[国内事例120] まちの力とやまの力で水源地を守る~やまなし水源地ブランド推進協議会~ 2016年3月31日

概要

2012年5月、大都市(東京都、神奈川県、静岡県)の水源である森林を保有する3町村(山梨県早川町・丹波山村・道志村)が、地元企業、大手家具メーカー、中間支援組織が協働で、「やまなし水源地ブランド推進協議会」を設立した。荒廃する森林を抱える水源地、「やま」の課題と、首都圏「まち」のリソースをマッチングすることで、課題を解決し、さらにそれを地域活性化に結び付ける取組。

 

 

経緯

いま、日本の多くの森林、特に人工林が抱える課題は大きい。

日本の国土の約3分の2(約2,500万ha)を森林が占めている。そしてその約4割(約1,000万ha)がスギやヒノキなどの人工林である。これらの人工林は人間の適切な管理が必要だが、安価な外材に圧されて需要が少ないことと、中山間地の過疎高齢化による担い手不足のため、林業が衰退し、森林の荒廃が進んでいる。
参考:林野庁:森林・林業・木材産業の現状と課題

森林の荒廃それ自体も課題だが、その影響で無視できないものは、水源としての森林の機能についてだ。森林が荒廃することは、それはそのまま水の問題にもつながる。

やまなし水源地ブランド推進協議会は、こうした森林の課題に対して、産・官・民・学の連携によって解決し、地域活性化につなげることを目的に設立された。

協議会では、下記五つの取組を実施している。 

 

1)崩壊する人工林び整備促進

2)間伐材の利活用・手法の確立

3)地域の担い手含む林業の復活

4)森林資源を活用した多次産業の開発・振興

5)企業や都市住民含む、外部への情報発信

※協議会HPより

実施状況

  

水源地である山梨県早川町・丹波山村・道志村の3町村が中心となり、地域の林業担い手の連合体であるNPO「木netやまなし」や株式会社イトーキ、公益財団法人オイスカなど、産官民の協働により、東京都・神奈川県・静岡県の水源である山村地域の魅力を都市部へ発信するため、デザイン性の高い家具の製品開発や、製品を通じた「やま」と「まち」の交流の場づくり等、「やま」と「まち」をつなぐ取組を行っている。

 

ポイント

①森林資源×商品開発

前述のとおり、過疎高齢化により体力が低下している「やま」ではあるが、そこには豊富な森林資源がある。その資源を「魅力的な商品」にして広く販売するために、「まち」のリソース:デザイン・商品開発のプロ、大手企業などをマッチングしていることがポイントの一つ目である。協働する企業にとっては、水資源の保全に資する取組みおよびそれに関する自社製品のPRになり、山側については安定的に材が売れ、知名度も上がり、地域が活性化するという好循環を狙っている。また、それらの取組みを中間支援組織として公益財団法人オイスカがコーディネートをしている。

②「やま」と「まち」をつなぐ仕掛け

二つ目のポイントは、その相互交流の仕掛けについてである。製品を開発する、売る、という事業ベースの展開だけではなく、「やま」と「まち」、双方の地域住民に対しての水源地保全と森林課題への関心喚起を見据えている。年に一回行われている協議会のシンポジウムは、現場の山梨県と消費圏の首都圏で交互に開催しており、シンポジウムの内容もそれに合わせて変更している。「やま」で実施するときには、その地域の人に自分の地域のよさを分かってもらうための内容を、「まち」で実施する際には、水源地について知ってもらい、素材の良さを知ってもらう内容を選んでいる。

③製品が伝えるストーリー

これらの交流を含む展開が、「やま」と「まち」のさらなるつながりの深化を生んでいる。2015年10月に東京都で開催されたシンポジウムでは、例として、早川町と品川区が結んでいる「ふるさと交流協定」での活動が紹介された。品川区では、株式会社しながわ街づくり計画と連携し、商店街連合会が主体となり、早川町の間伐材を用いた「ベンチ」を設置。ベンチの形から品川区の要望にこたえて、デザイン、製品化した。製品の設置についても、ペイントワークショップを開催、住民と一緒に作り上げることで、製品に愛着を持ってもらう仕掛けをしている。これをきっかけに、商店街店舗での木材利用にもつながった。

 「やま」の課題は「まち」の課題であり、森と水でつながっている。「まち」のちからで「やま」の魅力を引き出し、水源地を守るだけでなく、さらにその上を目指す取組みは、同じ課題を抱える他の地域にも参考となる。

カテゴリ

 ■森林保全

 ■ソーシャルビジネス・CSR

テーマ

 ■実行委員会・協議会

関係者(主体とパートナー)

取材:高橋朝美(関東地方環境パートナーシップオフィス)
2016年3月