「国連防災世界会議パートナーシップ・ダイアログ」開催報告


2015年3月3日、「国連防災世界会議パートナーシップ・ダイアログ」をGEOCセミナースペースにて開催した。

これは、同月開催される「第3回国連防災世界会議」パブリック・フォーラム公式サイドイベント「防災・減災・復興への生態系の活用 3.11の経験を世界へ」(環境省、国連大学、IUCN主催)のプレイベントとして実施したもので、ゲストスピーカーに、環境省自然環境局生物多様性地域戦略企画室室長の奥田直久氏と、国土交通省国土政策局総合計画課の岩浅有記氏を迎え、両省庁による生態系を基盤とする防災・減災対策やグリーンインフラに関する取組紹介の後、モデレーターに国連大学サステイナビリティ高等研究所の渡邉綱男氏を加えて、約30人の参加者とともに意見交換する場となった。

Eco-DRRの主流化を目指して――環境省の取組

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まずは、環境省の奥田氏(右写真)より、気候変動の影響による災害増加や、被害額の増大、災害・被害のアジア集中化といった、昨今の自然災害に関する背景説明があった。一方で、最近見直されているのが、生態系サービスのひとつである自然災害防御作用に注目したEco-DRR(Ecosystem-based Disaster Risk Reduction)の取組だという。

海岸防災林が津波等の被害から沿岸地域を守り、湿地が洪水被害を軽減し、森林が土砂崩れを防ぐといった、自然が持つ防災・減災機能を活かす概念であり、コスト面からも、生態系保護の面からも、また平常時のレクリエーション活用の視点からも、非常に有効な対策になり得るとのこと。

その効果を奥田氏は、「宮城県沿岸の海岸林」「宮城石巻市長浜」「米国ルイジアナ南部湿地」「渡良瀬遊水地」「大分県中津干潟」といった具体事例を使って説明し、今後も環境省として、東日本大震災後のグリーン復興モニタリングを継続し、生態系の防災・減災機能の評価を推進することで、Eco-DRRが国内外で主流化されることを目指すという。

その動きは、「アジア国立公園会議」や「生物多様性条約COP12」や「世界国立公園会議」といった国際会議においても顕著で、COP12(2014年於韓国)では日本の提案に伴い、決定文書名に災害リスク削減が加わったことからもうかがえる(奥田氏)。とはいえ、HFA(兵庫行動枠組)目標達成に向けた進捗状況の中間評価では、最も進捗がない分野という事実も無視できない。ゆえに、近く開催される「第3回国連防災世界会議」(於仙台)の場における「ポスト兵庫行動枠組」の策定に日本のイニシアティブが期待されると展望を示した。

グリーンインフラに関する国土政策への位置づけと世界の動き――国土交通省の取組

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つづいて、国土交通省の岩浅氏(右写真)からは、「NATURA2000」と呼ばれるEUにおける生物保護地区のネットワークや、欧州委員会におけるグリーンインフラの定義の紹介を通じて、自然保護を主目的としたプロジェクトでは進展が見えなかったが、生態系の多面的機能に着目し、都市計画や農業政策に組み入れて事業化することで、グリーンインフラという概念が広まった背景説明があった。

米国では、雨水管理に主眼が置かれ、EPA(米国環境保護庁)が中心となってグリーンインフラの定義や事例をまとめたとのこと。農業をはじめ幅広い生態系サービスとの関わりが深い生態系ネットワークの形成に主眼が置かれたEUとは出発点こそ違うものの、国土管理と自然共生の両立を図る目的は同じといえる。

一方、日本では、2013年ころから欧米におけるグリーンインフラの考え方が紹介され、2014年7月に国交省が公表した「国土のグランドデザイン2050」にも自然共生の観点にも配慮した防災・減災対策が盛り込まれ、2015年夏には同グランドデザインを踏まえて策定される国土形成計画の見直し、さらには関連する政府の計画として、社会資本整備重点計画の見直しや地球温暖化に関する適応計画の策定などが予定されているそうだ。

また、岩浅氏が私案としながら披露した、政府内役割分担とグリーンインフラの位置づけでは、環境省は“自然物”を対象としたEco-DRRを推進し、国交省では“自然物と人工物”を組み合わせた社会資本整備を進めることで、両省の関係性がこれまで以上に緊密になる予感もうかがわせた。

総合的なアプローチとコミュニティの形成

両者の講演後の意見交換会では、森の防災効果の話と関連した質問として「例えば、パプアニューギニのマングローブ林は先住民による長年の管理の賜物だが、開発を優先した結果、伐採が進むという負の側面もあった。そのバランスについての意見を聞かせてほしい」(アフリカ日本協議会 林氏)という声があがると、コンサベーション・インターナショナルの日比氏から「生態系サービスの価値を再認識しながら、防災・減災、気候変動適応など、総合的なアプローチが望まれる。またその際には、地域コミュニティの在り方も重要で、特にアフリカ地域などでは、身の回りのリソースに男女問わず平等にアクセスできる環境を整えることが重要になるので、ODAの活用にも期待したい」との意見が出た。
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上記意見をふまえて奥田氏は、「たしかに、自然か開発といったパワーバランスの中で、開発優位になれば自然破壊につながりかねない。だからこそ長い目で見た時に、日比氏の言うような総合的アプローチが必要になる。その際には、地域の合意形成が非常に大切で、選択肢の幅を広げて提示することが行政の大きな役割になるだろう」とし、岩浅氏は、「自然再生事業の導入によって、保護から再生のステージに移行した。だが、自然保護や再生は、従来の社会インフラの否定ではない。とかく防災では環境が後回しになりがちだが、両立できることを示したい」とした。

さらに、JICAからは、「生態系を基盤とした防災は、コストがかからないと強調されるが、例えば、中国で進む植林事業において、破壊した森林にただ植林するだけでは防災的には不足。固定しながら植林するという手間とコストのかかる技術が必要になることも忘れないでほしい」という指摘もあった。

会場からは、コミュニティの形成と関連して、ESDの視点の重要性も指摘された。「地域が何かを選択するには、学び合うことが大切。一般の人向けにどのように啓発し、合意形成に至ったのか」という質問に、奥田氏は、メディアの活用や、ガイドブック制作などを挙げ、岩浅氏もそれに加えて「常に現場と概念を行き来する思考が求められるので、行政としては市民が参画する場づくりを提供したい。地域のマンパワーを活用することで、地域の収益につなげるしくみや、資産価値の上昇の可能性について丁寧に説明することも大切」とした。

さらに、「自然、経済、社会のトライアングルのバランスをとりながら、全体が向上する仕組みを考えたい。立場に関わらず、地域をよりよくしたいという志は同じなので、批判でなく提案型の場をつくるのが理想」(岩浅氏)とも。

会場のマスコミ関係者からは「メディアとして、議論の場づくりや、情報発信していくことが大切だと再認識した」という感想もあがり、最後にモデレーターとして会場全体から意見を引き出した渡邊氏が、「ミレニアム開発目標(MDGs)の達成期限(2015年)が迫る中、SDGs(持続可能な開発目標)の策定に向けた議論が行われているその中でも、防災・減災が世界の動きの中心に位置づけられるようになるだろう」と展望を示して会をしめくくった。

(S. Fujiwara)