[国内事例61] 千葉県パートナーシップマニュアル~NPO立県千葉の実現を目指して~ 2011年11月5日

千葉県パートナーシップマニュアル
~NPO立県千葉の実現を目指して~

  • あらまし  

 

「千葉県パートナーシップマニュアル」は、県行政がNPOとのより良いパートナーシップを築いていくためのルールとして、平成16年2月に策定された。200ページ以上に及ぶこのマニュアルは、全庁的なパートナーシップ型行政の推進のための仕組みを示しており、職員向けの百科事典として、また県民・NPOにとってのガイドラインとして活用できるように構成されている。マニュアル作成の事務局として携わってきた千葉県環境生活部NPO活動推進課NPO事業室副主幹の山下裕さんおよびパートナーシップマニュアル作成専門委員(以下専門委員)として関わられた環境パートナーシップちばの横山清美さんに当時を振り返り、作成過程や成果、そして今後についてお話を伺った。まず山下さんにお話を伺う。

 

  • NPOとの協働で様々な問題や多様な県民のニーズに応えたい

「NPO立県千葉の実現」これは平成13年4月就任の堂本知事が当初から掲げていた目標だ。これを受けて平成14年11月、市民の視点に立ったより良い地域づくりを進めるために千葉県のNPO施策の根本となる「千葉県NPO活動推進指針」を策定した。この指針は作成段階から、「NPO」について知識の少ない県庁職員もNPOの委員も一緒になって、ともに学びあいながらゼロから作成した。また、タウンミーティングには「福祉」・「環境」・「こども」など様々なテーマで活動するNPOや「NPO支援団体」、市町村、そして企業も加わって意見を出し合った。

この「指針」に記載されている27の行動計画の一つが「パートナーシップマニュアル」の作成だ。「NPOとの協働を通じて行政側が不得手な部分を克服し、様々な課題を解決していきたいが、NPOとどのように協働すれば良いかわからない。またNPOを行政の“安い下請け”と誤解している職員もいる。そこで県では、NPOとのより良いパートナーシップを築くため、このマニュアルを作成した。マニュアルでは、企画立案の過程からNPOが関わることで行政だけでは解決できない様々な課題や多様な県民のニーズに対応するための手法を提示した。またこのマニュアルを活用することで、千葉県の協働を進めていきたい」と山下さん。

配布されたパートナーシップマニュアルの数は約3,000部。平成17年の改定版の配布以降も、随時問い合わせがある。基本的に県庁の各課や出先機関および市町村に配布をし、他の自治体やNPO、企業からも希望があれば配布している。

「千葉県パートナーシップマニュアル~NPO立県千葉の実現をめざして~」作成にいたるまで

平成13年9月 「千葉県NPO活動推進懇談会」
平成14年11月 「千葉県NPO活動推進指針」 策定
平成15年3月 「千葉県NPO活動推進指針一部追加」
平成16年2月 「千葉県パートナーシップマニュアル~NPO立県千葉の実現をめざして~」策定
平成17年7月 「千葉県パートナーシップマニュアル~NPO立県千葉の実現をめざして~」改訂版発行

 

  • 委員会形式によるマニュアルの作成~数々の審議を重ねて~

パートナーシップマニュアルの作成は県庁職員とNPOがともに、議論しつつ作り上げるという過程を経た。具体的なマニュアル作成作業は、推進委員及び外部の専門家によって構成されている「パートナーシップマニュアル作成専門委員会」によって実施された。この専門委員会から提示された内容は、有識者・NPO関係者・企業・市町村役員等から構成される(1)「千葉県NPO活動推進委員会」と庁内の横断的検討組織である(2)「千葉県NPO推進会議」の2つに諮られ作業が進められた。

  • 【図1】マニュアル作成の体制

 

マニュアル作成にあたっては県庁職員対象の「パートナーシップ」に関する公開講座が実施され、行政職員およびNPOを対象としたアンケートやヒアリングによる現状調査が行われた。またマニュアル作成の過程ではより多くの県民の理解を得ようと工夫を凝らしたタウンミーティングが実施された。

 

 


 

 

  • 【図2】マニュアルの決定までに開催した会議の概要(平成15年4月~平成16年1月の抜粋)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事前調査や意見調整を振り返って

「県庁職員向けに協働の実態をヒアリング調査した際になかなか本音が聞けず、無記名で行った職員対象のアンケートのほうが役に立った」と当時の様子を振り返る。意見調整で難航したのはむしろ県の担当課だった。庁内ワーキンググループを作る際には、「なぜ他の課も参加しなくてはいけないのか」という消極的な反応なども当初はあった。しかし県庁職員も、委員も一緒に作成したため、「自分達が作ったマニュアルだ」という意識が生まれ、そのことがマニュアルの利用の促進につながっている。また、県の組織は大規模のため、どうしても縦割りにならざるを得ないが、推進会議が横の繋がりの仕組みづくりに大きな役割を果たしたといえる。

【担当者コメント】
よくここまでハードなスケジュールを実施できたものだと感心してしまった。山下さんが担当者として変わらずに携わったという点も大きいかもしれない。県庁内での意見調整のほうが難しかったというコメントからしても、日ごろからNPO活動推進課とNPOの意思の疎通ができていたのだろうと感じた。

