概要
今回紹介する「ESD・国際化ふじのくにコンソーシアム(以下、本コンソーシアム)」は、国立大学法人静岡大学教育学部(以下、静岡大)が、静岡県に於けるESD(Education for Sustainable Development =持続可能な開発のための教育)実践の進展を目指して、高等教育機関・学校・社会教育施設・自治体行政・企業・地域組織・市民団体組織などとネットワークを構築しており、「グローバル人材の育成に向けたESDの推進事業」(文部科学省補助事業平成28年度ユネスコ活動費補助金)の一つとして採択され実施している。このコンソーシアムでは、「育成」、「知的支援・助言」、「発掘・発信」、「つなげる」の4つの役割を柱としている。
静岡県内のユネスコスクール登録校は全体の1%に満たないことから、学校現場へのESDへの理解は継続して必要である。こうした状況の中で、ESDを実践している学校同士が交流したり、これからESDを取り入れようとする学校が参加し、現場で取り組まれている事を共有するのは、ESD普及の上で必要不可欠な活動ではないだろうか。
経緯
ESDは、環境省と文部科学省が主務官庁となり推進している事業である。 文部科学省では、ESDを「現代社会の課題を自らの問題として捉え、身近なところから取り組む(think globally, act locally)ことにより、それらの課題の解決につながる新たな価値観や行動を生み出すこと、そしてそれによって持続可能な社会を創造していくことを目指す学習や活動です」とし、その中核を担う一つがユネスコスクールである。
教員養成を主とする静岡大学教育学部では近年、ESDの推進に力を入れており、ユネスコスクール支援大学間ネットワーク(ASPUniv.Net)にも加盟している。また新たな専修コースとして、平成28(2016)年度より、初等学習開発学専攻のコースを新設した。
こうした大学の取り組みを背景に、ESDの実践の進展をより進めるために、静岡県内の高等教育機関、学校、社会教育施設、自治体行政、企業、地域組織、市民団体組織などとのネットワーク構築を目指し、平成28(2016)年度より、「ESD・国際化ふじのくにコンソーシアム」を展開させることとなった。
ユネスコスクールについて
ユネスコスクールは、1953年、ASPnet(Associated Schools Project Network)として、ユネスコ憲章に示された理念を学校現場で実践するため、国際理解教育の実験的な試みを比較研究し、その調整をはかる共同体として発足しました。世界182か国で約10,000 校がASPnetに加盟して活動しています。日本国内では、2016年10月現在、929校の幼稚園、小学校・中学校・高等学校及び教員養成系大学がこのネットワークに参加しています。日本では、ASPnetへの加盟が承認された学校を、ユネスコスクールと呼んでいます。ユネスコスクールは、そのグローバルなネットワークを活用し、世界中の学校と交流し、生徒間・教師間で情報や体験を分かち合い、地球規模の諸問題に若者が対処できるような新しい教育内容や手法の開発、発展を目指しています。
文部科学省および日本ユネスコ国内委員会では、ユネスコスクールを持続可能な開発のための教育(ESD:Education for Sustainable Development)の推進拠点と位置づけ、加盟校増加に取り組んでいます。 |
【参考】静岡県のユネスコスクール登録状況(平成29年3月現在)
校種 | 学校名 |
小学校 | 静岡サレジオ小学校 富士市立岩松北小学校 |
中学校 | 伊豆市立天城中学校 静岡大学教育学部附属島田中学校 静岡市立玉川中学校 掛川市立北中学校 富士宮市立富士宮第二中学校 |
一貫校等 |
星陵中学校・高等学校 |
高等学校 | 静岡県立伊豆総合高等学校 |
その他 | 静岡市立清沢こども園 静岡市立東豊田こども園 静岡市立由比こども園 静岡市立久能こども園 静岡市立和田島こども園 |
運営方法
本コンソーシアムでは、静岡県内の教育委員会、ユネスコスクール登録校、ユネスコ協会、国際交流協会、社会教育施設、大学、企業、NPOなど地域の様々な主体と連携しながら進めている。
平成28年度が初年度ということもあり、試行錯誤しながらの展開であるが、これまで個々に活動していたものをつなげ、ネットワークすることは、相互の学びあいに繋がる。この活動全体の牽引役が静岡大学であり、教員養成の観点からも、教育・活動の現場と高等教育機関が連携する意味は大きいと思われる。
