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【開催報告】GEOC設立20周年特別企画座談会リレートーク:第1回 市民社会とパートナーシップ」 2016年6月10日

1996年に設立された地球環境パートナーシッププラザ(GEOC)が20周年を迎えるにあたり、日本におけるパートナーシップを振返りつつ、直面する課題、今後の展望、GEOCへの期待について、様々なテーマに基づいて語り合う座談会リレートークを、昨年度から開催しています。このたび、過去の開催分について内容を取りまとめましたので、広くご活用いただくために公開する運びとなりました。


第1回:市民社会とパートナーシップ

|日 時| 2015年12月11日(金)18:00-20:00
|場 所| GEOCセミナースペース
|テーマ| パートナーシップの歴史、市民社会、NPO法、集合的意思決定、参加と対話の場づくり、など
|登壇者| ・黒田かをり(一般財団法人CSOネットワーク理事・事務局長)
・広石拓司(株式会社エンパブリック代表取締役)
・船木成記(尼崎市顧問/博報堂ディレクター)
|司 会| 佐藤真久(東京都市大学教授) |記 録|平田裕之(一般社団法人環境パートナーシップ会議)

写真前列左から、佐藤真久氏、平田裕之、黒田かをり氏、後列左から広石拓司氏、船木成記氏

 

1.はじめに

佐藤氏

第1回座談会リレートークでは、市民社会構築にむけたネットワークの構築に尽力されてきた黒田かをり氏をはじめ、地域における市民能力の向上と地域づくりに献身してきた船木成記氏と広石拓司氏により、「市民社会とパートナーシップ」を振返りつつ、直面する課題、今後の展望を深め、GEOCへの期待を議論すべく開催された。

総合司会(佐藤氏;右写真)から行われた導入プレゼンでは、日本の戦後の見られる高度経済成長期(1955-1975年)と安定成長期(1973-1991)の経験、1990年代におけるバブル景気とバブル経済崩壊についての歴史的背景が紹介された。さらに、1990年代後半において、市民社会構築の重要性が謳われ、1998年に特定非営利活動促進法(NPO法)が施行された背景が説明された。阪神・淡路大震災(1995年)や、東日本大震災(2011年)に直面をし、公共性を市民が紡ぎだす時代を迎えた点が強調された。

その後、各登壇者から、自身の経験に基づく「これまでのパートナーシップ、これからのパートナーシップ」についての発表があり、その後、「GEOCへの期待」についての発表が行われた。

2. これまでのパートナーシップ

2.1. お互いを活かし合うような共創的な場の少なさ

広石氏(右写真)は、「これまで、パートナーシップの経験を十分に有してきていない日本では、課題解決に向けて、共有のビジョンを立ち上げ、多様な知を持ちより、お互いを活かし合うような共創的な場づくりを経験してきていない」と述べ、共創的な場の少なさを指摘している。

2.2. 日本の市民活動には成功体験がない

そして、パートナーシップの推進において、重要な役割を担う行政(自治体、国)自身が、市民の実態を知らない現実、市民を信用していない現実が指摘された。行政の業務がクレーム処理や規制措置であったこともあり、行政には、市民性の欠如が見られる点が指摘された。さらに、「日本の市民活動には成功体験がない」との指摘がなされ、長年の行政主導によるガバナンスが、市民社会の構築を阻害している点が強調された。

2.3. 属性の違いに見られるパートナーシップのギャップ

属性の違いに見られるパートナーシップのギャップについても、議論が深められた。広石氏は、「若い世代はコミュニティの概念が好きであり、求心力を高め、パートナーシップに資すると捉えられがちだが、コミュニティには排他性の危険性も有していることに無自覚であると言える」述べ、世代間のパートナーシップにギャップがあると指摘している。そして、「年配の世代は、社会的な公共性に対してより配慮をしている印象を受ける。若い世代の取組のほうが、パートナーシップが進んでいるとは言えないと思う。」と述べ、日本における歴史的な経験が、「市民社会におけるパートナーシップ」を成熟させているものではない点が指摘された。

一方、船木氏は、「都市部と農村部でもパートナーシップの形態が異なるのではないか。都市部においては、よりテーマに基づく取組が多く、匿名性のある地域性を語れる環境だからこそ、世代間のパートナーシップのギャップが議論できるわけである。」とし、「農村部では、地域の危機感に基づくものがあるため、匿名性で語れる環境がなく、地域の深刻な状況を前に、年代・世代を超えたパートナーシップ議論をしなければならない状況がある。」と述べ、都市部と農村部では、テーマ性と地縁性の差異、地域に対する危機感、地域との距離に差がある点が指摘された。

