サポートチーム「SHE」を若手3人で結成し、ステークホルダーの連結と地域課題把握に取り組んできました。その活動をベースに日産自動車と提携し、EVカーシェアのプロジェクトもやっています。

・もともとこの地域は、閉塞感があり、保守的なところがあり、イノベーションが起こりにくい構造でした。まずは、縦割りをやめて、横の連携や、新しい風を取り入れることを念頭に、10年ほど、観光✖️地域✖️農業✖️アート✖️音楽✖️福祉✖️環境といった取り組みをしてきました。

・例えば、直売所の農家と農家レストランを月に2回ほど始めたことで、お客さんと実際に触れ合う機会を得た農家さんが、自分たちのやっていることに喜びを見出し、農家ネットワークが広がりました。私自身、地元の若手農家さんとのつながりもでき、若手農家の抱える課題を知ることができました。そこで、デザイン系のクリエイターと組んで、ブランディングをして商品販売につなげました。こうした縁でつながった若手メンバーと、30年後の地域の未来を描くことなどもしました。
参考≫ローカルマニュフェスト|にしかんずかん

・岩室温泉街には、古民家「小鍛冶屋」という建物がありますが、かつて空き家になり駐車場となる話もありました。雰囲気のある建物でもったいないので、市の事業を活用して3年間事業をすることになり、イベント会場として使用しました。3年後に助成事業が切れたあとは、イベント会場として事業開始当初から小鍛冶屋を利用してきてくれたシェフが、レストランを経営しながら建物を引き継いでくれることになりました。このシェフと私がずっと大事にしてきたのは、「地元のストーリー」で、提供する野菜は地元のものにする、お客さんに地域のことを紹介するということにこだわり、相乗効果が生まれていきました。

・まだまだ、地域を持続させるには人のエネルギーが足りないので、仲間をつくっていくことが大切だと思います。しかし、この人じゃないとダメと決めつけないで、いろんな人とつながっていくようにしています。岩室温泉はこうじゃなきゃだけという固定観念をもたない方が、外の風を取り入れられ、「良質なカオス」がうまれ、そこから何かを生み出していけると思っています。

4.クロストーク 「里山をミライの拠点にするために」

登壇者;佐々木室長、松村氏、高橋氏、小倉氏/モデレーター;関東EPO高橋 

お互いの発表を聞いて…

松村氏:今回のテーマが都市近郊の里山だったので、どんな可能性があるのかをみなさんとお話ししたいですね。

高橋氏:どこも担い手の少なさの課題がありますが、若い世代にうまく活動をバトンタッチできると、面白いことになると思います。今は情報発信がしやすくなったので、小さい団体でも活動が維持でき、クラウドファンディングを活用していくなどいろんな方法が生まれて、可能性があります。

小倉氏:私たちのところには、新潟市内などの中心部の人たちが、子どもたちを自然環境のいいところで遊ばせたいとか、学生が農業に触れてみたいなどの理由で、人が多い地域からの流入が結構あります。やはり都市から1時間程度の距離にあるから来やすいのだと思います。

松村氏:私は幼い頃、田や畑、雑木林が造成されてなくなるということを見てきました。子どもだったのでもちろん何もできなかったのですが、当時はそうしていくことが正しいという社会通念がありました。そして里山は老人ホームやゴミ焼却施設など、人々が「見たくないもの」が集まるような場所でした。しかし、近年になり、都市住民が、消費するだけではなくて生産もしていこうという、発想の転換が起こってきて、都市のあり方を見直すという活動も起こり始めました。こういうことが持続可能な社会にとって大事だと思います。都市の人がコンポストを使ってみて、土のありがたさを知るということが起きたりしています。都市近郊の里山は、都市に何が足りないかということを気づかせる場となると思います。

里山の仕事の作り方

高橋氏:我々の世代にバトンが渡ってきて、新しい活動にどうつなげていくか。衰退した産業をどうやって元に戻していくのか、私自身、明確な答えがまだ見えないので、みなさんと一緒に考えたいです。

松村氏:里山で仕事をつくり、どう地域経済を回していくのかということですね。NPO立ち上げの当初、5人スタッフを雇っていましたが、人を雇うとなると人件費がかかるので、稼げる仕事ばかりを取らなくてはいけなくなり、ミッションが疎かになったという苦い経験があります。そういった経験から何人を雇用したら一人前の団体だという発想は止めて、働き方についてはそれぞれで考えてもらうことにしました。副業的、マルチで働いてもらうなど。ある種、サバイブするためにこういう形になったのですが、結果的に、人を1つの団体で丸抱えするのではなくて、いろいろなところに散らばってもらうことで、NORAの理念が広がっていくことになりました。それが仕事づくりとしては十分かなと思うようになりました。

小倉氏:まったくその通りです。里山を活用して1つの仕事で稼ぐというのはリスクが高いです。都市近郊という利点を生かして、都市でも稼いで、里山でもある程度稼いで暮らすというのがリスクヘッジになり、自分のスキルを高めることにもなります。

