[国内事例52] 持続可能な地域づくりを促進する人材とは? 2011年11月5日

持続可能な地域づくりを促進する人材とは?

~神奈川県茅ヶ崎市で国際理解教育センターが人材養成講座~

環境基本計画の策定、実施、進行管理のあらゆる場面に市民や事業者の参画を促す流れが全国的に広まっています。そして、環境保全活動に市民や事業者の自発性を生かす試みがさまざまな主体により、各地で行われています。そのような取り組みの1つとして、2004年1月に「(特活)国際理解教育センター(ERIC)」が、神奈川県茅ヶ崎市の環境基本計画をテーマとして開催した講座に参加する機会を得ました。

協働を打ち出した茅ヶ崎市環境基本計画

南に湘南海岸、北部にはなだらかな丘陵地が広がる茅ヶ崎市。市内にはこの恵まれた環境を守り育てるために活動する市民活動が根付いていました。また、市は環境市民会議「ちがさきエコワーク」という市民・事業者と一体となった協働の組織を立ち上げ、環境の調査、学習、体験活動を進めています。こうした動きを背景に、市は1998年に策定した環境基本計画を2002年度に全面改定。従来の「行政主導型」から「市民・事業者との協働」へ大きく方向転換しました。それ以来、環境基本計画が目指す協働を発展・強化するための取組が続いています。(参考:茅ヶ崎市環境政策課のページ

ERICの「プロセス・ファシリテーター養成講座」

ERICは、持続可能な地域づくりを目指してさまざまな主体を結びつけ、社会的合意形成を促進し、各セクターの協働を進める役割を担う人を「プロセス・ファシリテーター」として位置づけ、人材養成の研修を実施しています。このような目的をもって行われる研修は、地域の中に入り込み、実際に体験することで実践的な能力を培うことができます。ERICは、茅ヶ崎市の環境基本計画に関係する市民や行政職員の協力を得て研修会を実施しました。

主体的参加地域評価法を用いた調査・分析手法

研修会場は日本的情緒を表現した映画監督として知られる小津安二郎が定宿とした伝統のある旅館。参加者の中には小津監督が泊まった部屋に宿泊できた幸運な人もいました。参加者は13人、そのうち4人は茅ヶ崎市で活動していらっしゃる方です。実際に環境基本計画に携わる方たちが共に研修に参加していただいたことで、現場の姿が生き生きと伝わり、研修が非常に効果的にできたと感じました。地元の方にとっても外部の人と語りあうことで学ぶことがあったのではないかと思います。

研修内容は「主体的参加地域評価法(Participatory Rural Appraisal:PRA)」という手法の習熟を中心に進められました。本来は5日間で実施するプログラムとのことですが、地域への調査結果の還元を割愛して3日間に短縮して行いました。PRAは1990年代にイギリスで開発された地域調査の手法ですが、地域の実態を客観的に調べ、分析することよりも、住民が主体的に参加する能力を高め、協働を進める働きかけに重きが置かれます。つまり、調査者は当事者と共に現状の課題や可能性を共有し、持続可能な地域社会に向かう協働を促進する媒介者としての役割が求められるのです。

協働の原動力を再発見

研修初日はPRAの基本的な考え方や調査・分析の技術を学んだ後、4つのグループに分かれ、それぞれが1つずつテーマを決めて現状分析。2日めは調査計画を立案した後、主な人物への聞き取りや一般の市民への街頭でのインタビューを行いました。そして、3日目に調査結果を地域に還元するための方法や内容を考え、提示するというものでした。そして、最後に今回の研修で一人ひとりの参加者が得たものをどのように活かすかを話し合い、研修全体の幕を閉じました。

たった3日間の調査でしたが、当事者の方々が一体となり、地域の環境保全活動の取り組みを多方面から調べ、分析することができたため、地域の特性や可能性を共有できたように思います。研修に参加してくださった4人以外にも、茅ヶ崎市役所の方を含む5人の方が協力してくださいました。市役所の方は日曜日にインタビューを受けてくださるくらい熱心な方で驚きました。市民を含め、このように熱心な方がいるからこそ協働が進むのだと強く感じました。

協働を担う人材養成の可能性

非常に密度が濃く、地域調査や環境についての幅広い基礎知識やコミュニケーション能力を必要とする講座でしたが、それだけに学ぶことも大きいものがありました。2002年12月の中央環境審議会「環境保全活動の活性化方策について(中間答申)」においては、地域において多様な主体の協働を促進できる調整能力のある人材の必要性を説いており、さまざまな場で人材養成の試みが行われています。ERICが茅ヶ崎市で行った研修はそのような人材養成を行う上で大きな可能性を持つものであると認識しました。

川村 研治(環境パートナーシップオフィス)