さらに、「農村部においては、公民館や社会福祉協議会が、地域課題の解決にむけて多様な主体をつなげている事例が多く見られており、マルチステークホルダー・プロセスは、農村部においても普通に見られていること。」と述べ、多様な主体によるパートナーシップは、地域に対する危機意識の高さと、地域との近い距離が、もたらしている点を強調している。

3. これからのパートナーシップ

3.1. 異質性を重視した新しいガバナンスのモデル:マルチステークホルダー・プロセスの重要性

黒田氏(左写真)は、国際的な歴史を振り返り、1992年のリオ会議(UNCED)頃からガバナンスのプロセスに変化が見られている点を述べた。「従来の国連協議であれば、政府による交渉が主であったが、近年では、マルチ―ステークホルダー・プロセスが重視されるようになってきている」とし、マルチステークホルダー・プロセスは、新しいガバナンスとして期待されており、関わる複数の主体が同じ立場として参画し(平等代表性)、異質な人が入ることで起こる化学反応を期待したガバナンスを意味している点が強調された。

2015年9月に発表された持続可能な開発目標(SDGs)のプロセスにおいても、各国政府だけでなく9つのメジャーグループ(企業及び産業、子ども及び青年、農民、先住民族、地方自治体、NGO、科学・技術者、女性、労働者及び労働組合)の意見に配慮していることからも、この新しいガバナンスの形態が読み取れるとしている。さらに黒田氏は、自身の関わる茨城や島根などの事例紹介を通して、地域の内発的発展論においても、近年では外向型の側面(外向型内発的発展)が必要であると指摘し、地域内外の異質性ある主体が関わること、地域課題を中心に置くことで、地域におけるマルチステークホルダー・プロセスの構築が可能になる点が強調された。

3.2. 不確実な社会に求められる共創的な場づくり

近年では、ワークショップやワールドカフェなどが普及していく一方で、東日本大震災を受け「対話疲れ」が見られている。正しい解が見られる時代は、ピラミッド型の組織による意思決定や体制で課題を効率的に解決することができたが、今日の時代の状況は異なる。不確実性が高く、正しい解を導くのが難しい時代において、共に知恵を持ち寄り、新しい解を生み出していくことができる共創的な場づくりが必要とされている。

3.3. 向き合う「閉じたパートナーシップ」から、多様な主体が同方向を見つめる「開かれたパートナーシップ」へ

今日のパートナーシップは「NPOと行政の協働」だけではなく、多様な協働形態も期待されている。「NPOと行政の協働」といったパートナーシップの既成概念をも取り払う必要があり、地域住民は行政のできない部分を埋める存在ではなく、ともに地域課題を解決するパートナーとして、行動をともにすることが求められている。しかしながら、行政は、行政の施策を進める上での都合のいい人材を確保する機会としてみなしている事例も少なくない。今後のパートナーシップにおいては、関わる主体が向き合うことによる「閉じたパートナーシップ」ではなく、共に知恵を持ち寄り、新しい解を生み出していくことができる共創的な場づくりと、地域づくりにおいて同方向(ビジョン、ミッション)を見つめる「開かれたパートナーシップ」を構築していく必要がある。

3.4. 目的や状況にあわせて設計された多種多様なつながり方、出会い方の構築

広石氏は、これまでの文京区、杉並区、目黒区などでの取組への関与を通して、地域とのつながりに変化がみられてきている点を指摘した。子育てを通して地域とのつながりができたこれまでの状況とは異なり、単身世帯の増加や、高齢者の増加に伴い、設計された異なるつながり方、出会い方が必要とされている点を指摘している。このように、地域とのつながり方、出会い方は一種類のアプローチではなく、目的や状況にあわせて設計された多種多様なつながり方、出会い方の構築が必要されている。

3.5. 最大の地域資源は協働力

船木氏(左写真)は、「最大の地域資源は協働力」と述べ、増える社会保障費と減る税収のもとで、多様な主体がともに協働をしていくことが、地域における最大の地域資源であると述べた。さらに、協働に必要とされている社会的な学びは1970年代まで機能していたとし、地域資源である協働力の向上には、社会的な学習の仕組みを組み入れることの重要性が述べられた。

