GEOC連続セミナー
■「持続可能な開発」セミナー基本編 第1回「全体にかかる基本的勉強会」
- テーマ:今あらためて考える~ヨハネスブルグサミットのフォローアップから地域活動まで~
○質疑応答
- ●持続可能な社会について
- 【会場】来年から始まる「持続可能な開発のための教育のための10年」のお話がありました。学術研究の場にいらっしゃる松下先生は、「教育改革」にどのように取り組まれるお考えですか?
- 【松下】所属する京都大学大学院の地球環境学堂は、高度に専門的な知識と問題解決能力を持つ専門家の養成を目指しています。学術研究組織の「地球環境学堂」と教育組織である「地球環境学舎」と交流組織である「三才学林」で構成されています。担当する環境マネジメント専攻の修士課程は、社会科学と自然科学の学際的な学術組織であり、必修科目を半年間学んだ後、半年は現場(環境省やコンサルやNPO)でインターンとして働き、現場経験を積むというユニークなカリキュラムをとっています。
- 【会場】先生のお考えでは、持続可能な社会のビジョン、イメージはどのようなものですか。
- 【松下】未来は個人がそれぞれ描くことが大事。しかしIPCCのレポートを読むと、資源利用について制約条件があるのでそれを頭に入れておきましょう。例えば、現在より化石燃料の使用は半分にし、水は再生できない部分が大きい資源なので、できるだけ利用効率を高め、雨水などを利用する、などです。
世界的に少子高齢化が急速に進むと思います。女性の教育が高まると出生率が下がり、それにより人口問題はあるレベルを超えると解決に向かうと考えられます。CO2排出量を60%減らすということは1960年ごろの消費量に戻すということですが、最近発達している技術を使えば、現在の生活レベルを維持しながらエネルギー消費を減らせると思います。 - 【会場】地元でエコビレッジをつくろうと取り組んでいます。具体的アクションに移るときに誰とどのようにパートナーシップを組んでいけばいいのか相談先を探しているのでが。
【EPO/GEOC】まちづくり、むらづくりを地域に広めていくのは大事なこと。地域の人が地域のことだけを見ているだけではなくて、地域の外の人が入ることによってより広い視点が得られるからです。EPO/GEOCは各地の情報を集積しているので似たような視点を持つところを紹介するなど、つなぐ役割を担っています。また、WSSDの際に全国で30回近く開催した地域セミナーのネットワークがESD-Jにあります。コンタクトしてみはいかがでしょう。 - ●ヨハネスブルグサミットのフォローアップについて
【会場】WSSDにおけるTYPE2イニシアティブについて、現在の実施状況や約束文書の成果の状況を教えてください。 - 【松下】TYPE2については、詳しくは把握していません。これから包括的に調べたほうがいい。CSDでもTYPE2イニシアティブについてのレビューが始まると思います。
- 【EPO/GEOC】日本におけるCSDの実施状況については、1996年からJCSDという政策対話の場が設けられ、2か月に1回ブリーフィングやディスカッション形式の会合をこちらの会場で実施しています。従来は国際会議に対する報告書を提出してきましたが、WSSD以降の活動内容としては、170項目におよぶ世界実施計画のレビューをする予定です。世界実施計画の中で、現在日本のNGOが取り組む活動がどの部分に当たるのか、日本の政府のTYPE2は30項目ですが、それがどこに当たるのかも検証します。日本政府のTYPE2も金額やパートナー機関の情報など、実態が非常に見えにくい。JCSDがモニタリング組織のNGOとして機能していけたらいいと思います。
- 【会場】CSDの中で合意されたことが各国で実効性が弱いのはどうしてでしょうか。具体的な問題点を教えてください。
- 【松下】CSDは、当初は国連組織の中でアジェンダ21を毎年レビューする機関としてできました。大きな権限を持つ担当者が代表として議論する場として考えられたのです。しかし現実的には、各国の環境省の大臣・次官による環境サイドの意見交換はできても開発や経済サイドの意見が議論の場に出てきません。その結果、国レベルでは各省庁は自分たちに都合の悪い意見には反対します。そこで最近では、実際に取り組んでいる状況・経験を紹介し合い、その上で各国が取り組む際の支援を相互に始めています。
国際組織においても環境への取り組みは弱い。貿易についてはWTO、開発・金融はIMF・世界銀行などの専門機関があります。環境についてはUNEPやCSDです。しかし職員が200~300名前後で予算も100億円程度の乏しさで、世界全体の環境を見ている。世界的な取り組みとしては力が足りないのが現状です。 - ●海外の動向について
- 【会場】最近の環境分野の取り組みについては、ヨーロッパのイニシアティブによるものが多いですが、そのような戦略が取れるのはどうしてでしょう?米国があのような状況だからというほかに、欧州の政治状況・市民の意識がほかの地域とは違うのでしょうか?
