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【国内事例124】 多様な視点と共感で紡いだ、プロボノ×環境NPOプロジェクト―里山コネクト 2017年3月31日

プロボノとは

 

 市民活動(非営利セクター)の多くが、公共セクターではカバーしきれない社会課題を解決することを目的に活動をしている。彼らの活動は、より多くの理解者、支援者を必要としていて、そのために効果的な広報をすることは重要なことである。しかし、課題解決や活動の専門知識はあるが、広報の専門知識などは持ち合わせていない場合が多く、自分たちだけではできないこともある。

 そのような場合の心強い味方が、企業セクターに属する人が専門的知識を活用して非営利セクターを支援するボランティア活動「プロボノ」だ。プロボノとは、「公共善のために」ということを意味するラテン語、「Pro Bono Publico」の略である。もともと弁護士など法律に関わる専門家が無報酬で行う活動のことを指し、アメリカやイギリスなどでは 20 世紀ごろから行われてきた。弁護士業界のみの活動だったものが、時代とともに、徐々にデザイン、広報、IT、経営診断等、分野を広げつつある。

今回の事例は、特定非営利活動法人よこはま里山研究所(以下、NORA)の課題解決に、プロボノスタッフからなる特定非営利活動法人 NPOコミュニケーション支援機構(以下、a-con)のプロジェクトをもとに、異なるセクター同士の協働におけるポイント、その効果を取材した。

プロジェクトの背景―里山の危機

 近年、生物多様性は、社会の変化、環境の変化により、危機にさらされている。環境省の生物多様性国家戦略2012-2020では、生物多様性の危機について以下4つにまとめている。

  •  第一の危機:開発など人間活動による危機
  •  第二の危機:自然に対する働きかけの縮小による危機
  •  第三の危機:人間により持ち込まれたものによる危機
  •  第四の危機:地球環境の変化による危機

 同戦略では、生物多様性にとって重要なフィールドとして、里山が取り上げられているが、里山は、人の介入がなくては成り立たない。そのことが、第二の危機に象徴されている。この危機に対して国や自治体は、中山間地の放棄された農地や林地を近隣の住民が協力して整備をすることや、都市住民との交流を促進することに対する支援などを継続して実施しているが、里山は中山間地だけにあるのではない。都市近郊に残る里山も、同様に危機を迎えている。

 NORAは、都市住民と里山のつながりを取り戻すため、ボランティアによる里山保全活動を20年来続けてきた。そして、人と里山の関わりは、少しずつ様相を変え、社会の変化と共に、里山の資源を活用し、生業とする、社会的企業家が増えてきている。NORAは、この「里山をいかす仕事」と、「里山とかかわる暮らし」を応援する取組の必要性を考えるようになった。

プロジェクトの概要

  「里山をいかす仕事」と「里山とかかわる暮らし」をつなげるために、NORAが取組む内容は、以下である。

  • ネットワークづくり
  • 情報が集まるサイトづくり
  • 活動を支える理念づくり

 このうちの、「情報が集まるサイトづくり」に関してNORAは専門性を持たないため、a-conに依頼。本プロジェクトが立ち上がった。

 期間は平成29年10月~平成30年2月の4ヶ月間で、a-conから6名、話題提供者としてNORAから1名、関東EPOから1名というメンバーで、アウトプットとして、多摩三浦丘陵エリアの「里山をいかす仕事」を見ることが出来るサイト、「里山コネクト」が誕生した。

 短期間で、かつ、異なる経験や背景を持つメンバーがチームとして機能し、一つのアウトプットを作り上げた成功事例として、以下のポイントが挙げられた。

 

【ポイント】

  1. 共通の理解の醸成
     会議については全部で5回のミーティングを開催。そのうち3回のミーティングを、NORAの活動の目的は何なのか、なぜこの取組が必要とされているのかという経緯と現状の共有、どういう人達にどういう情報を届けるのか、そのための手段としてWEBサイト構築が妥当なのかという議論に費やした。その議論を通じて、メンバー一人ひとりがこのプロジェクトを実施する意義を実感し、モチベーションを持って完遂できる土台となった。 

  2. こまめなコミュニケーション
     異なる経験や背景というだけではなく、業種や生活リズム、繁忙期などもそれぞれ異なるメンバーのため、SNSツールを使用したコミュニケーションがカギとなった。誰かが投稿をしたら必ず反応をするというルールをスタート時に共有し、会議の日程調整や情報共有、フィードバックや作業の進捗報告などをオンライン上でコミュニケーションしながら進めることができた。

 

上記のポイント2つについては、プロジェクト終了後の振り返りで整理された内容である。もちろん、プロボノで実施するプロジェクトに限らず、協働取組のポイントではあるが、異質性の高いメンバーで実施するプロジェクトの場合、より重要になってくると考える。


プロジェクトを終えて

 終了後に関東EPOより、プロボノで携わったメンバー全員に「プロジェクトに参加した理由」「プロジェクトを通じて気付いたこと」「プロボノを依頼するNPO側へのフィードバック」という、3つの観点でアンケートを依頼した。

結果は以下の通り。

  1. 参加した動機
  2. プロジェクトを通じての気付き
    ・「里山とは何か?」という問いに対して、プロジェクトメンバー間の議論を通じ、深い理解が得られたことに感謝している
    ・NPOの取組が、行政や様々な団体、個人が密接に関わって取組んでいることが学べた
    ・NPOの活動の幅が予想以上に広いことが新たな気付きだった
    ・イメージを具体化するプロセスが重要だということがわかった。NPOの依頼内容の明確化と認識共有は時間をかけて丁寧にやるべき。
    ・施策の目的の整理と、施策の内容をひとつのプロジェクトとして実施したが、本来は2つのプロジェクトに分けるほうが良いかもしれない。 
  3. プロボノを依頼するNPO側へのフィードバック
    ・依頼内容が、達成したい目的に対してベストかどうかというところを含めて、企画をしっかり立ててから実施した方が良い。
    ・企業との新たな関わり方を創出することによって、NPOの人的・金銭的なリソースの獲得につながっていくと感じた。企業にとっても、企業活動の幅を広げる機会が多くあると感じた。
    ・参加者の声を収集して、マーケティング活動や広報活動に反映できれば、より魅力が伝わり、新規参加者を獲得できると思う。

 

ポイント

 参加動機について、全員が「内容に興味があった」と回答している。業務として関わるクライアントということではなく、同じコミュニティというわけでもないメンバーと議論を重ね、コンテンツを作成する際には、プロボノとして関わるメンバーが、個人としてそのプロジェクトの内容に関心が持てるかどうか、興味があるかどうかということは重要なのではないだろうか。プロボノメンバーが案件に興味を持っていると議論が深くなり、普段は言葉にすることのない課題意識や理念を説明することで、NPO側の学びにもなる。

 今回、共通の理解を醸成しながら、プロジェクトの目的をとことん掘り下げた。プロボノに依頼するNPOの多くが、このコンセプトが深堀されていない場合が多いと言う。それは、日々の活動の中で、こういった作業をしないからかもしれない。なぜ、これをやるのか。いつ、どこで、誰が、どのようにやるのか。ひとつひとつ言葉にして伝えていくことで、新しい手法の発見や課題の捉え直しが起こる。ここにこそ、異なるセクターが協働することの効果がある。

 

カテゴリ

  • 都市近郊の里山保全
  • プロボノ

実施形式

  • プロジェクト形式

関係者(主体とパートナー)


 

取材:高橋朝美(関東地方環境パートナーシップオフィス)

2018年3月