[国内事例115] 鮭の里親活動を通じた地域の新たなネットワーク ~ふるさとのきれいな川をつくろう~


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概要

 群馬県と栃木県を中心に流れる渡良瀬川は利根川水系の一級河川で、かつては上流にある足尾銅山からの鉱毒被害も発生した。大雨時は鉱毒の流出の可能性は残るものの、現在は多くの地点でサケ科魚類が住める水質基準A類型及びB類型を満たしており、鮭類の遡上も観察されている。
 平成26年11月、渡良瀬川の自然の回復を目指して、「ふるさとのきれいな川をつくろう」という活動が開始された。これは、(特活)日本NPOセンターが環境NPOを応援する「Green Gift」プロジェクトの一環として実施するもので、企業からの寄付のほか、全国の環境パートナーシップオフィスも協力している。

経緯

 「Green Gift」プロジェクトは、東京海上日動がご契約者とのご契約時に保険約款等をホームページで閲覧する方法(Web約款)を選択した場合に、紙資源の使用量削減額の一部で(特活)日本NPOセンターへ寄付を行い、環境保護活動を行うものだ。全国各地の子どもとその家族が地域の環境活動への参加を通じて、地域の環境課題に関わるきっかけづくりを行うプロジェクトだ。3年の期間(2013年10月から2016年9月まで)をかけ毎年16地域、各地200人の参加を目指している。
 関東地方環境パートナーシップオフィス(関東EPO)は、日本NPOセンターとともに地域のコーディネートを行い、関係者との調整を図っている。
 今回のステークホルダーは、これまで直接の結びつきはなく、「Green Gift」をきっかけに出来た関係だ。また、地域の繋がりとしてもチャウス自然学校と両毛漁協も、それぞれの活動に参加するなどの繋がりはあったものの、一緒にプログラムを実施したのは今回が初となる。「Green Gift」のプログラムを通じて、地域に新たなネットワークが生まれることになった。

運営方法

GreenGift_kankei 「Green Gift」プロジェクトは全国で実施されるプログラムで、都道府県毎の環境NPOが協働のパートナー団体としてプログラムの主体となってもらう仕組みだ。群馬県のプログラムの主体となるのが、民間の自然学校として、主に子供を対象にキャンプなどの野外体験の機会を提供しているチャウス自然体験学校だ。チャウス自然体験学校は、プログラムの企画・運営・全体調整を行い活動を束ねている。今回は「ふるさとのきれいな川をつくろう」をテーマとするため、地元の内水面漁協である両毛漁業協同組合の協力を得て、技術指導や鮭の卵の調達の他、河川管理者との調整など専門的なノウハウやネットワークを提供して頂いている。
協賛企業の支店として、東京海上日動群馬支店も一員として加わり、社員とその家族がボランティアとしてプログラムに参加するほか、地域の小学校への出前授業(マングローブの植林活動の話など)で関係のある学校、損害保険の代理店を通じた顧客への参加呼びかけなどを行っている。こうして、これまで繋がっていなかった地域の様々な主体が一丸となり、今回の事業を実施している。

実施状況

主に鮭の保全活動に関わる活動を行っている。

  • 第1回:2014年11月9日(日)故郷に戻るサケの遡上観察とゴミ拾いウォーク
     →チャウス自然体験学校 活動レポート
    渡良瀬川に遡上してくる鮭を観察した。観察場所の松原橋付近は、ちょうど鮭が産卵する地点となり、活動時にも鮭の魚影が観察できた。参加者の方の多くが、渡良瀬川に鮭がいる事を知らず、驚いていた人が多かった。その後、河川敷に散乱するゴミの回収を行った。

  • IMG_0039S第2回:2014年12月21日(日)サケの卵の配布と川辺のゴミ拾いウォーク
     →チャウス自然体験学校 活動レポート
    河川敷に散乱するゴミの回収を行う。管理方法などを漁協の方よりレクチャーして頂き、発眼卵(受精後約1か月ほどで、外から目が見える状態)を参加者に配布。稚魚を放流できる大きさに育ててもらう里親になってもらう。

  • 第3回:2015年 2月28日(土)サケの稚魚放流とゴミ拾いウォーク
     →チャウス自然体験学校 活動レポート
    河川敷に散乱するゴミの回収を行った後、自分たちで育ててきた鮭を放流する。

  • 第4回:2015年 6月21日(日)ヤマメの稚魚放流・環境学習とゴミ拾いウォーク
    ※実施予定
     →チャウス自然体験学校 実施案内

ポイント

 今回プログラムに参加した家族からも、以下のような声が聞かれた。

  • 「魚を育てるのは大変だね」と言っていました。 いつも食べている魚に対して「おいしく食べるね」と色々思いながら感謝して食べることができるようになりました。(保護者)
  • 子供がゴミ拾いなど積極的にやるようになった。サケも一生懸命育てていた。(保護者)
  • 生き物や自然の大切さを知る良い機会になりました。(保護者)

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筆者も今回の企画に関わり、自らも鮭の里親として約2か月半、卵から孵化させて育てた。孵化直後、臍嚢(さいのう)と呼ばれる栄養袋が腹にあるうちは餌を与えないが、餌やり始めると糞で水が汚れるため頻繁に水替えを行った。帰宅後、毎日深夜に水替えを行ったが、手間が掛かった分、愛着も湧く。魚の生育は頭では一応分かっていたものの、実際に飼ってみると様々な発見があり、自分でも意識の変化があったように思う。
弁当やおにぎりの具材としてポピュラーな鮭であるが、こうした膨大なプロセスを経た上で捕獲まで4年ほどの歳月が必要だと考えると、1個100円ほどのコンビニおにぎりを食べるにしても、他の生きものの命を摂取している事をよりリアルに感じる事になり、食への感謝の気持ちが増したように思う。本プログラムを実施することで、子供だけでなく、一緒に世話をする大人に対しても、以下の点について学びや再発見につながるように思う。

  • 生物多様性への認識
    参加者の多くは、渡良瀬川に鮭が遡上している事を知らなかった。普段、特に意識していない川が、実は豊かなものであるとの認識が強まり、環境保全への意欲が高まる。
  • 食の成り立ちに対する認識
    多くの人は、自分の食べる食事をスーパーで買うなど、食材の調達に関して外部依存している。食材でもある魚を自ら卵から育てる事で、そのプロセスを理解し、自分が何によって活かされているのかを気付くことになり、「いただきます」の意味を再認識する。
  • ゴミの処分に対する認識
    川沿いのゴミ拾いをすることで、ペットボトルや容器包装ごみの散乱状況を理解することで、排出抑制や適正処分への意欲が高まる。
  • 命に対する認識
    鮭を育てていれば、病気で死んだり、水温や水質など水槽の環境が悪化して死なせてしまう事もある。「一度死んだものは生き返らない」事を改めて気づかされる。

勿論、上記以外の気づきもあるが、今回のプログラム参加者は、ふるさとの自然について再発見し、そうした自然環境を保全しながら、自然と共生して生活しようという意識が高まったのではないだろうか。

地域毎の「Green Gift」プロジェクトのプログラムは、原則として単年度の実施であるが、参加者を始め関係者全体としても良い感触であることから、チャウス自然体験学校としては、引き続き「Green Gift」プロジェクトのステークホルダーと連携していきたいと考えている。今後の展開に期待したい。

 

カテゴリ

■事業協力・事業協定

テーマ

■生物多様性・自然保護 ■ソーシャルビジネス・CSR

関係者(主体とパートナー)

 

取材:伊藤博隆(関東地方環境パートナーシップオフィス)
2015年2月