次に県から指名された専門委員の一人で、現在も協働促進委員として関わる環境パートナーシップちばの横山清美さんにお話を伺う。

  • パートナーシップマニュアルに基づく全庁的なパートナーシップ型行政推進の仕組み

その1「パートナーシップ市場」

千葉県パートナーシップマニュアルに記載されている全庁的なパートナーシップ型行政の推進の具体化を図るための事業の一つが「パートナーシップ市場」だ。これは(1)NPOと県との意見交換会(2)協働事業公募説明会(3)県とNPOとの協働事業提案募集の3つを実施する場で、NPOと県が抱えている課題を共有するための場として設けられている。パートナーシップ市場でNPOから提案される「パートナーシップ事業」は、審査を通じて県の事業として採択される。件数は少ないが、毎年実施している。
パートナーシップ事業の課題は、NPOから提案された事業の多くが審査で落ちてしまうことだ。県の一ヵ年事業として考えると、内容的に「達成するのが難しい」あるいは「詰めが甘い」ものが多いためである。この「落とすためになってしまった選考」を「採択に向けての選考」に変えるための「協働促進委員会」の仕組みが平成17年に始まった。この委員会はNPOと県双方のインタープリターの役目を果たす。事前に県・NPO・委員の3者の出会いの場を通じて提案書が修正できることにより、審査でより選考しやすい提案書にするのが狙いだ。提案されるテーマとしては“こども”や“まちづくり”が多い。「NPO課よりも現場を持っている担当課が提案事業内容を見る目は厳しい。とはいえNPOも全て県に合わせる必要はない。大切なのは双方の歩み寄りだろう」と横山さん。


その2「県・市町村・NPOがともに築く地域社会事業」

フィールドを持っていない県に対して地域密着型の事業が実施できるのは市町村だ。地域の課題解決のために「県・市町村・NPOがともに築く地域社会事業」も実施されている。ここでは県と市がテーマを提案し、それに対してNPOが「事業提案」をしている。例えば浦安では県と市が「防犯」というテーマを出し、NPOからの事業提案の公募を行い事業を実施している。

【事業実施の一例】
H15~16:我孫子市:地域スポーツ・商店街、四街道市:子どもがのびやかに育つ環境
H16~17:浦安市:安心・安全、市原市:高齢者の生きがい・安心できる子育て
H17~栄町:地域資源の再発見、西印旛沼流域4市:印旛沼浄化のために市民ができること

 

  • マニュアル作成を振り返って

せっかく作成したマニュアルも使ってもらわなければ意味がない。担当課と専門委員等による「パートナーシップマニュアル職員説明会」が県出先機関のセンターの職員を対象に、ワークショップ形式で継続的に実施されている。あるセンターの主な参加者は「道路、農業」等に関係する職員が多かったが、そこで印象深いのは、参加者から同じような意見が出てくること。説明会では「“NPOとは”の説明から懇切丁寧に始めなくても良い状況をみて、 NPOへの理解が浸透してきているという気がした」と横山さんは語る。
「NPO・企業・行政がともに作ったマニュアルだが、参加していた専門委員は県庁の課題も見えやすく、歩み寄りやすい立場にあったと思う。果たしてそれがマニュアルの作成に参加していないNPOの実情に即しているかが心配だった」と横山さん。「タウンミーティングも実施したとは言え、あくまで参加するNPOの声しか反映されない」と課題を語りコメントが続く。
「指針を作るときから、“県の役割とは何か?”という点でいつも躓いていた。しかし逆に“NPOの役割とは?”と聞かれた場合、自分の団体については語れるが、全体的なことは何もいえないのが現状。もっと自立したNPOが増えていくしかないのだろうと思う。しかし日本の現状では厳しい面も多い。本当は現場のある市町村が率先してマニュアルを利用することが望ましいし、可能であればNPOから自治体に利用を薦めていって欲しいと思う。地方分権が進む中、以前にも増して県・市町村の役割を整理する必要がある。そうしないと県も市町村も責任を取りきれない」
またこのような密度の濃いプロセスを経たマニュアル作りについては「システムが無いところからでもやればできると感じた。県庁の職員に理解がある人がいたからこそかもしれない。NPOが増え、今後2~3年でこの事業が本当に良かったかどうか結果が出ることになると思う。協働の事業が本当に今後も回っていくのか、それとも時代が変わると終わりなのか」とこれからが本番だという点を強調された。
これほどの検討を重ねても、NPOや県民の意見を反映できているのかどうか、また委員として関わったことから周りが見えにくくなったのではないかというコメントを受け、行政とはある程度の緊張を大事にしているのだと感じだ。現場を持っていない県ではあるが、このようなマニュアルの作成に着手できるのは、やはり県ならではといえる。パートナーシップの姿勢を示した県と市町村、NPOそして企業がお互いの強みを活かして今後どう動いていくのか。小さな政府を目指す中で今後も注目していきたい取り組みだ。

 

Report;平 英子@地球環境パートナーシッププラザ(GEOC)