実施状況
本コンソーシアムでは、初年度となる平成28年度、下記のように取り組んでいる。3ヵ年の事業であり、今後については実施状況を踏まえブラッシュアップしていく予定である。
- 「管理職教員のためのESD研修-静岡県-」 下記行事において、情報提供を行った。
- 日時:平成28年10月7日(金)13:30~15:00
- 場所:静岡県総合教育センター
- 主催:(公財)ユネスコ・アジア文化センター(ACCU)
- ESD・国際化(学習)カフェ
- ESD・国際化カフェ in 県東部地域
- 日 時:平成28年11月4日(金)13:30~16:30
- 場 所:富士市立岩松北小学校
- 対象者:幼、小、中、高校教諭、ESD関係者
- 内 容:ミニ講演(ESDをはじめよう、身近な施設(動物園)から考えるESDほか)
- 出席者:19名
- ESD・国際化カフェ in 県西部地域
- 日 時:平成28年11月18日(金)13:30~16:30
- 場 所:静岡大学教育学部附属島田中学校
- 対象者:幼、小、中、高校教諭、ESD関係者
- 内 容:ミニ講演(ESDをはじめよう、身近な施設(動物園)から考えるESDほか)
- 出席者:17名
- ESD・国際化カフェ in 静岡市
- 日 時:平成28年12月17日(土)13:30~17:15
- 場 所:静岡市産学交流センターB-nest
- 対象者:幼、小、中、高校教諭、ESD関係者
- 内 容:ミニ講演(ESDをはじめよう、ESDから幼児教育の原点を考える)、ディスカッション
- 出席者:31名
- ステークホルダー会議・全体会議・国際会議 場 所:静岡市産学交流センターB-nest
- 平成28年12月2日(金)13:30~17:15
○基調講演「内外のESDコンソーシアムの経験に学ぶ」
・北陸ESD推進コンソーシアム
・北九州まなびとキャンパス
・インドネシア・ジョグジャカルタESD推進拠点
○パネルディスカッション - 平成28年12月3日(土)9:00~17:00
○セッションⅠ:教員養成におけるESD
・インドネシア教育大学
・モンゴル国立教育大学
・シーナカリンウィロート大学(タイ)
・静岡大学
質疑応答・ディスカッション
○セッションⅡ:「静岡大学と組織・団体との連携」
・外国籍児童支援の経験から
・湖西市における多文化共生の実践:行政・大学連携からの事例
・多セクター連携における農業の高等学校のESD - 「ESDと浜松の教育を考える合宿学習会」 場 所:静岡県立三ケ日青年の家(浜松市) 参加者:27名
- 平成28年12月22日(木)14:30~17:00
○学習会1「ESDと浜松の教育」
○学習会2「社会教育とESD」 - 平成28年12月23日(金)9:30~12:00
○体験活動(火おこし、ピザづくり) - 初年度成果報告会
- 日 時:平成29年2月7日(火)13:30~16:30
- 場 所:ホテルアソシア静岡
- 内 容:成果報告(静岡大)、講演(文部科学省ユネスコ振興推進係長)、実践発表(静岡市立久能こども園ほか)
- 「学習指導要領改定に係るESD説明及び検討会」(協賛事業)
- 日 時:平成29年2月16日(木)13:30~17:00
- 場 所:修善寺総合会館
- 内 容:ESDの捉え方、ESDとジオパーク学習との関わりについて、ワークショップ:ESDを学校で定着させていくために
ポイント
本コンソーシアムでは、静岡県内のユネスコスクール登録校が連携することで、全体のレベル向上を目指しているといえる。静岡で特徴的な点は、静岡市が幼稚園やこども園のユネスコスクールに推進に熱心であり、他県ではあまり取り組まれていない幼児教育のESDが進んでいることは興味深い。また動物園でのESDのプログラムを実施するなど、意欲的な取り組みが見られる。ESDは、小学校のみならず、様々な場所で取り組まれるべきであり、ESDの裾野を広げる意味で、本コンソーシアムの様々な取り組みは興味深い。
カテゴリ
■事業協力・事業協定
テーマ
■ESD・環境教育
関係者(主体とパートナー)
- 教育委員会<14市町(県内全35市町)>
- 静岡県内のユネスコ協会
- 静岡県内ユネスコスクール<7箇所(県内全14箇所)
- 静岡県内の国際交流協会
- 静岡県内社会教育施設
- 静岡県内大学
- 静岡県内企業
- 静岡県内NPO
■参考資料
取材:伊藤博隆(関東地方環境パートナーシップオフィス)
2017年3月