[国内事例87] 広域富士山エリアの協働の取組み 2012年11月1日

概要

日本を代表する山である富士山は、開山期間が毎年7月上旬~8月31日頃であり、この僅か二ヶ月の間に登山者が集中する。近年、中高年の登山者の増加や、いわゆる山ガールなどの新たな登山者層が増加し、富士登山者も近年急速に増加している。このため登山道で渋滞が起きるなど、利用上での課題も生じている。

富士山は、山頂を境に北が山梨県、南が静岡県に属していることから、全山的な保全・管理を行うには、両県及び関係者が連携していく必要がある。富士山関連の協議会などは幾つか存在するが、今回は多くの関係組織が初めて集まったともいわれる、平成23年度から実施されている「富士山における適正利用推進協議会」の取組みを紹介する。

経緯

富士山の登山者急増の内訳としては、環境省が平成23年に実施した登山者アンケートによると、登山経験の少ない人が約6割と多く、ご来光を見て下山する0泊2日の弾丸登山をする人が約3割、軽装備の外国人が多いことなどが分かった。こうした状況下で、登下山道やトイレの渋滞、高山病の発病や転倒、道迷いなどのトラブルも多く発生していた。平成20年ころには地元の関係者や研究者より、富士登山道に標識類が乱立し、利用者への情報提供や景観の点で問題があるとの指摘を受けるようになった。

そこで、乱立する標識類の整理統合を目的として、環境省、山梨県、静岡県が中心となって、平成21(2009)年に国、県、市町村、地権者等27の関係機関からなる「富士山標識関係者連絡協議会」が発足した。これだけの関係機関が一堂に会する場は、これまでになかったとの事だ。そして同協議会では、標識の配置、デザイン・用語の統一、多言語化などの方針を定めた「富士山における標識類総合ガイドライン」と、継続的に適切な標識類の配置を推進するための「富士山における標識類の統合整理計画」を策定した。これらの成果として、写真のように標識類が整理統合され、景観が良くなるだけでなく、利用者にとっても分かり易い案内を提供することが可能となった。標識の数が半減するなど一定の成果を上げた後、同協議会の構成員から「標識類の取組みだけでなく、富士山の問題について広範囲に議論するべき」という意見があり、これまでの協議会を発展的に解消し、富士山の安全かつ快適な利用の推進、自然環境の保全、良好な風致景観の確保を目的として、「富士山における適正利用推進協議会」が平成23年2月に発足した。

実施状況

「富士山における適正利用推進協議会」では以下の目標を掲げ、より広範囲の活動を実施していく予定だ。

①遭難や事故の発生をできるだけ少なくする。
②トイレや歩道において長時間待つことなく、利用できる。
③富士山利用に伴う自然環境への影響をできるだけ少なくする。
④富士山の自然環境や文化をより深く知ることができる。

これらの目標を実現するために、(1)登山者へ提供すべき情報の整理、(2)登山者向けDVDの作成、(3)富士山ガイダンス(旅行会社、登山用品店を対象)の開催、(4)(統一用)チラシ見本作成、(5)webサイトの作成、(6)登山口における情報発信機能強化などを実施検討している。

ポイント

富士山の世界文化遺産登録を目指して、山梨・静岡の両県の連係は進みつつある。標識類の適正な設置という具体的な調整から発展し、全体の適正利用に向けて今後の取り組みが期待される。
こうした県を跨いだ広域のエリアマネジメントに関して、コーディネーター役になれるのは国であり、富士山に関しては大半が国立公園エリアでもあり、環境省の果たす役割は大きい。環境省が調整役を担うことで、特に生物多様性の保全などに関して、後世により良い自然を残していく事に繋がるだろう。関係団体の数が多くなりすぎると不都合な点が生じる可能性もあるが、今後はNPOなどより多様な主体の参加・連携も期待される。

富士山クリーン大作戦

こうした様々な取り組みが実施される中、平成24年8月11日(土)に富士山で一斉にクリーン大作成が開催された。これまでも様々な主体が別々に清掃を開催していたが、今回初めて統一的に実施される事となり、吉田口(山梨県)、富士宮口(静岡県)、御殿場口(静岡県)、須走口(静岡県)、富士山頂、富士山麓(山梨県)、吉田口登山道(山梨県)の7か所において、地元企業や協賛団体など多数の参加により一斉清掃が行われた。オープニングなどのセレモニーでは、レンジャー服姿の細野環境大臣(当時)や静岡県知事も参加した。世界文化遺産という一つの目標が出来たことで、これまで以上に地域で連携しようという動きが高まってきている。

環境分野

■森林保全   ■ ESD・環境教育  ■生物多様性・自然保護 
■大気・水・土壌の保全 ■ごみ・3R・資源の循環  ■エコツーリズム

協働方法

■事業協力・事業協定  ■実行委員会・協議会

関係者(主体とパートナー)

文化庁文化財部、林野庁関東森林管理局、国土交通省中部地方整備局企画部
国土交通省中部地方整備局富士砂防事務所、環境省関東地方環境事務所、
防衛省陸上自衛隊富士学校、防衛省陸上自衛隊北富士駐屯地業務隊、
山梨県観光部、山梨県県土整備部、山梨県森林環境部、山梨県企画県民部、
山梨県総務部、山梨県教育委員会、山梨県警察本部、富士五湖消防本部
富士吉田市、富士河口湖町、鳴沢村、富士吉田市外二ヶ村恩賜県有財産保護組合、
鳴沢・富士河口湖恩賜県有財産保護組合、山梨県道路公社、静岡県くらし・環境部、
静岡県危機管理部、静岡県文化・観光部、静岡県交通基盤部、静岡県教育委員会、
静岡県警察本部、富士宮市、御殿場市、小山町、富士市、裾野市
富士山本宮浅間大社、富士山奥宮境内地使用者組合、富士五湖観光連盟。
富士山吉田口旅館組合、富士山五合目観光協会、表富士宮口登山組合、
御殿場口山内組合、須走口山内組合

参考資料

富士山における適正利用推進協議会
・「国立公園」705号(平成24年7月号)

取材:伊藤博隆(環境パートナーシップオフィス)