【開催報告】「環境パートナーシップ」の国際枠組み勉強会 Vol.2

開催概要

|日  時| 2025年1月10日(金)13:45~15:30
|場  所| オンライン
|講  師| 大久保規子氏(大阪大学大学院法学研究科教授/EPO等運営委員)
|参加者数| 13名

要約

欧州と日本における中間支援の特徴について

日本の中間支援に対する考え方として、2002年に内閣府が実施した「中間支援組織の現状と課題に関する調査」が参考になります。当時、NPO同士もしくはその他のステークホルダーとつなぐことに主眼がありました。NPOの資源確保、人材確保をどうやっていくかといったインフラ整備が中心であったと考えられます。その後、徐々に中間支援の概念が広がり、NPO法人を支援することだけでなく、「環境教育等促進法の基本方針」では、ファシリテーターの役割、人的・物的資源や情報などを各主体に提供しながら対話の場を創造し、解決策の発見や目指すべき目標への変革を促すといった機能が示されました。

国際的にもいろいろな意味で中間支援組織という言葉が使われています。欧州の従来の考え方として、国家と社会の二元論があります。その間の第3セクターとしてNPOが発展してきた経緯も踏まえて、国家からの独立性を保ちつつ、国家と社会をつなぐ組織を中間支援組織と指すことが多くあります。文化芸術分野、途上国支援などの分野に対して政府が社会に直接介入することを控え、それを補うのが中間支援組織です。

このように、日本とは中間支援の意味が大きく異なっていることが分かります。

オーフス条約に基づくオーフスセンターの設置

環境パートナーシップの国際的枠組みとしてはリオ宣言第10原則が基盤にあります。国際的な市民参加条約としては1998年にオーフス条約が、未加盟国向けに2010年にバリガイドラインが策定されました。SDGsにおいてはゴール16と、国際パートナーシップ目標としてのゴール17が位置づけられています。さらに、中南米では市民参加の地域条約としてエスカズ協定が2018年に締結されました。ちなみに、環境教育等促進法基本方針では、リオ宣言とオーフス条約については触れられていませんが、バリガイドラインとSDGsゴール16と17について言及されています。

オーフス条約は、意思決定に参加するための環境情報と、違反が発生した場合に市民が訴訟をするシステムの必要性を示したものです。リオ宣言第10原則を踏まえ、これをより強力で実効的な内容にするために策定されました。「環境情報へのアクセス権」、「決定への参加権」、「司法アクセス権」の3つの権利をNGOも含めてすべての市民に保障する条約です。生物多様性や気候変動などの分野別の条約と比較すると分野横断的な条約と位置付けられます。オーフス条約を批准した国では、上記の権利保障を実現する必要がありますが、ドイツやフランスに比べると東欧には環境民主主義の伝統がありませんでした。そこでオーフス条約の実効力を高めるために、政策や決定参加を支援する組織としてオーフスセンターが60以上つくられました。

オーフスセンターの設置形態としては、3つあります。1つは、いわゆる公設で、政府との関係が密なものです。形態としては、EPO/GEOCに近いといえます。欠点としては、政府担当者が頻繁に交代する、政府とNGOの関係が希薄になるといったことが言われています。2つ目は、NGOベースの民営のものです。比較的自由度が高いとされます。3つ目は、欧州の安全保障協力機構(OSCE)が、オーフス条約の推進のためのプロジェクトの一環として実施しているものです。オーフスセンターの設置が難しいところに対して資金を拠出するなどのサポートをしてきました。いずれも自律的な運営が重要だとされ、参加型の設置プロセスをとるとしています。NGOと政府とがラウンドテーブルで話し合って何をするか決める、MOUという方式をとり、公設であってもNGOと協議して決めている点が日本と異なっています。基本的には政府とNGOメンバーで構成される理事会に決定権を与えることが推奨されていますが、諮問的機能しかない運営委員にとどまっていることが課題でもあります。専門家やボランティアのスタッフの役割が大きく、司法アクセスに関する活動のために、法律家スタッフが専任で入っているセンターもあることが特徴的です。

 

オーフスセンターから学ぶEPO/GEOCの役割

リオ宣言を踏まえて環境パートナーシップを促進するために作られた組織であるという意味では、EPOもオーフスセンターも同じです。しかし、オーフスセンターの方が、ビジョンや活動内容が明確です。オーフス条約の理念と条文に基づいて、全てのステークホルダーとの対等なパートナーシップを実現させることと、オープンで参加型の方法で行動することが求められます。また、日本は自主的取組を大事にしてきましたが、海外では参加は「権利である」という考えに基づいているため、特定の人や大きな声を上げる人だけが優遇されることのないように、マイノリティの人たちが参加できるようにすることが求められています。これが大きな特徴であると言えます。

さらに、オーフスセンターは,ビジョン・ミッション・バリューが明確です。それが関係者で共有され、MOUで基本的な方針を決定している点は日本との大きな違いです。また、いずれも環境分野の参加の支援に特化している点で、日本に同様の組織はないと思われます。環境政策対話研究所やEICネットがそういった情報共有等の機能を果たす機関として挙げられますが、日本全体としては浸透していません。

日本もリオ宣言を受け、環境基本法を作り、地球環境基金を設置し、30年ほど前にGEOC/EPOが設立されました。設立当時、パートナーシップ3原則として「対等・平等の関係」と「公平な役割分担」の間に「情報の共有と意思決定への参加」が掲げられていました。その点では、オーフスセンターと共通していますが、「情報の共有と意思決定への参加」が弱くなっているように感じます。基本方針の「その他の重要事項」に意思決定への参加を強化することや、連携の在り方の評価、改善をすることが掲げられています。ここで誰がどう担うことを想定されているのかははっきりしていません。そこでGEOC/EPOが改革プロセスの提案をしてもよいとも考えられます。

もうすぐ30周年を迎えるGEOCとしてどこに重点を置くのか、様々なNGOや中間支援組織のコンサルがある中でGEOC/EPOにしかできないことが何かを改めて考えてみます。促進法の活用マニュアルを作ること、公聴会や意見交換会、政策決定の在り方について発信していくことができるかもしれません。エネルギー基本計画等の作成プロセスについて、具体的なマニュアル作成やプロセス支援といったできること、すべきことを議論できると思います。地球環境基金とは密な関係が形成されてきたと思うが、他にはどのような連携があるか、オーフスネットなどとの連携の可能性はあるのか、中間支援機能が広がることは良いが、NPO/NGO支援は十分なのか、政策の中で軽視されていないか、を考えることも重要です。協働取組については、GEOC/EPOがグッドプラクティスを国際発信ができる一方で、参加の部分ではあまりノウハウがないと思われるため、国際連携から学べる部分だと思われます。

(以上)