- 【松下】米国はよい意味でも悪い意味でもフロンティア精神の国であり、彼らは拡大することに米国の存在意義があると考えています。気候変動枠組み条約の交渉時、米国にとってエネルギー使用を抑えられ、例えば自動車での移動を制限されることは、米国人が米国人であることを否定されることだ、という発言がありました。H. D. ソローの『森の生活』など偉大な自然思想が生まれる一方、本流は産業で解決するという意識が強い国です。それに対して欧州は、チェルノブイリ原発事故、緑の党の誕生などをきっかけに、戦略として環境を軸としてグローバルスタンダードをつくろうとする意識が強いように感じます。●環境政策について
- 【会場】自然エネルギーの利用率について伺います。環境省は「環境と経済の好循環」という方向性を標榜していますが、ごみ発電を安い自然エネルギーとして普及するのは危険だと感じています。環境ビジネスの普及は結構ですが、焼却炉メーカーだけが潤うのはおかしいのでは?国に頼るばかりではなく、市民が率先して自分たち市民で社会制度を変える人を作っていかないといけないと感じているのですが。
- 【松下】ごみ発電についていえば、新エネルギーを経済性だけで評価すると、ごみの大量廃棄大量焼却を推進することになってしまう。もちろん、ごみについては排出抑制が一番重要。
社会を動かすには、具体的な成功例でインセンティブをつくり誘導する、という流れが必要です。スウェーデンでバイオマスの利用率が高いのは、一般国民にとってはバイオマスを使ったほうが安いからという経済的インセンティブが働いているためです。化石燃料を使うと税金が高い。ライフスタイルを変えるためには、利便性によって環境に良いものに誘導するような社会制度・システムをつくらなければいけません。ごみ発電、太陽光発電、風力発電を、自然エネルギーとして同列で語るのはおかしい。補助金では限界があるから、価格差を設定するなどして、電力会社が買い取るようにすればいい。PRTR法では企業の有害廃棄物の公表制度が義務付けられていますが、CO2排出量についても公開を義務付ける制度をつくるといいかもしれない。あまりお金をかけなくてもできることがあるはずです。 - 【会場】環境省ではいろいろな法律を作っているが、これは環境問題の解決に向かって歩いているのだろうか?環境行政のあり方についてコメントがあればお願いします。
- 【松下】私が環境省にいたころからすれば、そうした今の状況はうらやましい限りです。私が所属していた当時は連戦連敗だった。今は法律を出せば国会で通るし予算も得られる。しかし、環境省は特定の業界とのつながりを持たず一定の使命を持っている。本来の目的が達成されているか、手段が目的化していないかということを検証する必要が常にあるのではないでしょうか。
- 【会場】WSSDに行ってNPOが政策の意思決定に影響を与えることができるということを実感しました。環境省に取り上げてもらえるような政策をつくれるグループがあったらいいと感じています。
- 【環境省】役所は新しいことをしたい組織ですから、いい提案であれば歓迎します。しかしさまざまな制約もあるので、政策決定のプロセスをご理解いただいて、乗れるような提案をいただければ、具体的な政策になる可能性はあります。法案を抜きにした「べき論」は簡単ですが、「第一ステップとしてここまでやりましょう」という具体的な提案だとありがたいと思います。
- 【EPO/GEOC】今年の6月4日にEPOで開催した「環境省重点事項ブリーフィング」では、「環境省に期待している。戦略・政策の具体的な練りこみを、環境省職員と一緒にやりたい」という熱心な声もありました。