4. GEOCへの期待

「パートナーシップを社会課題解決の手段として用いられることが多いが、多様な主体が関わることを通して、関係性を構築し、共に学び合い、変容をもたらすのであれば、パートナーシップが目的として機能してもいいのではないか」との指摘(黒田氏)を受け、GEOCは、パートナーシップをどう定義するかが重要であるとの意見がだされた。GEOCによる「パートナーシップ」の定義づけをすることを通して、ターゲットが明確になるため、GEOC自身の立ち位置の再確認が重要であろう。

GEOCに関わったことで、「何かが変わるきっかけを与えられれば成功である」との指摘があり、GEOCがどのような変容を促す機会を提供できるかが鍵になると言えよう。

さらに、船木氏は、アーンスタイン(1969)の提唱する「市民参加の梯子」(世論調査、不満をそらす操作、一方的な情報提供、形式的な意見聴取、懐柔、協働、権限委任、住民主導)や、チェンジ・エージェント機能を例に挙げ、多様なパートナーシップの事例の「市民参加の梯子」に基づき読み解き、GEOCの果たしてきた中間支援機能を省察することで、パートナーシップの現況と対策を把握することの重要を述べた。

5. おわりに

「市民社会とパートナーシップ」では、「日本の市民活動には成功体験がない(上記参照)」との指摘からも読み取れるように、日本におけるパートナーシップは、戦後の行政主導のガバナンスの歴史的文脈が色濃く反映されていると言えよう。また、「最大の地域資源は協働力(上記参照)」との指摘は、 天然資源が乏しい日本において、人的資本とその社会的関係資本の重要性を示唆している。

今後、地域資源を最大限に活かしたパートナーシップにおける「協働ガバナンスの在り方」(協働の仕組みづくり、運営制度の設計、協働のプロセスを含む)についても、本座談会リレートークにおいて議論を深めていく必要があろう。2012年に施行された、改正特定非営利活動促進法(NPO法)を通して、法人に関する事務を地方自治体で一元的に実施し、制度の使いやすさと信頼性向上のための見直しや、認定制度の見直しがなされている。公助、共助の社会が求められている今日において、市民意識の醸成と市民性の向上にむけた取組が期待されている。

登壇者略歴(50音順)


黒田かをり/一般財団法人CSOネットワーク理事・事務局長
民間企業勤務後、コロンビア大学ビジネススクール日本経済経営研究所、米国民間非営利組織アジア財団の勤務を経て、2004年より現職。ISO26000(社会的責任規格)策定の日本のNGOエキスパート、CSR推進NGOネットワーク(2009年度)のアドバイザーなどを務める。2010年4月より、CSOネットワークとアジア・ファンデーション(元アジア財団)との事業パートナーシップ契約により、同団体のジャパン・ディレクターも兼任。CSOネットワークは社会的責任向上のためのNPO/NGOネットワーク(NNネット)の幹事団体。

広石拓司/株式会社 エンパブリック代表取締役
大阪市出身。東京大学大学院薬学系修士課程修了。シンクタンク(三和総合研究所、現 三菱UFJリサーチ&コンサルティング)勤務後、2001年よりNPO法人ETIC.において社会起業家の育成に携わる。2008年株式会社エンパブリックを創業。「ワクワクする私たち」が増えるように、知恵と力を持ち寄り、アクションを起こすための対話、コミュニティ運営、社会起業に必要なツールと実践支援プログラムを開発・提供している。自社の根津スタジオ、文京ソーシャルイノベーション・プラットフォーム、すぎなみ地域大学、企業のコミュニティ力向上プログラムなどにおいて、年200本のワークショップを実施。慶應義塾大学総合政策学部、立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科などの非常勤講師も務める。

船木成記/尼崎市顧問/博報堂ディレクター
1989年株式会社博報堂入社後、ソーシャル・マーケティング手法による ビジネス開発業務に携わる。2007年9月より、内閣府政策企画調査官として 採用され(博報堂からの兼務出向)、2008年からは仕事と生活の調和推進室も 兼ね、ワークライフバランスに関する講演経験も多数。 特にソーシャル・マーケティングを専門領域とし、環境コミュニケーション、 市民参加型の地域づくり、観光分野の人材育成、NPO支援、 パートナーシップ構築のプロデュース等数多く手がけてきた。 こうした幅広い経験を活かした、社会運動の企画立案推進に努めている。