[国内事例113] トキとの共生を目指したパートナーシップ ~佐渡の事例~ 2015年3月4日

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概要

2008年9月25日、10羽のトキが野生に放鳥され、佐渡の空に27年ぶりにトキの姿が復活した。あれから6年以上が経過し、現在では野生下で誕生したトキも含め約140羽のトキが佐渡の自然の中で暮らしている。トキが野生で暮らしていくには、エサ場となる田んぼや湿地、ねぐらとなる里山などが必要である。こうした環境は、人が手を加えることで管理・維持される“二次的自然”であり、全国的に棚田や薪炭林などが放棄されている事が問題となっている。
 佐渡全体でも「トキと共存する地域づくり」をめざし、様々な取り組みがなされているが、今回は“トキ交流会館”を中心としたものと、昨今行われているNPOが実施するボランティア活動についての事例を紹介する。
 

民・学・官の協働拠点:トキ交流会館

IMG_0190S トキ交流会館は佐渡市の施設で、平成16年に条例を制定し運営している。その目的は「人とトキが共生する地域づくりを目指し、地域住民又は佐渡トキ保護センター、各種団体と提携しながら、環境に関する研究、学習並びに体験活動及び交流活動の推進に寄与するとともに、地域の活性化を図るため」(佐渡市トキ交流会館設置条例第1条)としている。

トキ交流会館
佐渡市新穂潟上1101番地の1

館内には、200名収容の大ホール、会議室、宿泊施設があるほか、長靴や鎌などの環境保全整備に必要な道具が揃っており、無料で貸し出しが可能だ。小中学生の就学旅行などの団体利用も可能で、島外から佐渡の観察や環境整備に来る人にとっては、有益な施設だ。

 
トキ交流会館は、一般の観察者などの拠点であるとともに、保全活動や研究を進める民間団体の拠点にもなっており、多くの団体が事務所などの拠点を構えている。

  • 新潟大学 朱鷺・自然再生学研究センター
    ・トキ野生復帰のための生息環境創出,再生シナリオ作成の順応的な検証を通した研究を実施
  • NPO法人 トキどき応援団
    ・行政とは異なる市民の立場で、トキの野生復帰をサポートする事を目的に活動。
    ・市民大学などの勉強会のほか、企業CSRの受入なども行っている。
  • 新潟NPO協会佐渡事務所
    ・中間支援組織としてトキ環境整備事業、地域づくり人材養成研修会、NPO相談等を実施
  • (一財)自然環境研究センター佐渡事務所
    ・生物の専門家として、主にトキのモニタリングを実施
  • (一社)佐渡生きもの語り研究所
    ・認証米農家対象の生きもの調査のための勉強会開催・調査結果の還元
    ・子どもたちの環境教育の一環として、佐渡Kids生きもの調査隊の運営
    ・トキと共生する地域づくり推進事業―佐渡トキファンクラブの運営
  • 佐渡とき保護会
  • 佐渡島加茂湖水系再生研究所
    ・加茂湖の自然再生と周辺地域の活性化に関する研究実践活動
    ・加茂湖を舞台とした環境教育活動
  • 佐渡市 農林水産課 生物多様性推進室 トキ政策係
    ・トキ交流会館の設置・運営。
    ・トキ関連の情報発信 就学旅行等トキ学習受け入れ、トキ保護推進の活動場所の提供、トキガイド養成など

IMG_0167S入居する団体にお声掛けし、現在の状況や課題などについてお話頂いたので、特徴的な話題を挙げてみたい。
・トキの放鳥から6年以上が経過し、野生下での雛も誕生し、100羽以上のトキがいることから、場所によってはトキを良くみるようになってきた。しかし、まだ十分に個体数が回復していないので、まだ注意が必要であるが、地域住民の人に慣れが出てきている部分もある。例えばトキの目撃情報を求めているが、トキを見つけても情報が集まってこない。
・より多くの人に活動に参加してもらいたいが、生きもの勉強会や、葦の刈取りなどの作業の参加者が固定化している。島内の人は勿論だが、島外の大学生など、もっと多くの方に来てもらいたい。
・資金調達などマネジメントで苦労している部分があり、活動をこなす人材の育成も必要
などの声があった。
 