- 【松下】国際協力銀行における環境ガイドラインの審査役をやっていますが、そこでは公開フォーラムを13回開いて、その議論をベースとして環境ガイドラインを作っています。環境影響評価を行い、地域住民の暮らしに悪影響を与えている場合には、資金提供をした者に異議申し立てができるようなガイドラインです。フォーラムにはFoE Japan、メコンウォッチ、経済産業省などのステイクホルダーが集まり、透明性の高いガイドラインの作り方だと感じています。「NGOが政策に影響を与えられるのか?」の一例といえるでしょう。
また、「政策提案型NGOができないのか?」という点についてですが、政策提言というのはプロフェッショナルな仕事です。企業も役所も24時間体制で情報を収集しています。最近のNPOでは環境エネルギー政策研究所ががんばっていますね。ここは、プロレベルの技術情報や海外の情報も持っています。それにより、事業者に対しても技術的な限界を超えるための現実的な提案ができています。NPOもノウハウを蓄積することで委託調査などプロの仕事をしているケースもあるわけです。 - 【会場】法治国家において、市民から行政を変革するといった場合、法により誘導するのが有効だと思います。例えば河川法の改正をめぐって32年の戦いがありました。法的論点については具体的に対峙しながらつくり、7年前にやっと変わりました。「変えたい」という思いを話し合うだけではなく「変われる誘導づけ」を市民がすることが大切。論点を明確にして市民と行政が対峙する緊張感を失ってはいけない。それによって、よりよい時代をつくるエネルギーが生まれるはずです。
- 【EPO/GEOC】EPO/GEOCでは毎年「NGO/NPO・企業環境政策提言フォーラム」を行い、いい提案があれば予算をつけて実施しています。しかし最近は、応募してくる提言数が減っていて、原因は2点あると思っています。(1)政府の仕組みに載せられるような提言能力のあるNPOが少ない。(2)提案力のあるNPOは既に環境省との交渉のチャンネルを持っている。(1)と(2)の格差を埋めていくための仕組みが必要です。例えば、ODAをめぐっては、外務省とNPOとで定期的に協議し、互いの課題を共有し、ざっくばらんな意見共有ができていると聞きます。環境政策については難しいものなのでしょうか?
- 【環境省】政策提言フォーラムでは、優秀な提言には追加調査費を出して磨き、より実現性の高いものにしています。例えば「学校のエコ改修をしよう」という昨年度の提言については、来年度の環境省の予算をつけようと考えています。
一般論としては、環境は分野が広いので、一同に会して課題を共有するというより、分野別に集まるほうがいいと思います。環境省側は時間調整さえできれば、そういった場に出て行きます。
Seminars on Sustainable Development
グローバルな課題を理解し、各地域・各テーマでより効果的に活動するために
各地・各団体の環境保全活動は他の活動や「持続可能な開発」という概念とどのような連関性を持っているのでしょうか。今回の一連のセミナーは、グローバルな流れと地域活動のつながりを見つけるために企画しました。国連を中心に取り組まれてきた地球規模での動き(歴史やヨハネスブルグサミット、その関連の条約)などについてまず捉え、また各団体の具体的活動とその連関性はどのようになっているか考え、各団体活動の位置や使命を再確認することを目的としています。これによって環境・開発問題に関してのさまざまな視点を養い、また連携やさらなる発展の可能性を見出すことが期待されます。
*用語解説は主にEICネットのホームページにリンクしています。