[国内事例99] 「静岡発!地域主導型再生可能エネルギーの普及に向けて」 2013年9月30日

概要

2012年12月、静岡でNPOと地元大手企業が連携して、地域主導型再生可能エネルギーの普及に向けた、地域発電会社「しずおか未来エネルギー(株)」が設立された。

これは静岡県温暖化防止活動推進センター(SCCCA)を2004年から運営するNPO法人アースライフネットワークと、静岡県を中心としたエネルギー商社である鈴与商事(株)が共同出資して設立された会社である。この事業の核となる「市民ファンド」の設立に関しては、市民、企業・金融機関、自治体、NPOなど地域の主体が、それぞれの資源を持ち寄ることでネットワークを形成し、エネルギーの地産地消を目指している。

経緯

市民ファンドは一朝一夕にできたものではなく、そこに至るまでには地域の市民、企業・金融機関、自治体、NPOなどが一丸となって、温暖化防止に取り組んできた実績の上に成り立っている。

1997年、京都で第3回気候変動枠組条約締約国会議(COP3)が開かれるのを前に、『「ストップ・ザ・温暖化」静岡県民ネットワーク』(任意団体)が設立された。市民活動として地域で地球温暖化防止活動を続け、2002年にNPO法人アースライフネットワークへと発展、2004年よりSCCCAの運営を行うことで、さらに活発な活動がなされるようになった。温暖化防止は地域全般を巻き込むことが重要であり、環境に関心のある層だけではなく、ごく普通の一般の人に関心を持ってもらうことが重要である。そうした観点から地域の企業と連携し、様々なキャンペーンを企画した。中でもサッカーJ1クラブの清水エスパルスと連携し、一般市民に向けたCO2削減のPRを展開。静岡県の県民運動『STOP温暖化アクションキャンペーン2009』(STOP温暖化アクションキャンペーン実行委員会主催)で、イベント部門エントリー総数128チームの中で見事グランプリを受賞するなど、その取組には定評がある。清水エスパルスは、この他にもSCCCAを特別協力パートナーとし、「エスパルス・エコチャレンジ」と題して様々な環境活動に取り組んでいる。ホームゲーム開催時に発生する5年分のCO2排出権を購入し、日本プロスポーツ界で初めて”カーボンオフセットクラブ化”を宣言するなど、地域に温暖化防止マインドを根付かせることに大いに貢献している。
このように、地域の各セクターが一丸となって温暖化防止に進んできた中、東日本大震災に起因する原発事故や、再生可能エネルギーの固定価格買取制度の開始など、エネルギーの地産地消に関する機運が全国的に高まった。こうした社会背景のもと、環境省が実施する「平成23年度地域主導型再生可能エネルギー事業化検討業務」に応募し、68件中の7件として採択され、市民ファンドを活用した地域太陽光発電所の事業化に向けた調査・研究が本格的に動きだした。この活動の成果として、NPO法人アースライフネットワークと鈴与商事(株)が共同して、事業会社「しずおか未来エネルギー(株)」を設立し、市民ファンドの運営体制が整った。

  • 2012年12月 「しずおか未来エネルギー(株)」設立
    静岡市と協定締結
  • 2013年2月 市民ファンドの募集開始
    発電所着工開始
  • 2013年6月 発電事業スタート

と、事業主体立ち上げから発電開始まで半年足らずと、地域の連携の強さが発揮された。

実施状況

この市民ファンドの仕組みは、市民、企業・金融機関、自治体、NPOなど地域の主体が連携して初めて実現が可能となるものだ。
右図のように、NPOと企業が設立した「しずおか未来エネルギー(株)」が実施主体となり、市民が一口50,000円を出資、静岡市が太陽光パネルを設置するスペースを提供、静清信用金庫が事業評価による融資を行うなど、オール静岡とも言える体制だ。このような出資や融資に対しては、自然エネルギーの買取制度による収益で償還返済していく。静岡県は、日照時間の合計が2011年で2,362時間であり、中でも今回の静岡市は自治体別で全国2位の日照時間であり、太陽光発電に適した地域だと言える。

■市民ファンドによる太陽光パネルの設置状況は下記の通り

設置時期 平成24年度 平成25年度 合計
名称 日本平動物園 日本平運動公園 特別支援教育センター 清水桜が丘高校 西ヶ谷リサイクルプラザ
所在地 駿河区 清水区 葵区 清水区 葵区
設置容量
(kW)
46 50 50 50 20 144
(216)

 

ポイント

地球温暖化を少しでも食い止めるには、エネルギーという誰でも必ず使う基礎インフラを、低炭素型にしていかなければならない。この静岡の取組では、多くの一般市民に人気のあるプロスポーツチームを巻き込むことで、環境に関心のある層ばかりでなく、一般市民に関心を持ってもらう事に成功した。

右の写真は清水エスパルスのホームグラウンドに、今回の市民ファンドで設置された太陽光パネルの解説である。この場所はサッカーの試合の際に、駅からのシャトルバスの乗降場に使われる場所であり、多くの人の目につく場所である。本事業のPRのために、人が多く集まる場所に立地させ、柱もエスパルスカラーにして目立たせるように配慮されている。このように、多くの市民に取組をアピールするための工夫が随所にある。地域の温暖化防止のために、NPO・企業・行政などセクターを超えた強いネットワークがあったことが、今回のようにスピーディーに市民ファンドを活用した地域発電所を立ち上げる事が出来た所以だ。

そもそも、日本でもつい50年ほど前までは、雑木林から得られた薪や炭を燃料にして煮炊きや暖房に使ったり、水車で得られた動力を製粉に利用したりと、地産地消のエネルギーで生活が賄われていた。しかし高度成長期以降、急速に化石燃料が使用されるようになり、それ以後エネルギー資源を海外に依存するようになった。この静岡の事例もその一つであるが、各地で展開される地域発電会社のように、セクターを超えた協働による、時代に即した新しい形のエネルギーの地産地消の取組に向けて活動が今、期待されている。

環境分野

■ ESD・環境教育  ■生物多様性・自然保護 ■大気・水・土壌の保全  ■エコツーリズム  ■エネルギー

協働方法

■事業協力・事業協定

関係者(主体とパートナー)

英語サイト

/english/what/case-studies/1221.html


取材:伊藤博隆(関東地方環境パートナーシップオフィス)
2013年8月