官民協働によるトキのモニタリング

IMG_0157S環境省、(公財)日本野鳥の会 佐渡支部をはじめとしたグループで、ほぼ毎日、トキの出現場所をモニタリングしている。平野部では近隣に住む野鳥の会の方が観察を行い、広範囲が見渡せる山の上からは、環境省のアクティブレンジャーが観察し、平野部と無線でやりとりしながら飛ぶ方向などを確認するとともに、個体数調査を実施している。
観察結果は、「放鳥トキ情報」というホームページで、毎週の観察結果が公開されており、最新の情報を誰でも確認できるようになっている。
トキは、夜は山の中の棚田などをネグラにし、昼間はエサを採るために田んぼや湿地に向かう。このため、朝と夕方はトキが活発に移動する時間であり、観察も早朝の出勤前にボランティアの方が観察を行うなど、その熱意に支えられている部分が大きい。
 

島外からのボランティアコーディネート

 前述のトキ交流会館では、島外の小・中学生の観察会やビオトープ整備体験などの活動支援や、大学性の宿泊研修の受入を行っている。見学を行う際の現地との調整なども、佐渡市の職員の方が対応している。
このほか、荒廃するトキの生息環境を整備するため、首都圏にあるNPOが佐渡でのボランティアを実施している。参加者は学生や若手社会人などが多く、高齢化した地域にとっては頼もしい助っ人であるとともに、参加者も都会の日常生活では決して味わえない体験ができると、双方にとってメリットがある。

  • 認定NPO法人 JUON(樹恩) NETWORK
    都市と農山漁村の交流、森林・田畑の保全を目的に活動しており、佐渡では「トキの島 森林の楽校」として、2002年から新潟大学のトキ野生復帰プロジェクトに協力し、放たれたトキの居場所となる里山づくりを行なっている。
  • 特定非営利活動法人 NICE(日本国際ワークキャンプセンター)
    世界各地のワークキャンプ実施団体と連携し、世界各地からボランティアを募り、佐渡島の南端にある小木町にある『ふるさとの森公園』で森人(もりーと)と共催でワークキャンプを実施している。住民の憩いの場としても利用できるような里山づくりを行う。
  • 村おこしNPO法人ECOFF
    離島の村おこしボランティアをテーマに活動する団体で、大学生の参加者が多い。佐渡では日本の野生のトキが最後まで残っていた岩首地区で活動している。

都会でボランティアを募る団体がある一方、佐渡島内でボランティアを受け入れる体制を整える必要がある。そのうちの一つが佐渡南東部にある“岩首談義所”だ。2007年3月に廃校となった旧岩首小学校を、住民・大学・企業・行政の連携により、地域活性化・交流などを目的に集落に無償貸与され、集落有志で立ち上げた任意団体が施設を管理するほか、地域おこし協力隊のメンバーもこちらの活動を支援している。耕作放棄地に入ってしまった竹の伐採を目的とした竹灯篭イベントなど、島外のボランティアを呼び込むイベント性のある活動を行っている。
 トキが住む里山の環境は、継続して人が手を入れ続けなければ成立しない。佐渡に限らず全国各地で里山の保全が課題となる中、都市農村交流などによる里山保全の担い手の多様化が求められており、継続して佐渡の取り組みに注目したい。
 
 

カテゴリ

■事業協力・事業協定

テーマ

■森林保全 ■生物多様性・自然保護 ■エコツーリズム ■ソーシャルビジネス・CSR
 

取材:伊藤博隆(関東地方環境パートナーシップオフィス)

2015年3月