[国内事例118] 世界遺産の松の有効活用を目指す~静岡県立静岡農業高等学校 松葉研究班~


概要

去る平成28年2月13日、高校生による環境活動のコンテスト「第1回全国ユース環境活動発表大会」が初めて実施された。この大会で最優秀となる環境大臣賞を受賞したのが、今回紹介する静岡県立静岡農業高等学校(以下、静農:しずのう)による「三保松原の環境づくりを目的とした循環型松原共生プロジェクト」だ。ユネスコの世界文化遺産「富士山-信仰の対象と芸術の源泉」の構成要素でもあり、日本三大松原にも挙げられる静岡県静岡市の三保の松原。こちらでは赤松林の落ち葉掻きができずに、松枯れがおきているなどの課題があった。世界遺産の松林を守るために、地元の農業高校生が松葉の活用について研究し、地域を巻き込んで保全の活動を広げようとしている。

経緯

 平成23年に、三保のホテルの女将さんより「三保の松原の松が伐採されているのだが、何とか活用できないだろうか?」という話が、静農の生徒にあった。三保の松原では松枯れが問題になっており、松枯れ対策は行政としても財政負担が大きく、松葉も捨てていた状況にあり、もったいないので活用できないかと思った。

 それを聞いた当時の生徒たちが、何か出来ないかと考え、文献を探ったり、聞き込み調査を行ったところ、松葉を漢方のように利用していた話が出てきた。松を色々と分析したところ、松葉にケルセチンという抗酸化作用を持つ物質が多く含まれていることが分かった。こうした有用成分活用することで、松をお金をかけて処分するのではなく、資源として活かす道が見えた。

 静岡農業高等学校には主に、「生産系」、「環境系」、「食品系」のコースがあり、科学的な分析手法なども学んでいる。こうした強みを活かして、食品系の食品科学科の学習の一環として、松葉を食品に添加して、栄養素として体の中に取り入れる方法を検討した。日常的に体の中にケルセチンを取り入れられるような食品という事で、まずは松葉入りパンの開発を行うこととした。松葉成分が多く入ると苦味が出てしまうため、おいしさと効果のバランスが取れる濃度を研究した。出来るだけ細かく、乾燥させることで、独特の苦味を減少させることに成功した。

こうした経緯で、松葉の有効活用ための研究と、地域おこしの活動を両面で実施する「松葉研究班」の活動が、平成23年度よりスタートした。

 

運営方法

●松葉由来商品の開発・販売

松や松葉を厄介者とせずに、資源として活用することで利用が促進される。そのために、静農では松葉由来の食品開発を行うことで、利用の拡大を目指している。静農が開発した松葉を粉末状に加工する技術は、地元の企業に提供しパンや粉茶などに加工され、松葉に血管の弛緩作用があることも分かったので、入浴料も開発し、販売されている。

パンは地元の「シュクール」という店が協力してくれることになり、「松葉食パン」と「三保の富士」というパンをオリジナル商品として製造している。

松葉の回収は、静岡市の道路工事の際に伐採された松から松葉をもらい、原料としている。

地元企業も加わって開発した商品は、三保の松原の土産物店で販売されるほか、年に数回、静農の生徒が三保松原で販売イベントを企画し、海外からの観光客も含め、来場者に販売し、好評を博している。これらの売り上げの10%は、三保松原の保全のために寄付に充てている。

 

