[海外事例25] 社会貢献からCSR調達へ ~児童労働のないチョコレートに向けて~ 2013年12月12日

菓子業界大手の森永製菓株式会社(以下、森永)と、児童労働に取り組む認定NPO法人ACE(以下、ACE)。両者のパートナーシップが始まった当初は、森永は自社製品の売り上げの一部を寄付する企業、ACEはその支援を受け取るNPOという関係に過ぎませんでした。
両者の関係は2年を経て、『児童労働のないチョコレート』の実現を共にめざすパートナーにまで発展しました。そこに至るまでにはどのようなプロセスがあったのでしょうか?協働/パートナーシップという観点からACEの事務局長 白木朋子さんにそのポイントをお伺いしました。

背景:カカオ生産地の児童労働

2013年9月に発表された国際労働機関(ILO)の最新データによると、世界では1億6800万人、子どもの約9人に1人が児童労働※1に従事していると言われています。チョコレートの原料カカオの主要生産地である西アフリカでも児童労働は大きな問題となっており、日本に輸入されているカカオの80%を生産するガーナでは、100万人以上の子ども達がカカオ生産に従事している(カカオ農園で働かされている)という報告もあります。

協働の始まり

菓子業界大手の森永は、対象商品の売り上げから途上国の子どもたちに支援を行う社会貢献活動「1チョコfor1スマイル」注1を2008年スタートしました。途上国の子どもたち全般へのチャリティーとしてスタートしましたが、数年が経ち新たな展開を検討し始めました。
一方、途上国の児童労働問題に日本のNGOとしては早くから取り組んできたACE。児童労働の実態を企業に知ってもらうために、2008年には『カカオ・チョコレート関連商品のCSR調達に関するアンケート調査』や、企業向けのセミナーなどの開催を始めました。企業が児童労働を取り組むべき課題だと認識してくれているなら、批判をするのではなく協働して課題に取り組みたいという姿勢を持っていたACEは、2009年にガーナのカカオ生産地域での独自の支援活動をスタートさせたことで企業に具体的な協働を提案しやすくなっていました。
そんな両者が協働を検討し始め、森永はカカオ生産に関わる児童労働に正面から向き合う思いを強めていき、ACEは信頼関係を築きながらいずれは児童労働のないチョコレートにつなげたいという思いを持ち、2011年に両者の協働がスタートしました。

協働:サプライチェーンを変えるまで

森永とACEは寄付をする企業と寄附先NPOという関係にとどまりませんでした。2013年には、数量や期間限定で森永の主力チョコレート製品「DARS」などの原料の一部に、ACEが森永の寄附を受けて支援しているガーナの支援地域のカカオが使われるようになりました。支援によってガーナの農村の子ども達の就学率を高めることや農園改善を手助けができ、そこでできたカカオで作ったチョコレートが販売され、また支援が増えるというサイクルが出来上がったのです。その商品パッケージには、これまでの取り組みの成果やこの商品ができるまでの軌跡も紹介されています。

成果:子どもたちの笑顔が増えた

「1チョコfor1スマイル」ではこれまでに、1億2000万円以上の寄附額が集まりました。ACEのガーナでの支援先は現在4つの村に増え、これまでに300人以上の子どもたちが学校に通えるようになりました。ACEの努力はもちろんですが、森永との協働があったことで、これだけ現地での活動を増やすことができたのです。
支援活動を行っていた村の一つ、アシャンティ州のクワベナ・アクワ村では、当初、村の子どもの42%にあたる147人の子どもたちがカカオ農園で働いていましたが、住民に対する啓発、学用品の支給などの支援を3年間続けた結果、ほぼ全ての児童労働がなくなり、カカオ農家への農業訓練により収穫量や収入も向上しました。支援が終了した後もプロジェクトの活動が住民によって継続されています。
森永との協働によって、プロジェクトの支援先を得ただけでなく、副次的な効果もありました。まず、チョコレートの生産の裏側にある児童労働の問題を森永の商品パッケージに記載することによって一般消費者に知ってもらう機会が増えました。日本では、社会的公正性や人権の観点からCSRに取り組む企業が少ないため、こうした情報提供が積極的に企業から出されることは珍しいことです。チャリティーとして始めた活動が、ビジネス(本業)にもつながっている森永の取組事例は、社会的な課題を本業で取り組む姿勢を社会に認知させる好事例となりました。白木さんは、「これまでに考えられなかった変化」だと感じています。
またこれによって、もともと森永のチョコレートが好きな人がこのキャンペーンをきっかけにACEの支援者・応援者となってくれるケースも出てきたそうです。

実現へのハードルを乗り越えるために―関係者全体の理解と協力―

このような協働に至るまでの道のりは決して平坦ではなく、特に支援地域のカカオを使ったチョコレートの生産・販売は想像以上にハードルが高かったと言います。つまり、原料の調達先を変えるということは、社内の商品開発、マーケティング、資材調達など各部署にその意義を理解し協力してもらう必要があります。ACEも、支援先の状況報告や原料調達に関する証明などのために奔走しました。更に、ACEと森永だけではなく、新たな調達先からの原料の流通チャネルの確立などサプライチェーン全体での協力が必要でした。期限どおりに原料が届かないかもしれないという緊急事態にも、商社の尽力でそれを乗り越えました。このように、ビジョン、プロジェクトを理解し、社会貢献として取り組む強い覚悟を持って集まってきた様々な関係者の努力の末に、児童労働のないカカオを使ったチョコレートが生まれたのです。

商品を選ぶ方へ―「消費者として何ができるか。」賢い消費者になる。

ACEの支援者の中には、大企業から寄付を受けることへの抵抗感を抱くかたもあったようです。しかし、白木さんは「消費者としてできることにも注目してほしい」とメッセージを発しています。児童労働のようなグローバルな問題は、企業には当然ながら大きな責任がありますが、消費者にも、そうした社会的な問題を企業が取り組んでいるかどうかを見定め、解決のための努力をしている企業であれば、商品やサービスの選択によって、応援することができる立場にあります。もちろん、その取組が理想をすべて満たした完璧なものではないかもしれませんが、今の努力を評価しながら、更によいものになるように、共に問題を解決していくという考えを大切にしていきましょう。
昨今、若者を中心に、環境保全や途上国支援などを意識して、倫理的に正しい消費行動を実践しようというエシカルな消費者が確実に増えつつあります。企業、NPO,一般消費者、それぞれの立場できる努力をする。そうすることで結果として、社会が変化していくのです。

※1児童労働とは、義務教育を妨げる労働や法律で禁止されている18歳未満の危険・有害な労働のことを指します。
※2「1チョコ for 1スマイル」とは・・・ガーナなどカカオの国の子どもたちが安心して教育を受けられる環境づくりをお手伝いする活動です。支援先は、国際NGO「プラン・ジャパン」と日本のNGO「ACE(エース)」。年間を通して行う寄付に加えて、年1回の特別月間では対象商品1個につき1円を積立て、寄付しています。

※本連携事例は、特定非営利活動法人パートナーシップ・サポートセンターが主催する、第10回日本パートナーシップ大賞、準グランプリおよびオルタナ賞(特別賞)を受賞しました。

取材:北橋みどり(地球環境パートナーシッププラザ)
2013年