[国内事例56] 地域の活力を生み出す市民風車のパワー 2011年11月5日

地域の活力を生み出す市民風車のパワー

世界遺産・白神山地の麓に位置する青森県・鯵ヶ沢町。年間を通して平均風速6メートル/秒の風が吹き、特に冬場は「地吹雪ツアー」があるほど強い風が吹く日本海沿いの丘に、全長100メートルの市民風車が立っている。ジャンボジェット機ほどの全長を持つ風車は、間近に見るとかなり迫力のある大きさだ。長さ35メートルの3枚のブレードが、大きな弧を描いて日本海からの風を受けて悠然と回っている。

私たちの市民風車

津軽弁で「私たちのもの」を意味する、「わんず」という愛称で親しまれているこの市民風車をしかけたのは、グリーンエネルギー青森(GEA)。循環型社会の実現と地域の自立を目的に設立され、2002年に7月から本格的な活動を開始している青森市内のNPO法人だ。

自然エネルギーを生み出そうという風車の建設自体は珍しくない。現在全国に735基の風車が設置されているが、高額の建設費を市民出資で賄おうという試みはごくわずかだ。「わんず」の建設にあたっては、一口10万円の出資を募り、町内で135人、県内で488人、その他全国各地から合計776人、総額1億7820万円の出資が集まった。「わんず」の発電容量は1500kWで、年間発生電力の370万kWh/年は約1100世帯分に相当する。発電した電力は東北電力が買い取り、利益分を出資者に分配する仕組みだ。2003年2月に運転を開始し、翌年6月には初の配当があった。

自然エネルギーの供給源としては順調な滑り出しといえそうだが、GEA事務局長の三上亨さんは風車を立てること自体が目的ではないという。「市民参加による風車建設を通じて、自分たちのエネルギーは自分たちで選び、つくりだすという仕組みを実現させること。それと同時に地域を活性化していくことがむしろ大切」と市民風車に託す思いを語る。

そうした取り組みの1つが市民風車ブランドの創出だ。地域の自立を実現するには風車をきっかけに鯵ヶ沢の特産品をブランド化することが有効と考え、地域の特産である枝豆の一種の毛豆を「風丸」というブランドに仕立てた。風車の出資者に畑の一坪オーナーになってもらい、直接販売するという仕組み。あっという間に売れ切れたという。

生産者と消費者を顔の見える関係で結ぶ、この取り組みを三上さんとともに進めているは、農産物の販売を手がける企業組合あっぷるぴゅあ代表の柳沢泉さん。種苗業も営む柳沢さんは青森県内の農家とのつながりが深い。東京出身で青森に嫁いだ柳沢さんは、都会の消費者の感覚も地元農家の思いや苦労もわかるだけに、両者をつなぐパイプ役にはもってこいだ。

「うれしい、楽しい、おいしい」

地元青森市で生まれた三上さんは、「中央の言うことを聞いていればいい」という風土を打破しようと、長く労金に勤めた後大学院に入り直し組織論を学んだ。三上さんの組織マネジメントのモットーは「みんなハッピーなマネジメント」。とにかく人とつながること、仲間になることを大切にし、そして楽しんでいる。「人は正しい理屈についていくわけじゃない。うれしい、楽しい、おいしい。必要なのはこの3つですよ」

市民風車の建設・運営という枠にとらわれず、次々と活動の幅を広げ、新しい仲間を引き込んでいく姿には、学ぶべきものが多い。

参考URL

(特活)グリーンエネルギー青森:http://www.ge-aomori.or.jp/

企業組合あっぷるぴゅあ:http://applepure.com/

Report;小島和子