クリックして拡大●松葉掻きの活動に参加

 松は、海岸砂地などの荒れた土地でも生育できる先駆植物だ。これは土壌にある菌根菌と呼ばれる菌類と松の根が共生することで、根の能力が拡張されて、他の植物が育たないような環境であっても、効率よく栄養を摂取できるからとされている。マツタケ、松露(トリュフ)なども菌根菌の一種だ。化石燃料が導入される前は、日本各地で木材を燃料として使っており、特に松葉は油脂分を含んでいるために燃えやすく、火を起こす際の焚き付けには最も適していたことから、人々は松葉をとりに行っていた。しかし、ガスや電気の普及に伴って、地域の森林資源が使われなくなると、人が入ることによって成立していた雑木林や松林が荒れてきた。松林も、松葉を人が取らなくなることで土壌が富栄養化して菌根菌が衰退し、また土壌の養分が増えると松以外の樹種が育つ環境となり、植生の遷移がはじまる。松は先駆植物だが、それをずっと維持してきたのは、人が松葉を燃料として消費し、松林がずっと貧栄養の状態が維持されてたからこそだ。

 前置きが長くなったが、地元の市民団体で落葉した松葉を集めており、静農松葉研究班も、不定期で参加している。これは加工用の原料を集める目的よりも、実際に松林に入り、松林の現状を確認することを重要視している。

 

●学童保育の子供達への環境教育

地元の学童保育の子供たちを対象に、環境教育も行っている。子供たちに三保松原の事を聞いたら、あまり関心を持っていないようだった。あまりに身近に存在するため、その価値を認識できていないようだったので、学童の子供達と一緒に、植樹や松葉掻きを行っている。保全そのものというよりも「保全しようという気持ち」を育てる活動だ。地域の保全団体と一緒に行う松葉掻きの活動の際に、親御さんへも参加を呼びかけたところ、多くの方が参加し、親子で松林の現状について理解してもらうことにつながった。

実施状況

現在は活動が6年目に入り、これまで先輩が積み上げてきた活動を、後輩たちが引き継いで継続している。

現在の状況としては、加工品として使用する量よりも、松葉の発生量が圧倒的に多く、より多様な活用方法を模索している。食品開発も継続して行っており、松葉うどん、松葉そばの開発もしている。静農では、食品の製造を専門に学んでいる生徒もおり、高校としても専門の設備を持っていることから、食品科学科の他の生徒の協力も得て、学校でそばを打っている。またうどんについては、近隣の大学と連携して開発にあたっている。

また定期的に販売も行っており、生徒がゼロから販売イベントを企画し、運営などをするのは、非常に勉強になっているとの事だ。販売方法にも工夫を凝らし、入浴料の販売促進を目的に、足湯のイベントも実施した。最近は中国からの観光客も多く、日本人より入浴料を沢山買ってくれるそうだ。

ポイント

成分分析や商品開発などを行うことは、地域のNPOなどが単独で行うことは難しく、農業高校の特性を活かして研究を行うことは、地域に大いに貢献している。また、販売のイベントなども実施しており、農業高校として研究・地域おこしイベントの両方をこれだけやっているところは少ないそうだ。

一方で課題もある。三保地域の人々にとって、三保松原があまりに身近に存在しており、現状で安定してしまっていて、何かしようという機運にかける点だ。みんな何となく松枯れなどについて危機感は持っているようだが、何をして良いか分からないし、何かをする機会もない。松葉掻きを実施する団体もあるが、個別に実施しているものなので、どこかが核となって、全体がまとまって活動できると良いが、高校としては学業優先なので、中心になることはできない。
指導にあたる桜井先生のお話では、「観光客は30分しかいない。松葉関連商品が三保に来なければ買えないような「名物」になって、地元にお金が落ちるようになると良い。世界遺産の構成要素でもある松林を守るためにも、保全の機運が高まっていけば良い。」と語られていた。
世界遺産の構成要素である松林の景観を維持するには、根本的な対策としては、落葉した松葉を出来るだけ回収し、活用することだ。静農の活動が核となり、今後さらに、松林保全の輪が地域全体に広がっていくことに期待が膨らむ。



今回お話を伺った、松葉研究班の皆さん
木村さん、鈴木さん、望月悠花さん、芝塚さん、増田さん、望月桃子さん、桜井先生

 

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関係者(主体とパートナー)

 

 

取材:伊藤博隆(関東地方環境パートナーシップオフィス)
2016年3月