佐々⽊⽒︓すごくお⾦が稼げるという仕事ではないけど、いろんな多種多様な仕事があるのが⾥⼭です。昔はお⾦をたくさん稼いで⾏くことが幸せに直結するという価値観だったのが、若者は(上の世代と⽐べて)物への執着も少ないといいますし、だんだん変わってきています。地域おこし協⼒隊を卒業した⼈たちなどの多くは、一人多役という形で、例えば農業と何かを組み合わせた、⼩さな収⼊の副業をして働いています。地域のためになって、かつ⾃⼰実現できる仕事が多くて、やりがいがあり、幸せを感じられる仕事ですよね。私など、通勤に時間を取られ、家族と過ごす時間もない暮らしをしていて、ときどき幸せってなんだとうと考えます。⼈⽣のヒントが⾥⼭にあります。

小倉氏:先ほど紹介したレストランでは、ジビエを扱っていたり、地元農産物の質が高いので、ミシュランに載ったりしています。周りの自然環境が豊かであるからこそ、そこに付加価値を見出して、事業に上乗せしてビジョンを作っていきたいと思っています。みなさんの地域の現状はどうですか?

高橋氏:コロナ禍になって、これまでの生活に無駄が多かったと感じることが多いですね。通勤がなくなったり、打ち合わせがオンラインになったりと、慣習であったけど本来、無駄だったものが削ぎ落とされ、時間が空きました。想像力を使って時間を使えば、空いた時間を使って、他の仕事や活動ができたりします。

松村氏:最近、ディベロッパーがマンション建設計画するときに、敷地内に緑を残すことを始めています。例えば、雑木林を残し、そこで子どもたちが遊べるようにするなど。実はそれがマンションの価値を高めることになっています。経済活動の中で、生物多様性の価値が見直され始めています。また、緑地をコモンズとしてみんなで管理していこうというコミュニティづくりの流れが都市近郊でできていくと、より面白いと思います。

里山を未来の拠点にするには?

松村氏:もともと里山には多様性があったけれど、私たち人間が、一時期そこに価値を見出せない時代がありました。1つの機能のためだけに里山を作り替えたほうがいいとか、ちょっと離れた里山にお年寄りや障害者、ゴミ施設などを集約して、都市の中から見えないようにしてきたけれど、実際はすべてのことが自分たちの生き方とつながっています。里山側に人の考え方を合わせていくように転換していけば、多様な社会が里山を中心に形成されていくと思います。

高橋氏:都市では何を解決するにもお金が入ります。一方、貨幣ではない価値の交換や繋がりが里山にはあります。みんなで草刈りをしたら、誰かが野菜を置いていってくれたなど、教育以外では現金があまりいらない暮らしができます。中山間地や里山の魅力や楽しさを伝え、そこに価値を見出せる若い世代にうまくバトンタッチをしていきたいです。

小倉氏:里山保全と聞くとボランティア活動をイメージしがちなのですが、若い僕らの世代はちゃんと仕事になるようにと考えています。自然資源を経済資源として理解して、里山があることで地域が発展していくというエリアマネジメントをしていくのが理想的だと思います。実は僕らもまだ里山に入り切れていないところもあります。先ほど「カオス」というお話をしましたが、カオスな状態をつくって、先人たちのやっているところに入る「隙」を見つけていきたいですね。

 

 (編集:平井 明日菜/フリーランス記者)

所感

私たちは、もともと里山のめぐみに生かされ、学び、暮らしてきました。そして、その里山を、まるで時代遅れの象徴かのように、田舎を嫌い、埋め立て、厄介扱いをしたのも、私たちでした。
失いかけて初めて、里山が失われることに心を痛めた人々によって、今度は「守るべきもの」に変わっていき、同時に私たちが忘れていた自然とのつながりや自己有用感を高めてくれるフィールドとしても機能し、多くの先人の手によって、都市近郊の里山は何とか現代にその姿を残してきました。

そして、コロナ禍、気候危機の真っただ中で、私たちは再び、里山を見つめなおしています。

今回は、「里山としごと」に関する話題が多くありました。そしてそれは、「働くこと」、そして「生きること」「暮らすこと」を見つめなおす問いでもあるように感じました。
2回シリーズを通じて、登壇者や参加者の皆さんと考えたかったことでもあります。

里山を未来の拠点にするために、私たちができることは何でしょうか。

・ずぶずぶの関係人口を紡ぐこと
・多世代とのつながり、多分野の掛け算による良質なカオスを楽しむこと
・里山が生み出す多様な価値を発信すること

様々なヒントがあったかと思います。
里山は、人の手を入れる必要がある場所です。聖域として人間の関わりをルールで制限するのではなく、また、テーマパーク、公園として扱うだけではなく、もっともっと私たちが、里山や自然資源から享受できるめぐみを理解し、使っていくこと(ワイズユース)、私たちの命や暮らしと地続きのフィールドとしてとらえなおす事からかもしれません。

(関東EPO高橋)