パートナーシップ事例紹介
人が生かされ、町が生きる
“上勝町のゼロウェイスト宣言、葉っぱビジネス”の取り組み
1)ごみステーション見学
人口2,200人の四国で一番小さい町「上勝町(かみかつちょう)」
この町にはごみの収集車も焼却施設も最終処分場もない。一般家庭には生ごみ処理器が設置され、またごみは住民がリサイクルセンターに持ち込んで分別するという方法が取られている。ごみは34分別。これによってごみが全国平均の約3分の1に減量した。
■町長と環境NGO、そして住民とのパートナーシップ
あるイベントがきっかけで、笠松町長はグリーンピースジャパンの廃棄物問題担当の佐藤潤一氏と出逢い、「ゼロウェイスト」の考え方を知る。これを機に町の「2020年までにごみの徹底的な発生抑制を実現する」という「ゼロウェイスト」宣言が2003年9月に発表された。なかば無茶とも言えるこの宣言に圧倒されてか、住民はこれに応えた。
旗振り役を演じた、役場のまちづくり推進課の東ひとみさんに話を伺った。ごみ回収車が町を走らず、すべての住民が唯一の集積所「ごみステーション」に持ち込み、そこで分別をするという方法だ。最初分別収集を始めるまでに1ヶ月しかなかった時は労組が反対したのだが、町長自ら頭を下げて説得に奔走した。超過勤務手当てをつけるからという条件でなんとか乗り切った。しばらくすると自治労の県本部までが見学に来ることに。これで町役場の労組は反対とは言いにくくなったのだ。東さん曰く「外圧もうまく利用することですね。」ステーションは毎日開いており誰でもいつでも利用できるようになっている。分別は34分別。プレハブの建物の1階のフロアすべてを使って分別収集箱が並んでいる。
2階には本や古着、おもちゃなど、欲しい人が自由に持っていけるように並べてある。(都会だったら野宿生活者が住みついてしまいそうなくらい立派な4畳半の和室が4つ使われていた)「分別は大変じゃないですか?」の質問に「いえ、もう慣れました。」と住民のお一人が答えてくれた。ごみを増やしたくない、持ち入れたくないという意識も高まりつつあり、生協でグリーン購入推進の動きも出てきている。
ごみ分別はすでに一日の日課、習慣になっているらしい。しかし遠くに住んでいる人や高齢者には苦労があるのではないだろうか。
この問題を解決するのは、ボランティアグループ「利再来上勝(りさいくるかみかつ)」、ゼロウェイスト推進の強力なパートナーだ。近くに住む高齢者の家のごみを自分のごみを運ぶついでに運んだり、地域によっては集落単位で収集場所を独自に設けて運んだり、彼らが町の取り組みを支え、ごみは確実に減っているそうだ。利再来上勝の活動はごみ収集だけに限らない。子どもたちにとって最適な町を残したいという願いで昭和62年から活動を開始した50名ほどのグループで、地域活動にさまざま取り組んでいる。「元気な人しかいられない町なんですよ、病院がないから・・。」と東さん。3世代同居が一般的だというこの町では子どもたちは高齢者と一緒に育つ。これも高齢者が元気な理由の一つだろう。
上勝町ウェブサイトhttp://www.kamikatsu.jp/
2)葉っぱビジネスでおばあちゃんたちが元気に、収入が町に。
上勝町を一躍有名にしたのが「葉っぱビジネス」と呼ばれる、料亭などで使う「つまもの」を流通させるビジネスだ。当時農協の職員だった横石知二さんが出張先の料亭でつまものを鑑賞している女性客を見てひらめいたアイデアから始まった。現在年商2.5億円にものぼる町の生業になっている。
■彩(いろどり)の人たち~パートナーシップというよりむしろ「絆」~
もともとは温暖な気候に育つミカンやスダチなど柑橘系が主な特産品だった町を1981年大寒波が襲い、生産が行き詰ってしまった。「町は荒廃し、雨が降れば酒を飲んでいるような町だった」と横石さんは当時の荒れた状況をふりかえる。しかし、葉っぱビジネスをきっかけに町は一気に息を吹き返すことになった。最初はみな半信半疑だったが、農協職員という立場で横石さんはおばあちゃんに熱心に語りかけつづけた。来る日も来る日も説明会、ミーティング、会合。次第にその熱意におばあちゃんたちが巻き込まれていった。実現させるカギとなったのはコンピューターによるシステム開発。おばあちゃんたちが自宅で受注したり、市場の動向をチェックできるよう、専用端末を導入。その開発費は1億円だったとか。
おばあちゃんたちはただ受注して決められた量の葉っぱを出荷しているだけではない。つねに動向を見て季節や曜日によって次にどんな注文が来るか考え、予測する。「つねに自分で物事を考えるような習慣を作るのが大事。これでおばあちゃんたちは脳が活性してボケないのです。」横石さんは断言する。横石さんの行動予定はすべて端末機で見られるようになっており、24時間365日おばあちゃんたちと一緒にいるという印象を与えている。毎日FAXで励ましの文章も送る。マーケティング調査も欠かさない。時々東京や大阪の料亭にみんなで行って自分たちの出荷したものがどうやってテーブルに出てくるか勉強してくるそうだ。ともに歩んでいるという一体感を生み出しているのが秘訣だという。そこには生産者と流通業者という関係や対等なパートナーシップではなく、「絆」が存在している。
葉っぱの出荷をしている針木ツネ子さん宅を訪ねた。家のすぐ前のハウスでナスタチウムの葉っぱを摘む。きれいな葉を選び、小さなハサミで茎を切りバケツに入れるという作業の繰り返し。高齢者でも簡単にできる作業である。1枚10円で売れるのだそうだ。100枚摘むのに大した時間はかからない。葉っぱがお金に見えても無理はない。横石さんは「大黒様。なくてはならない人。」と、ツネ子さん。
この葉っぱビジネスによって確実におばあちゃんたちの収入は増えていった。息子よりも年収が多いおばあちゃんもいると聞く。孫たちへのおこづかいも弾むので子どもたちも喜んで町に帰ってくる。横石さんは“商売は心理学”と言い、葉っぱビジネスは単に商品ではなく、山の価値を売っているのですと教えてくれた。衰退する林業を背後に抱え、山の手入れと葉っぱビジネスが両立するのはまだ難しいが、少なくともこの町に注目する人が増えてきていることは確実だ。おばあちゃんたちの絆を支えにまだまだ伸びる可能性を秘めた町であった。
いろどりウェブサイト http://www.irodori.co.jp/
2)知恵を出して苦難を乗り越えた町
20年前の大寒波を経験し、また多くの農村地域が抱える少子高齢化による人材不足、森林や農地の荒廃、町財政の悪化と市町村合併、町内産業の衰退を経験した上勝町を再生させたのは他でもない町と住民の知恵と協力だった。
ごみ問題、葉っぱビジネスのほかにも棚田トラスト運動や、林業活性のための第三セクター、まちづくり運動会など、多角的に知恵を出し合って取り組んでいる。「町を愛する心は町を変える」というスローガンを掲げ、住民の意識を確実に変えつつある。同じ目標に向かって協力するという仕組みをしかけ、熱く語る町、そしてそれに応え、また自発的に取り組む住民が上勝町をますます元気にさせている。
人が生きている、生かされているところという印象をもつことができた町であった。
星野 智子(環境パートナーシップオフィス)